「楽しき没落」
発行・論創社
著者・種村李弘
定価・2000円+税
松村清志
2004年8月に他界した独文学者、評論家の種村李弘(たねむら・すえひろ)の初期評論を含む自選の映画エッセイとロング
インタビューを収録した、種村のランド入門に最適の一冊である。
かくいう僕も本書をそのように、種村ランド入門書として読んだ。100冊を超える著作があり、文学・美術・博物誌・地誌旅行・
書誌など、アカデミズムの枠を超越した知的宇宙を構築するという、この人の文章をまとめて読んだのは、実は今回が初めてで
ある。不勉強を恥じねばなるまい。
本書に収録された文章の中では「キング・コングの図像学」という文が、前述した種村の知的宇宙の特色らしきものをもっと判り
やすく伝えてくれる文として、面白く読み応えがあった。
元々は1977年正月映画の超大作として製作されたジョン・ギラーミン監督の「キング・コング」リメイク作品の公開に
合わせて、創刊された「季刊・映画宝庫」の、丸々一冊「キング・コング」特集号に発表された文章だが、今また「ロード・オブ・
リング」シリーズのピーター・ジャクソン監督の念願の企画であるという「キング・コング」の最新のリメイクが本年公開予定と
なっており、熟語吟味されるべき文である。ついでに本書のセールス・プレゼンテーションの為にも、この文をメインと考えて書名も
「キング・コングの図像学」としておいた方がよかったのではないか。余計お世話かも知れないが。
書名となった「楽しき没落」はビリー・ワイルダーを70年代の2作、「シャーロック・ホームズの冒険」「お熱い夜をあなたに」を
中心に語ったもので、独文学者である著者の、その志向=思考の根底にある明るいデカダンスが読み取れる好ッセイだと感じられた。
本書の原本となった先行する映画評論集「怪物のユートピア」「死にそこないの美学」「夢の覗き箱」の3冊も、いずれまとめて
読んでみたいと思う。