「鬼警部アイアンサイド」

発行 : 早川書房
著者 : ジム・トンプスン
訳者 : 尾之上浩司
定価・2,000円+税

松村清志


 
≪ポケミス名画座≫の14冊目はパルプ・ノワールの巨匠ジム・トンプスンが60年代末から70年代後半にかけて放映された人気TV
シリーズをノヴェラゼイションした、話題性たっぷりの作品だ。僕が本書の事を知ったのはリメイク版「ゲッタウェイ」が公開された
93年頃だったから待望の翻訳である。ジム・トンプスンのファンはもちろん、かつてのTVシリーズに親しんだ現在40〜50代の
テレビっ子たちも、まずは必読の1冊である。80年代半ばぐらいまでは再放送されていたらしいTVシリーズの方は、今はちょっと
観る事が出来ないようだが、クインシー・ショーンズによるテーマ曲は「キル・ビル」で使用されたばかりだし、「キル・ビル」で
初めて「アイアンサイド」を知ったという若き映画ファンも是非読んで欲しいと思う。
ちなみに「アイアンサイドのテーマ」は、いささか前衛的な曲も多いクインシー・ジョーンズとしては、「続・夜の大捜査線の
テーマ」やディスコ・ミュージックとして「サタデー・ナイト・フィーバー」と同じぐらい一世を風靡した「愛のコリーダ」と並ぶ、
ポピュラー・ヒットといってよいものなのである。
そんなわけで本書の発行は本当にうれしい。早川書房の川村均さんには心からお礼を言いたい。小説としては、懐かしい60年代
ノヴェラゼイションのような味わい(これをうまく説明するのは難しいが)を持ち、すらすらと軽く読み飛ばせるエンターテイメント
にまとまりつつも、随所にパルプ・ノワールのドストエフスキーと形容されるトンプスンらしい哲学的な視点が秘んでいて、
トンプスンのファンもまずは納得出来る仕上がりであり、トンプスンって暗そう難しそうと敬遠しがちな初心者には入門書として
オススメしたい。ハッピー・エンドで後味はいい。
ともかく、かつて≪ポケミス≫で発行された60年代ノヴェラゼイションの数々、「ナポレオン・ソロ」や「逃亡者」や
「電撃フリント」など古本屋や図書館で読み漁った僕としては、本書の発行はただただうれしくてとても客観的な“書評”は出来ない
のである。


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