「映画がたたかうとき 壊れゆく<現代>を見すえて 

発行・影書房
著者・木下昌明
定価・2200円+税

桑島まさき




 ものものしいタイトルだが、表現ツールの一つである映画は、そもそもそこに描かれている人間の直面する問題をあぶりだし社会に
対してメッセージを喚起する役割を担うべきものである。映画はガハハと笑い楽しむ娯楽の一つである、という意見もそれはそれで
認めるが。
 本書は、映画を通して現代社会を思想的に読み解く著者の四冊目の批評集である。「思想運動」や「社会評論」など政治色の強い
媒体で長年執筆してきただけあり、著者の視点は常に「社会的弱者」=「労働者」の側にある。巷に溢れる凡庸な映画批評とは一線を
画し、作品に向けられる批評眼はすこぶる熱い。
 俎上にあげられるのは、マイケル・ムーアの「ボウリング・フォー・コロンバイン」、ケン・ローチの「ブレッド&ローズ」、
モフセン・マフマルバフの「カンダハール」など深刻な社会問題を内包した作品ばかりで、著者独特の視点で厳しい批評が続く。
 
 「1票のラブレター」(ババク・パヤミ監督/イラン)では、「選ぶ相手をどんな人物か『知ることの大切さ』」をさりげなく
提言した本作を通して改めて民主主義の根幹に関わる問題を提言する。人気者のいる政党だからといって立候補者がどんな人物が
しらずに1票を投じたり、メディアに煽られて人物評価をしたり。すっかり形骸化してしまった選挙の内実を一喝する。
 大ヒットとなった「たそがれ清兵衛」は、主人公の清廉潔白で誇り高い生き方が日本人の情緒を刺激し、作品を悪くいうことさえ
躊躇される向きがあったが、著者は黙ってはいない。武士としての制約(藩命)から逃れられず官軍に敵対する藩の先兵として戦わ
なければならなかったことに対し、「ナレーションは、その側面をさらりとでもいいからふれるべきだった。せめて、どんなに
つましく生きても…その精神が美しかろうと…支配的現実によって時代をのりこえることができなかった悲しみを悲しみとして語って
ほしかった。それができなかったところに、山田洋次の松竹大船調予定調和のドラマづくりの限界があった」と論難する。
 
 “ファシズムに向かう奔流”と著者がいう現代の風潮。誰もが感じていながら認めるのが恐いので何もできず手をこまねいている。
しかし諦めてはいないはずだ。だからこそ、このような著書を読むことに意義があるのではないかと思えてくる。


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