「キム・キドクの世界」

発行・百夜書房
編集者・チョン・ソンイル
翻訳・秋邦/南裕恵
定価・2,800円+税

松村清志


 ベルリン、ヴェネチア、世界の映画祭を次々制覇、韓国映画界の奇才、キム・キドク監督。本書はそんな彼の研究本である。
ここ数年の韓流<uームで韓国のスターに関するミーハー本は数多く出版されたが、ひとりの監督の研究本というのは初めてでは
あるまいか。韓国で出版されたものを元に日本でオリジナル編集された本書は「キム・キドクが語る」「キム・キドクを読む」
「キム・キドクを語る」の3章構成で、日本初登場時にほんのちょっと難解で美的でエロチックな作風とフランス帰りという経歴
から、どうせバタイユヤサドといったエロス文学や、美術などを学んだエリートのインテリなのだろうと勝手に思い込んでいた
キドクが、実は中学しか出ていない労働者階級出身で外国語もしゃべれないのに渡仏し、自己流で描いた絵を売りながら生活していた
といったユニークな生い立ちなどを語っているのが興味深く、そうした出自を踏まえた上で彼の作品を再考して見たいと思った。
作品論としてはキム・ギョンウクという筆者による「悪い男」が出色である。名前のカタカナ表記では判別しがたいが、おそらくこの
人は女性ではないかと思う。直接は本文をあたっていただきたいが、このテクストだけでも本書はオススメ出来るものとなっている。
映画は秘密結社の合言葉のようなものでもある。ある作品を「もしかしたらあの映画好き?」というだけでたちまち連帯が生じて
しまうようなタイプの作品があり、「悪い男」はまさにそうした映画なのではないか。僕は「悪い男」が好きな女性とは大いに親しく
したい。色々とご意見を聞かせて欲しいものです。
日本オリジナルで加えたらキドクと宮台真司による「春夏秋冬そして春」をめぐる対談も誤解を招きやすいであろう作家と作品を巧み
にサポートしており、韓国の人達にも読んで欲しいと思わされた。
キム・キドクと一緒に赤信号を渡ってみようという気にさせる本である。


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