ある青春 …「69 sixty nine」
桑島まさき
青春とは若さとバカさを併せ持ったエネルギーの発露である。人それぞれの青春がある。人気作家・村上龍が87年に発表した
エッセイ風小説「69 sixty nine」は作家の自伝的要素を濃くし、作家自身の人気やユーモラスな作風が効を奏しベスト
セラーとなった。村上の作品は既に「限りなく透明に近いブルー」(79)「だいじょうぶマイフレンド」(83)「ラッフルズホテル」
(89)「KYOKO」(96)「昭和歌謡大全集」(02)など数多く映画化されている。それを考えると、人気作家の自伝的作品が
これまで映画化されなかったことに驚きの念を禁じえない。
76年、村上は武蔵野美術大学在学中に「限りなく透明に近いブルー」で群像新人賞と芥川賞をダブル受賞し、たちまち“時の人”と
なり世間を驚かせた。実は、その7年前の69年、故郷である長崎県佐世保市でも村上は校内を騒然とさせ市民を驚かせている。
物語は69年。市内で伝統と実績を誇る進学高(村上の母校で作中でも「佐世保北高」となっている)で仲間と組んで夜中に校内へ
忍び込み、学校のバリケード封鎖を試みた。60年代は闘争世代だ。世界を牽引していたアメリカは戦争に負けたことがないことに
驕りベトナム戦争に乗り出し泥沼状態にのめりこんでいた。前の年の68年、物語の舞台である基地の町・佐世保にはアメリカ海軍の
原子力空母エンタープライズ入港にあたり、反対市民が抗議行動をおこし機動隊と衝突した。69年には東大安田講堂で学生たちと
機動隊が衝突した。ベトナム戦争は長期化し、反体制運動は過熱し、世界中で、ロックとマリワナで若者たちはフリーダムとラブと
ピースを訴え、彼らは<フラワーチルドレン>と呼ばれた。
日本は戦争には負けたが、戦後めざましい経済発展を遂げ高度経済成長期にハイっていた。生活が豊かになり、思想や言論の自由が
伸びやかになった。暇とエネルギーを持て余した若者たちは、世界の潮流を鋭く察知し感化された。
主人公は、原作者・村上=佐世保の高校生・ケン(妻夫木聡)。ケンや仲間のアダマ(安藤政信)やイワセ(金井勇太)達もそんな
若者の一人だった? 基地の町で青春を送っていた彼らは、「想像力が権力を奪う」をモットーに体制に確かな思想をもって権力に
たてついていった! …とくると骨のある青春映画となるところだが、全然違う! 彼らがバリケードを封鎖したのは何の目的も
ない。
ただ、目立った行動をとり女の子にモテたいがために思いつきからでたものだ。事実だけにさぞかし迷惑な事件だったことだろう。
校内のあちこちに落書きがされ、机も椅子もめちゃくちゃ、ガラスは割られ、とても授業などできる状態ではない。
原作では面白おかしく書かれているが、これは犯罪である。当然の如く、警察の捜査が入りマスコミは市内の伝統高でおきた
この事件を大々的に伝え市民を驚かせた。村上の分身であるケンはこの事件の首謀者、つまり村上は自分の青春時代の行き過ぎた
イタズラを、作家デビューした後に小説という形で発表しているのだ。恐らく一度は書かねばならなかったテーマだったのだろう、
作家として。
ともあれ、村上は69年に故郷の人々をアッと驚かせる行動にでた。人騒がせな男だ! しかし、迷惑を被った佐世保人には悪いが、
又、問題行動を肯定する気もさらさらないが、「村上龍」という作家のタダモノではない何かを感じるのも確かだと付け加えて
おきたい。
映画は原作同様、そのハチャメチャな暴走するおバカな青春をユーモラスに疾走感溢れるテンポで描く。バリケード封鎖事件を
除けば、よくある高校生の物語…好きな女の子をおっかけ、仲間とバカばかりやり、音楽を聞き映画をみて、ケンカもすれば勉強も
して、考えることは女のことばかり…だ。ケンたちが計画的にやったのは、映画と演劇とロックが一体となったフェスティバルを開催
すること。
高校生ケンとその仲間の佐世保の暑い夏。長崎地方の夏はとりわけ湿気が多くねっとりとして暑い。その熱気同様、彼らの迸る
エネルギーと汗とおバカぶり。右肩あがりの日本経済にあやかるように彼らのノビノビ度も加速した。それが許された年…それが
69年という時代だったのではないだろうか? お気楽に決行した「事件」が思わず展開となり相応の処分が下された訳だが、ケンたち
にとってはしっかりと苦く熱い思い出として刻印されたことだろう。
当時流行した音楽や映画やファッション、時代を象徴するものが昭和という時代を懐かしく思い出させる。問題行動ばかりおこし
教師から目をつけられているケンはなぐられてばかりいる。ケンを演じる妻夫木の佐世保弁もなかなかイイ。
時代は昭和から平成へ。ふざけすぎた青春ではあるが、閉塞した現在にあっては眩しく感じるのは筆者だけだろうか。勿論、
バリケード封鎖などお薦めはしないが。売れっ子脚本家、宮藤官九郎は又してもいい仕事をした。
*7月10日より 全国東映系にて公開予定