「映画狂人 最後に笑う」

発行・河出書房新社
著者・蓮實重彦
定価・2000円+税

松村清志


新世紀の始まりと共にスタートした<映画狂人>シリーズも10冊目の本書をもって終了である。
ちょっと総括的にいってみると(映画狂人)シリーズは、80年代以降に生まれた映画ファンに蓮實重彦というユニークな映画批評家
魅力を伝える事に大いに貢献したといえるであろう。蓮實が3冊の単行本を立て続けに刊行して一躍注目を浴びたのは78年であった
から、もう四半世紀も前である。その当時のインパクトが今ではもう判りにくくなっているのではないか。
 むろん、今でもその当時の著書は文庫本で読めるが、なにぶん長文でいささか難解といった印象はまぬがれてはいない。その点、
この<映画狂人>シリーズは短文が中心で読み易いし、作品評だけではなく書評や対談やインタビューや自選ベストや惹句や映画日記
や映画祭レポートまでが収められていて、蓮實重彦の映画に関する全方位的な運動を知ることが出来る好シリーズとなっている。
 特に、シリーズ最終巻となる本書は6巻の「映画狂人シネマ事典」と並んで蓮實の様々な側面が凝縮された、蓮實重彦入門に最適の
書物となっている。シリーズ未読の読者は、本書と「映画狂人シネマ事典」の2冊をまずは買って読んでみて欲しい。
 本書には追悼文としてかって蓮實の文章の主な発表の場であった「映画芸術」誌の前編集長、小川徹の追悼が収録されているが、
小川徹的な<裏目読み>批評がほとんどなくなってしまった事が、蓮實的<表層批評>の存在意義を弱めているのではないかと思えはする
のである。
 やはり、かっては小川徹あっての蓮實重彦ではあつたのだ。批評の主流が蓮實的な(表層批評)に移行してしまった現在だからこそ、
それと対を成しつつ屹立していた小川徹の復権と復刊をも望んでおきたい。


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