「日本映画の21世紀がはじまる」

発行・キネマ旬報社
著書・阿部嘉昭(あべ かしょう)
定価・2,300円+税

松村清志


 「読書する日」「運命じゃない人」「リンダリンダリンダ」「さよならCOLOR」etc… どれも試写状をいただいておきながら、行き
そびれてしまった。マジ、ヤバイッス。今年は(といというか今年も)日本映画のベストテンは選べそうにもない。困ったもんだ。
それでこんな日本映画の評論本の書評≠ネどやってよいものだろうかと考えているうちに執筆が遅れてしまった。松本志依里さん
ゴメンナサイ。
 さて、本書は気鋭の批評家、阿部嘉昭(あべ かしょう)が、2001−2005にかけてあちこちに書いてきた新作日本映画レビューの
大部分を1冊にまとめたものである。取り上げられている作品本数はおよそ380本、そのうち僕は役3分の1ほどしか観ていない。
お手上げですと言うべきだろうか、いやそれだからこそ本書をとても面白く興味深く読むことが出来たと、あえて言ってみたい。
何しろ本書で扱われている作品のうちメジャー系で全国公開されたものはごくわずか、ほとんどはレイト・ショーも含む単館系、
そのうちかなりの数はデジタル・ビデオで撮影された作品なのだ。かなりの日本映画マニアでなければ劇場公開では観ないし、そんな
作品の存在すら知らないであろうものなのである。(僕も知らなかった作品がいくつかあった)封切で観逃してしまうと2度と
スクリーンで観る機会がないであろう作品たちなのである。
 では、要するにビデオ・ガイドとして本書をオススメするのかといえば、必ずしもそうとは言い切れない。かつてのヴィム・
ヴェンダース監督「ニックス・ムーヴィー」(78)でスクリーンの片隅に映し出されたビデオ映画について、ニコラス・レイの体を
蝕むガン細胞のように映画を蝕むガン細胞であるという評言がなされ、ヴェンダース自身が「うまい形容だ」と感心していた時代が
あったが、今やそうした考え方が通用しないのは言うまでもないだろう。
「風の谷のナウシカ」(82)の腐海のようにとまでいえばちと大げさだが、ビデオもしくはデジカム映像は死につつあった映画の
生命力をよみがえらせた、新たな遺伝子なのであると解釈すべき時代なのではないか。
 だが、では具体的にビデオという新たな遺伝子の導入によって映画がどのように変化したのかという事を、きちんと論じようとした
批評はこれまでほとんど無かったように思う。
 僕は何より本書をそうした書物として興味深く読んだ。新世紀の幕開けを飾るにふさわしい気鋭の評論だといえよう。「21世紀が
はじまる」という書名にふさわしい1冊なのだ。
 しかし、こと「日本映画」に関する限り僕の観たわずかな範囲では、また例えば最近の僕のお気に入りの「ターネーション」などの
ような新たな表現の地平には到達し得ていないように思えもするのである。
 ともあれ、僕がほとんど評価していなかった「たそがれ清兵衛」(04)についての高評を説得力を持って読ませるだけの力量を
持った阿部嘉昭は手ごわい論客である。今後とも「日本映画」にこだわって書きついでいって欲しい。


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