バフマン・ゴバディ監督来日記者会見レポート

                                                                           桑島まさき
                                
                         



イランのクルド人監督バフマン・ゴバディが、新作「わが故郷の歌」のキャンペーンのため来日し、1月29日、東京にある岩波
ホールで記者会見を開いた。
 監督にとっては2度目の来日となる。68年生まれのゴバディは監督は、くりくりとした目の可愛らしい印象を与える好青年だ。
「私は故郷の小さな映画館で日本のクロサワ映画を観て育ちました。クロサワ映画に代表されるかつての日本映画は、人間のため、
人類のために、心を揺さぶる感動を与える映画ばかりでした。だから私は日本に来れることをとてもワクワクしておりました。
だからたくさん質問をして下さい。着いたばかりですが全然疲れておりませんので」
 映画少年がそのまま大きくなったようなゴバディ監督は、恥じらいがちに会場に集まったマスコミを前に語った。
 簡単に本作のあらすじを紹介しておこう。
 舞台はイライラ戦争終結後の両国の国境地帯。クルド人であるならば知らぬ人はいないほどの高名な大歌手ミモザの元に、今は
別れて別居しイラクに住んでいる元妻が救いを求めているという知らせが届く。ミモザはミュージシャンの二人の息子と共に、
出入りするには危険な地帯へ旅立つ。その旅はクルド人の悲惨な実相を観客に追体験させるものであるが、老親と立派な大人の息子
たちとの珍道中は実にコミカルに描かれている。だからこそ一層、彼等の苦渋が浮き彫りにされる。
 すぐに質疑応答が始まった。

 ●本作には銃撃戦がかなり描かれており爆音が轟くシーンがありますが、敵側の顔が全然描かれないが、これは意図的に「見え
ない敵の恐怖」を意識されたのですか?
 答)確かにそこに住む人たちは皆、「見えない敵」に不安を感じています。しかし私は「見えない敵」をネガティブに描きたく
ありませんでしたので、あえて敵の顔を映しませんでした。それぞれにとって「敵」は違います。だから観る側に自由に想像して
欲しいと思ったのです。
 それより私の映像のすばらしさは、小さな村に存在する子供たちなのです。彼等がどんな風に生きているか、私の映画を通して
本当の姿を見て欲しい。世界のテレビや新聞で垂れ流される情報にダマされないで、私の映画でそれを知って欲しいのです。

 ●クルド人の凄惨な実情を描かない映画、つまりコミカルな映画を作る予定はあるのでしょうか?
 答)とりたいという希望はあります。しかし彼等(監督もクルド人)の住む地域にジェット音がする限り、他国へ侵攻する人が
いる限り、私がその手の作品を作るのは不可能と思います。
 住んでいる人にとってはジェット音のような音が日常になっているのです。その凄まじさはそこへ行き住んでみないと理解不可能
でしょう。クルド人が本当に希求しているのは、自分たちの本当の姿を描くことなのです。
 私の前作「酔っぱらった馬の時間」に対して、<暗い映画>だと言う人がたくさんいました。しかし、本来クルド人はユーモアが
あり音楽が大好きな人種です。悲劇的な実情を逆効果にして、ユーモアや音楽を楽しみ、それを生きるエネルギーにしている逞しい
一面を持っているのです。

 ●クロサワ以外にもゴバディ監督は、小津安二郎の「東京物語」や、小林正樹監督の「怪談」、最近の作品では北野武の
「HANABI」に大変触発されたという。
 更に、「日本映画は表面的にハリウッド映画を模写したような作品が増えているようです。映画製作にはなんといっても国家の
援助なくしてはいいモノは作れない。ハリウッド映画製作のシステムのような<産業>としてではなく、<アート感覚>を必要にして
作品を撮っていくべきだと思う。そのためにはまずここに集まっていただいたプレスの方々のサポートが必要なのです」
 映画の製作状況が悪い日本ではあるが、ゴバディ監督は、国家そのものが政情不安定な国でこのようにすばらしい映画をとり、
数々の映画賞を獲得している、それは「祖国なき民」のクリエイターである監督に対する同情などでは決してない。ゴバディ監督の
作品から発信される喚起力だろう。 

 岩波ホール総支配人の高野悦子さんが会見始めの挨拶に加え「岩波ホールが誕生したのも68年。奇しくも監督がこの世に誕生
された年と同じです。ゴバディ監督の作品を同ホールで上映させていただくことになった奇縁をつくづくと感じる」と付け加えた。
 
 “国家を持たない世界最大の少数民族”の主人公たちは愛する者に会えるのか。辛酸をなめつくしているにもかかわらず希望を
失わず、民族の伝統を守るために歌い続ける誇り高い姿を、同胞の想いを代表してクルド人監督のゴバディが世界へ発信する。
戦争で大地が疲弊しても、誰も彼等の歌を奪うことはできない。


 *2月21日より 岩波ホールにて公開予定
   


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