『最近見た映画〜「パッチギ!」「アレクサンダー」「ネバーランド」「ライフ・イズ・コメディ」「恋は五・七・五」
松村清志
「パッチギ!」─在日韓国人や朝高に対してあまりいい感情を持っていないが、それでも「イムジン河」が流れるクライマックス
では泣いてしまった。コテコテでメリハリの効いた面白くてためになる、マリオ・ヴァン・ピープルズの造語を借りれば、
エディケーショメント(教育的娯楽)とでも呼びたい作品である。井筒和幸の代表作となるであろう。
脚本の設定でうまいと思ったのは、主人公を敵対する朝高の番長アンソンよりは1つ年下の、しかも不良ではない文化系の少年に
した点だ。この設定によってツッパリや不良が苦手な軟派系の観客も、感情移入がしやすい映画となっている。「ビー・パップ・
ハイスクール」が嫌いでも楽しめる映画なのだ。主人公が文化系なのでフォーク・クルセイダース(略・フォークル)の歌曲の使用も、
物語にうまくとけ込んでいる。
長らく放送禁止になっていたという「イムジン河」だが、ギターの教則本には掲載されていて、僕などもギターを覚えたての頃は
よく歌っていたものだ。(イムジンガワではなくイムジンガンと歌っていた)ちなみに編中、オダギリジョーの歌で流れる「悲しくて
やりきれない」は、「イムジン河」の発売を中止されたフォークルが、「イムジン河」のメロディーを逆回ししたものに歌詞をつけた
曲である。
ライブハウスに登場するオックスはそっくりショーではなく後姿だけで見せたほうがよかったのではないか、オダギリと光石研の
キャラはいささか作り過ぎではないかとか、少し気になる点でもあったが、老若男女問わず楽しめるエディケーショメントとして
オススメしたい映画である。名画座落ちしたらフォークル唯一の主演映画、大島渚監督「帰って来たヨッパライ」(68)と2本立てを
組んで欲しい。
「アレクサンダー」─オリバー・ストーンとしては失敗作、新境地開拓ならずで、コリン・ファレルに王者の風格はなく、
アンジェリーナ・ジョリーとの演技のからみがほとんどないのも物足りない。いまさらアレクサンダーはバイセクシャルであった
などという視点を持ち込んでも目新しくはない。ヴァンゲリスの音楽も控えめで、全盛期の「炎のランナー」(81)
「ブレードランナー」(82)のように、キャッチャーなメロディーで盛り上げて欲しかった。
と僕は思ったが、ゲスト・ライターの国弘よう子さんとお話ししていたら、アレクサンダーは33歳で亡くなっているのだから、
コリンの若さでいいし、世界統一を志しつつも、異文化を亡ぼすのではなく、異なる文化や宗教をそのまま残し、異人種の女性とも
交わるあたりがよく、オリバー・ストーンの、現在のアメリカに対するメッセージが込められているのではないかという意見で
あった。なるほど。意外と女性の方が楽しめるのかも知れない。まっ、見てやっておくんなさい。
「ネバーランド」─ジョニー・デップが「ピーター・パン」の原作者、ジェームス・バリに扮した「ピーターパン」誕生秘話と
いうべき作品で、今年のアカデミー賞の有力候補のひとつといわれている。監督は「チョコレート」(02)のマーク・フオスター、
単なる童心賛歌ではなく゛ネバーランド゛は同時に死の世界への入り口でもあるといった視点が感じられる大人の映画である。
ケイト・ウィンストレットは古き時代の新しい女性という役柄が柄についてきた。ジュリー・クリスティもまだまだ魅力的だし、
「フック」(91)のダスティン・ホフマンが演劇プロデューサー役で出演しているのも興味深い。秀作である。
「ライフ・イズ・コメディ」─名コメディアンにして名優であったピーター・セラーズの伝記映画。ジェフリー・ラッシュが
セラーズ、シャーリーズ・セロンがその妻であったブリット・エクランド、うまく似せて演じているし、時代色や撮影現場の再現など
もよくできているとは思うものの、見終わった印象としてはTVムービー程度といったところであった。監督がジーン・ハックマン、
モーガン・フリーマン、モニカ・ベルッチというスターを並べつつもなんとも凡庸なフランス映画のリメイクを作ってしまった
スティーブン・ホプキンスだから仕方ないか。
水準には達しているものの、やはりケーブルTVで観るのに適した映画といった仕上がりである。本作公開に合わせてほとんど観る
機会のないセラーズ主演作を、レイト・ショーあたりでセット上映してくれればありがたいとは思う。
「恋は五・七・五」─゛俳句とは 日本古来の ラップかな゛毎夏開催され、すでに10回を越えたという、高校生の「俳句甲子園」
を題材とした「バーバー吉野」(02)の萩上直子監督の劇場用映画第2作である。そこそこ楽しめるが、「ウォーター・ボーイズ」(02)
「スウィング・ガールズ」(04)の矢口史靖のように、彼女もまた小型版の周防正行のようになってしまった、という気がしないでも
ない。この窓の人も鬼畜の人も世渡りがうまいといえるのだろうが、PFF出身監督の相次ぐ周坊化現象を率直に喜んでいいものか
どうか。
本作ではキャンディーズの歌曲を使用しているが、それが例えば「パッギ!」のように必然性を持って作品に則しているとは思え
ないのが弱い。キャラもいささか紋切り型ではあるまいか。試写で見させていただいたのは110分以上のヴァージョンであったが、
最終的に編集でもっと短くするとの事で、その方がよいと思えたのはまだまだは萩上の構成・演出力の未熟さであろう。
編中、ヒロインのパンツが見えるシーンがあったが、いくらなんでも今時の高校生の女の子、しかも帰国子女が、あんなダサイ
おばさんのようなパンツをはいているわけがない。もっとキュートかつセクシーなパンツを見たかった。残念。
P.S)1月30日発売の「映画芸術」最新号に「隣人13号」「トニー滝谷」のミニ・レビューを書かしていただきました。そちらもご一読
のほどを。