イグビーの帰る場所……「17歳の処方箋」

                                                                               桑島まさき



 懐かしい感覚を思い出させてくれる作品だ。一人ぼっちは恐いのに、見捨てられたくないのに、周囲の人々、とりわけ親や教師に
反発し浮いてしまう。集団からはみ出したくないのに訳もなくイラつき、その原因を社会や大人の世界の欺瞞のせいにし自分の行動や
言動を正当化しようとする。傷つくのが恐いから逆に人を傷つけてしまう。青い時代の日々の危うさ、ガラスのように脆い感情の揺れ
動き、通り過ぎた者には懐かしい青春の日のはちきれんばかりのエネルギーとひりひりと胸をしめつけるような痛み…。
 青春小説の金字塔として読み継がれているサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」の現代版と評価された本作。17歳の主人公
イグビーをキーラン・カルキンが好演する。 

 アメリカのとある町の裕福な家庭の次男として生まれたイグビーは、エリートの兄オリバー(ライアン・フィリップ)にかすかに
コンプレックスを抱いているが、一番イラつく存在は一家の女王として絶対的な権力を誇示する母ミミ(スーザン・サランドン)の
存在だ。父ジェイソン(ビル・プルマン)はストレスに負け神経症をわずらっている。イグビーは父の哀れな姿に自分の将来を重ね
合わせ、何でも自分の言うとおりにならないと気に食わない母への畏怖を強くし、ことごとく母に反抗する。兄は醒めた目で家族と
距離をとりわが道をいく。経済的に恵まれた家庭でも、イグビーのモヤモヤとした心を諌めてくれる家族は誰もいない。つまり、
バラバラ。
 トラブルを起こして高校を退学になったイグビー。未来に期待は抱けない。ともかくバラバラの家をでて自分の力で生きていきたい。
しかし母がどこまでも自分の前に君臨する…。

 名付け親のD・Hの紹介でしばらくアルバイトをすることになり解放感を味わうものの、知り合ったD・Hの愛人レイチェルと関係を
もち親切にしてくれた彼との関係をこじらせてしまう。レイチェルの仲間を手伝いドラッグの売人をしてみたり、その結果レイチェルは
ドラッグのやりすぎで瀕死状態になる。スーキー(クレア・デインズ)と知り合い寝たものの、彼女の心を兄に奪われたものだから
ヤケくソ。もがき苦しんだ挙句、スーキーや兄との関係までギクシャクさせてしまう。何をやっても巧くいかない悪循環の迷路に
はまったイグビー。どこで歯車が狂ったのか若く未熟な17歳に問題を解決することはできない。誰かに助けてもらいたくても自分で
蒔いた芽は次々に人々を困らせていく。こんなはずじゃなかった、どうして僕の人生はこんななんだ…イグビーの悲痛な叫びが
聞こえてきそうだ。

 末期ガンの母の望みどうりイグビーは兄と二人で殺す。自分の人生を支配した(?)はずの母なのに、冷たくなった母に
しがみついてイグビーは悔恨の涙を流す。失ってはじめて人はその存在の大きさに気づくものだ。父は精神病院、クールな兄は
イグビーとも今後も距離を置いて生きるだろう。母は死んだ。イグビーの帰る家はどこに? 
 イグビーは旅にでる。退学、仕事ナシ、彼女にフラれる、見守ってくれる家族もナシ。でも、イグビーはもうバカはしない。
そんな期待を抱かせる結末は嬉しい。


 *9月11日より 銀座シネパトス、お台場シネマメディアージュにて公開予定


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