「香港への道」
発行・筑摩書房
著者・西本正/山田宏一・山根貞男
定価・2400+税
松村清志
映画は越境する!!。中川信夫からブルース・リーへ、戦前の満州でキャメラマンを志し、戦後、新東宝で一本立ちし、中川信夫監督
の傑作「東海道四谷怪談」(59)を撮ったのち香港へ渡り、60年代以降の香港映画黄金期の確立に寄与して、キン・フー、ブルース
・リーなどの映画を撮った名キャメラマン、西本正がその波乱にとんだ歩みを縦横無尽に語ったインタビューをまとめた1冊である。
インタビュアーは山田宏一と山根貞夫、ともに一流の映画評論家であるので、本書の面白さは保証されているようなものだが、
ひとつだけ、いささかおこがましいが山田の不勉強ぶりを指摘しておきたい。
山田が「最後のブルース・リー ドラゴンへの道」(74)を撮影したホー・ランサン(賀蘭山)というのが実は西本正ていう日本人
キャメラマンであるという事を知ったのは80年の第4回香港映画祭のときであったそうなのだが、これは意外であった。というのは
「ドラゴンへの道」の日本公開当時、ファン雑誌「ロードショー」などでさかんにブルース・リーが特集的に取り上げられていたが、
その時点ですでに撮影したのは西本正という日本人であるという事は知られていたし、本書にも掲載されている西本とリーとノラ・
ミャオ、レイモンド・チョウなどといっしょに映ったスナップなども誌面を何度か飾っていたのである。日本版パンフレットの
スタッフ表でも「撮影・西本正」と記されていたはずだ。
こんな事をくどくど書いてしまったのは、本書に収録された最初のインタビューが行われたのは87年だが、もし山田が「ドラゴンへの
道」公開時に西本の事を知っていれば、10年早くインタビューを行えたのではないかかと思うからだ。そうであれば本書の刊行は
西本の生前に間に合ったであろうし、80〜90年代にかけての香港映画ブームで西本に一役かわせたり、DVDには間に合わなかった
だろうが、LDの特典映像や副音声などで、最後のひと花を咲かせてやる事もできただろうなどと悔やまれもするのである。
別に、通ぶったり先見の明を誇るつもりはないし、詳しくチェックしていないので断言はできないが、プロフェッショナルな映画雑誌
「キネマ旬報」のブルース・リー特集で西本のコメントひとつ掲載されていないのは手落ちではなかったのかと思ったりもするので
ある。
と、エラそうに書いてきたが、実は僕は西本の撮影作品は、日本・香港合わせてもわずか5本しか見ていない。すまん。本書の刊行に
合わせるようにして、福岡の方では西本正撮影作品の特集上映が行われるそうだが、その催しが東京でも行われる事を期待したい。
最後に、謙虚に、西本さん、山田さん、山根さん、ご苦労様でしたといっておこう。