「中条省平は二度死ぬ!」 

発行・清流出版
著者・中条省平
定価・1800円+税

松村清志




 本書は、革命幻想が吹き荒れた1960年代後半、麻布中学3年生だった著者が「季刊フィルム」に発表し、<天才の出現>と世を震撼
させだ幻の『薔薇の葬列』論゛をはじめとする、10代で発表した長編論文と、書き下ろしに上るメモワールを収めて、中条省平の
原点を知る事の出来る本であり、90年代末〜03年までに発表した最近の評論を収めて、成熟した大人の鑑識眼を持つに至った
中条省平の現在を知る事の出来る本となっている。いわば、パースペクテイヴ中条省平の1冊である。
 80年代中期のバブルの頃に「マリ・クレール」文化に乗って華々しくデビューした批評家と思われた中条省平が、実は60年代後半
から70年代初頭にかけて、早熟少年として評論を発表していた事は、これまで知るひとぞしるであったが、本書によって僕たちはその
実績と実力の程を確認できるようになった。批評家としての中条省平は70年代初頭に一度死んで80年代によみがえっていたのである。
007シリーズをもじった書名はそこからきている。
 10代で執筆された長編論文のいくつかは、やはり<天才>と捉えるか、難解ぶっているだけで若書きの未熟な青臭い文章と捉えるか
は意見が分かれるだろうが、書き下ろしのメモワールは,中条省平の自己形成史としてだけでなく、映画評論の変遷史、社会史と
しししししても興味深い。
 世代論が必ずしも有効だとは思わないが、メモワールや「あとがき」で引用されているように、本書は四方田犬彦の「ハイスクール
1968」や坪内祐二の「一九七二」のような、1950年代生まれの世代が、自己形成期を回顧的かつ批評的に再検討した書物として、
その世代こそが最も面白く読める本なのではないかかという気もする。
 ともあれ、映画・ジャズ・文藝・コミックという多ジャンルに渡る評論はいつもながらにさえている。僕も同じ15歳で初評論を
(こっそりと)書いた記憶があるが、随分と差がついてしまった。くやしいがやはり<天才>と捉えるべきか。
 映画以外では、みなもと太郎「ホモホモ7」完全版評と、J.Dサリンジャー著・村上春樹訳「キャッチャー・イン・ザ・ライ」評が、
短い中に中条省平の過去と現在がパースペクティブに凝集されていて出色だと思えた。


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