「スター・ウォーズ・レジェンド」
発行・扶桑社刊
著者・河原一久
定価・1400円+税
丸山 哲也
正直に言うと、私はあまり「スター・ウォーズ」を面白いと思ったことがない。1作目は一応リアルタイムで観たが、それなりに
楽しみこそすれ、夢中になるということはなかった。「帝国の逆襲」「ジェダイの復讐」に至っては、1年くらい遅れて、2番館で
観ただけだ。
いったい何がこれほどまでに多くの観客を惹きつけるのか、私には皆目わからない。映画史的に見るなら、単に「よくできた活劇
シリーズの一つ」に過ぎず、それ以上でもそれ以下でもないのではないか。
大半の大手スタジオからソッポを向かれ、20世紀FOXの下で辛うじて製作に漕ぎ着けたものの、誰からも期待されなかった宇宙
活劇が興行記録をことごとく引っくり返すことになったのはなぜか。「スター・ウォーズ レジェンド」と銘打たれた本書において
も、その考察はさほど深く成されていない。はっきりしているのは、「スター・ウォーズ」の成功によって「映画のイヴェント化」
が始まった、ということだ。ただ映画を観るというだけでなく、祭りに参加する、という気分を観客に植え付けたという点において、
「スター・ウォーズ」は記念碑的作品であると言っていい。
もはや、「スター・ウォーズ」はなぜ当たったか、などということはどうでもいいのかも知れない。思えば70年代はそれまで
キワモノでしかなかったホラーが「エクソシスト」によって様変わりし、同じくキワモノだった怪物映画(と言ってしまっていい
だろう、この際)が「ジョーズ」によって大人の娯楽と認知された時代だったのだ。だから、「スター・ウォーズ」のヒットも
そうした現象の一つとして納得しておけばいい。ただ、他のヒット作との違いは「映画の産業化」「ディープなファンの開拓」を、
「スター・ウォーズ」はやってしまった、ということだろう(ジョージ・ルーカスも恐らく意図してなかったはずだ)。
本書「スター・ウォーズ レジェンド」は、「スター・ウォーズ」が登場した「その後」を多方面から観察した、極めて面白い
一冊である。私にとっては、本編より面白い。ルーカスには悪いけれど。
まず面白いのは、20世紀FOXの元宣伝部長、古澤利夫氏へのインタヴュー。初公開当時、なぜ日本だけ、1年以上も公開が
遅れたのかよくわからなかったのだが、その疑問は本書のおかげで氷解した。実に単純な理由だったのですな。また、今のような
メディアミックスや派手なタイアップがなかった時代の宣伝というものがいかに大変であったかという当事者の証言は面白く、かつ
貴重である。なるほど、こんなことをやっていたのか、とか、こんなことがあったのか、といちいち唸ったり、感心したり。
もう一つ愉快なのは、ポスターを手掛けた生頼範義氏や、ノヴェライズの邦訳を手掛けた野田昌宏氏が、「スター・ウォーズ」に
さほど思い入れがないということをあからさまに語ってしまっていることだ。特に生頼氏など「エイリアン」を観て「『スター・
ウォーズ』が吹き飛びました」と正直に(?)喋っているので笑ってしまった。また、野田氏に至っては「スター・ウォーズ」とは
何か?という問いに対して「要するに、ちょっとばかりお金持ちにしてくれた作品というだけ」と言い放っているのだから、恐れ
入る。「レジェンド」という書名とは裏腹に、「スター・ウォーズ」を阿呆みたいに神格化したり、バランスを失して持ち上げたり
するような姿勢が本書にはない。それが実にいい。
また、本書の構成が、1作目の公開から特別編の製作・公開、新シリーズのスタート、そしてDVDの発売と、順を追った形になって
いる上、途中で挿入されるインタヴューがその流れに呼応する形になっているので、「スター・ウォーズ」が巨大な産業として
膨らんでいく過程が手に取るようにわかる。考えてみれば実にアタリマエな作りなのだが、最近は映画監督の研究書や他のシリーズ
ものの本など、中身がゴチャゴチャして読み辛いものが結構あるので、こういう親切な構成は有り難い。
ただ、少々不満な点もある。例えば、黒澤明がムヴィオラの多用によって目を悪くした、という記述。これは本当だろうか?
何かのインタヴューで黒澤本人が「パンフォーカスの撮影のために強い照明を使い続け、そのせいで目を悪くした」と答えていた
ように記憶しているのだが。
それから、せっかく日本語吹き替え版について言及しているのだから、1作目の公開前にニッポン放送の「オールナイト・
ニッポン」で放送された(確かホスト役はツボいノリオだった)ラジオドラマ版「スター・ウォーズ」も取り上げてほしかった。
何しろ声のキャストが、ルークが神谷明、レイアが藩恵子、オビ・ワンが納屋悟郎、モフ・ターキンが山田康雄という、豪華な布陣
だったのだから(ハン・ソロが誰だったかは失念)。
ともあれ、1400円+税というリーズナブルなお値段でこれだけの情報量を持った本というのは有り難い。初公開当時からずっと
「スター・ウォーズ」と付き合ってきた人も、新シリーズ以降の若いファンも、読んで損はないであろう。