「『ブレードランナー』論序説」

発行・筑摩書房
著者・加藤幹郎
定価・2800円+税

松村清志


 200ぺージほどを丸1冊「ブレードランナー」の分析に費やした本である。巻末には上下2段組40ぺージの詳細な注もついて
いる。「あとがき」で著者も自負しているように世界でもっとも網羅的な「ブレードランナー」論となっていると思っていいで
あろう。
僕は「ブレードランナー」のファンやマニアではない。82年のプロテ゛ューサー・カット版と92年ディレクターズ・カット版とを、
それぞれ劇場で2度、82年版の方はビデオでもトリミング版で再見している程度で、「ブレードランナー」に対する特別な思い入れ
は何もない。
それでも、本書は一気に読ませるだけの説得力をもった、野心的な論考となっている。恥ずかしながら、僕など単なるオリエンタル
趣味としか考えなかった電飾看板の「協力わかもと」が4年の寿命を定められたレプリカントたちが願望する「強力な若さの源」を
表しているという指摘だけでも「なるほとで!!」と感心させられてしまうのである。
著者は82年のプロデューサー・カット版のほうをより高く評価している。その根拠は直接本書を読んで確認していただきたいが、
1本の映画を丸々1冊の書物として論じた論考としては、例えば作品的には「ブレードランナー」よりはるかに好きな「地獄の黙示録」
(79)を論じて名高い立花隆の論考などよりは、ずっと刺激的で得る物が多いと思えた。
何故なら映画を映画以外のものとして、民俗学、哲学、文学、に依拠して論じていたいた立花に対して、本書はまず映画である事を
踏まえて、「見る」事と「聞く」ことわくリ返しながら、映画技法と映画史の再検討をうながす書物となっているからだ。
「ユニコーン」をめぐるもうひとつの解釈も聞くに値する意見だと思えた。
ともかく、サイバーパンクやディックやリドリー・スコットに興味がない者でも読んでみる価値のある書物であり、「マトリックス」
(99〜031)に批判的な者にとつては必読とも言える野心的評論となっている。


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