「ゴダール革命」
発行・筑摩書房
著者・蓮實重彦
定価・2300円+税
松村清志
革命的映画作家を革命的批評家が論じた革命的な1冊と取りあえず言っておこうか。あるいは芸術史上もっとも手ごわい作家を批評
史上もっとも手ごわい批評家が論じた手ごわい1冊とでも言うべきか。
゛青春の季節゛としての60年代を疾走した゛夏のゴダール゛ではなく、80年代以降の゛秋から冬のゴダール゛を論じた文章を
中心に編纂された、蓮實重彦のゴダール論集成である。゛政治的裏目読み゛とは無縁の地平で゛映画的至福と快楽゛をもたらすもので
あった゛夏のゴダール゛から遠く離れてしまったゴダールは僕にとっては゛楽しい知識゛ではなくなってしまったが、本書も他の蓮實
の著作のようには゛楽しい知識゛として読みこなせるものではない。「あとがき」で自身が述べているようにこれまでの著作とは一線
を画した書物である。
かって僕は蓮實の書物に初めて接した時、その魔術的文章による「超論理」を、ある種の「探偵小説」──例えば、
G・K・チェスタートンや小栗虫太郎──のような一流の言語によるトリックを思わせると述べたことがあったのだが、本書を読んで
久しぶりにそのことを思い出した。さすれば、本書は映画からあまりに多くのものを盗み、あまりに多くのものをもたらした怪盗
ゴダールの正体を、名探偵、蓮實重彦が解明しようとする「探偵小説」のように読まれるべきかも知れない。
ともあれ、かっては同時代にテロリストが投げつけた瞬間爆弾のように受け止められていたゴダールという存在が、映画がそうで
あるように時空を越えて仕掛けられた時限爆弾であった事はもはや明らかであろう。
本書は退屈と同義のようにサスペンスフルな書物であり、映画はゴダールを持ってしまった幸福と不幸を同時に生きねばならない
し、批評は蓮實重彦を持ってしまった幸福と不幸を同時に生きねばなるまいと思うのだ。