「キング・コング」
発行・東京創元社
著者・エドガー・ウォーレス&メリアン・C・クーパー
訳者・石上三登志
定価・600円+税
松村清志
ピーター・ジャクソン監督による2度目のリメイクというか3度目の映画化作品がまもなくお正月映画の超大作として公開されようと
している「キング・コング」、本書はその最初の映画化作品と同時進行で執筆されたノヴェラゼィション(小説化)の翻訳である。
作者として名前を連ねているのはエドガー・ウォーレスとメリアン・C・クーパー、プロデューサー、監督であるクーパーの方は
映画フアンなら多分ご存知であろうから、ウォーレスについて少し説明を加えると、20世紀初頭にイギリスで大人気であった
エンターティンメント・ミステリーのベストセラー作家であり、時の皇太子も彼のフアンであったと伝えられている。後に駆け出し
時代のキャロル・リード(「第三の男」)の演劇の師匠でもあったという映画界と因縁浅からぬ人だが、今ではほとんどその名を聞く
ことはないし、その小説を読むことも出来ない。「ゴジラ」の香山滋のように「キング・コング」の原案者としてのみ、その名前を
残していく事となるのであろう。(ちなみに僕は必殺仕掛け人ものの「正義の四人」は読んだ事がある。池波正太郎に影響を与えたか
どうかは定かではないが)
さて、本書は゛冒険小説゛としてまずは水準に達した仕上がりである。映画と同時進行で執筆されただけに完成した映画との微妙な
違いもあり、そこらを比較検討してみるのも興味深い。
訳者は映画評論家で゛キング・コング゛の大家でもある石上三登志で、巻末にはその石上がリメイク版公開の際に発表した2本の
エッセイが収録されており、この<ゲテ物>が映画史上に占める偉大な位置や、何故多くの人がこの<猿芝居>に誘われてしまうのかを
判りやすくレクチャーしてくれる好読物となっている。
しいていえば「美女と野獣」の寓話としてのキング・コングは、ピーター・ジャクソンのようなぶさいくでデブでモテないオタク男
が自己を投影できるキャラクターであり、女性の側からすれば゜ピアノ・レッスン」でハーヴェイ・カイテルが演じた゛原人゛を拡大
してみせたようなキャラクターであるのかも知れない。
「映画秘宝」誌12月号特集での゛オリジナルは男の子の映画、リメイクは女の子の映画゛という指摘は的を得ているように
思われた。ピーター・ジャクソンは新作でそこらあたりをどのように止揚してみせるのか、大いに期待しつつ公開を待つとしよう。