「マカロニ・マエストロ列伝」

発行・洋泉社
著者・二階堂卓也
定価・1800円+税

松村清志


 映画大国イタリアはヴィスコンティ、フェリーニ、アントニオーニ、ベルトルッチといった芸術派の巨匠(チネアスタ)を誇る一方
で、何でもありのパクリ精神で数多くのB級・C級の娯楽映画を専門的に撮り続ける映画職人(チネマトグラファーロ)を多数排出して
もいる。
本書はそのチネマトグラフアーロについてまとめた面白く貴重な1冊である。著者の二階堂卓也はイタリア製娯楽映画好きが昂じて
大学で゙もイタリア語を専攻したという筋金入りであり、イタリア製娯楽映画を語らせて、この人に並ぶものは日本にはいないで
あろう。
本書で大きく取り上げられた20人のディレクターのうち、現在まがりなりにも1流と認められているのはセルジオ・レオーネのみ
で、他には名前を聞いても作品名が浮かんでこないようなディレクターも含まれているのだが、それでも本書はこの上なく面白く
読めてしまった。
個人的には、本書で扱われている60〜70年代の作品を、僕も映画に目覚めはじめた頃に、そうとは意識せずにTV放映でかなり数観て
いるという事が挙げられる。幼少年期へノスタルジーといってしまえばそれまでだが、それだけでなく、名作・傑作ばかりが映画
じゃないという当たり前のことに改めて気づかさせてくるのがいい。初心わするべからずである。B級、C級、ミソもクソもひっくるめ
て、質より量で、トータルで映画を愛するという映画への接し方、つまらない映画、くだらない映画を観て悪口を言うのも実は映画へ
の愛なのだということを思い起こさせてくれるのだ。  
そうして、資料を原語で読めるだけに、これまで日本で痛切となっていた事をくつがえす意外な事実を教えてくれるのもありがたい。
例えば「新・黄金の七人=7×7」(68)の実質的な監督はミケーレ・ルーポであったとか、マリオ・バーバ監督「白い肌に狂う鞭」(63)
の撮影を担当したデビット・ハミルトンは後に有名になったヌード・カメラマンとは全く関係がなく、バーバ自身の変名
(プセウドニーモ)であるとかは、日本で活字になったのは本書が初めてであろうし、極めつけは、公開当時の日本で、白井佳夫、
山田宏一といった個性派評論家に支持された「悪魔のはらわた」「処女の生き血」(共に73)の実質的な監督がアンソニー・ドーソン
(=アントニオ・マルゲリティ)であったということで、B級、C級を連発する最低監督とも思われてきたドーソンの名誉回復の為にも、
この事実は特筆しておきたい。
かって今野雄二によってグラマー・ボーイと讃られたリチャード・ハリスンや、アーノルド・シュワルツエネッガーの憧れのスター
であったスティーブ・リーブスの主演作をまた観たくなってしまった。「マカロニ・アクション大全 増補改訂版」の発行を心待ち
しておこう。


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