男たちと馬の熱い「プロジェクトX」!・・・・「シービスケット」

 

                                                                           桑島まさき
                                

  

連敗記録をうちたてて日本中の人気者(馬)になった「ハルウララ」に、あの日本競馬界の天才ジョッキー武豊さんが乗る! 子供を
虐待したとして殺人未遂で逮捕された夫婦の事件や、幼子をビルの上から突き落とした母親の事件を今朝(1/26)のTVニュースで
聞くにつれ、このニュースはまさに“春うらら”然として気持ちがいい。
 これだけ負けているダメ馬なのに日本中の衆目を集めるという奇怪な現象は、不況やリストラで暗いニュースばかりの日本に
あって、自信を喪失している人々に、負けても笑われても走りつづける(?)ハルウララに自分たちを重ね合わせ、ガンバっている
姿に日本再生の夢を託しているのではないだろうか? いつかお前も勝てる日がくる、オレもガンバるからお前もガンバれよな!って
な感じで。
アカデミー賞の呼び声高い「シービスケット」を観た直後だけにそんな思いを強くした。
 失敗や挫折なんか気にするな! 人生は何度でもリセットできる、へこたれないチャレンジ精神さえあれば! 本作はまさにその
精神を教えてくれる。しかも実話だけに強く胸を打つ。

 20世紀初めのニューヨーク。西部がまだまだ開発途中だった時代、未開の地で成功を夢みて移住した人々は沢山いた。自動車
産業で成功し富を得、のちに馬主となるハワード(ジェフ・ブリッジス)もその一人だ。物語はかつて実際にアメリカ中を沸かせた
名馬「シービスケット」に関わった男たち三人の人生の断片が交互に描かれ「省略」の効果を上手くきかせて進んでいく。
 発展の陰で用無しとなり故郷を離れた“馬と対話できる”男こと調教師スミス(クリス・クーパー)、世界中を恐怖に陥れた
1929年の大恐慌の煽りをくって家族に見捨てられた騎手のレッド(ドビー・マグワイア)。 
 三人と馬に共通するのは、挫折や人生の苦味を経験しその傷からなかなか立ち直れなかった人間(馬)たちという点だ。ハワード
は順風満帆な事業とは裏腹に愛息を自動車事故で失い妻にも去られ傷心の日々を。スミスは時代に見捨てられ、元々風変わりだった
ため他人とも接触せず孤独だけがよく似合う男。レッド(本名はジョニーだが赤毛なのでこう呼ばれた)は、仕方なかったとはいえ
愛情深い両親から“見捨てられた”という思いを引きずり怒りと哀しみの呪縛から逃れられず、才能があるにもかかわらず不甲斐
ない役目に甘んじる騎手の日々を送っていた。シービスケットは、名馬の種だが馬主からも騎手からも見捨てられ才能を開花できぬ
まま“暴れ馬”の異名をとってくすぶっていた。

 三人の男たちとシービスケットの人生が交差した瞬間、歴史の幕が開かれる…。勿論、当時の三人はそんなことなど露ほども
おもわなかったと思うが。運命の糸に導かれるように、ハワードはスミスの調教師としての才能を見抜き、スミスは暴れ馬とレッド
の資質を感じ取り、出会うべくして出会う。
「シービスケット」プロジェクトチームが一団となって<暴れ馬>を<名馬>にしたてていく過程は、同時にレッドという未知数の騎手
を一流の騎手にしたてていく事でもあった。つまり、馬がいいから騎手が勝てるのではなく、騎手がいいから馬が勝てるのでも
ない。馬と騎手とそのサポート陣との共同の成果が、レースでの勝利なのだ。それはさながら「プロジェクトX」を見ているような
感動だ!
 だから、私は武騎手が乗ったからといって安易にハルウララが優勝をさらうとは思っていない。
本作で描かれているような<擬似家族>的団結と信頼の元に熱意ある共同作業がない限りは。

 本作には二つの見ごたえのあるレースシーンがある。一つは、アメリカ中の話題をさらった東部の名馬(大きくていかにも優駿然
とした黒馬)との勝負を前に、レッドが不慮の事故で足をケガしシービスケットに乗ることを断念。かわりに彼の親友の騎手ウルフ
(現役の騎手であるゲイリー・スティーヴンスが演じている)がピンチヒッターとなり、絶望的条件が揃っているが最後まで諦めず
練りに練った作戦の末、見事に勝利するレース。
 そのスリリングなシーンは実に見事!「小さいものでも勝てる」と言ったスケートの清水選手を思い出してしまった。その上、
自分の華を他人に与えることになると知りつつ、シービスケットの名誉とハワードやスミスのために、潔くウルフを指名するレッド
の心意気も見事という他ない。(これは女同士の友情ではなかなか成立しないものではないかと思う。)ウルフを演じるゲイリー・
スティーヴンスがホンモノだけに、説得力充分。又、この人、本当に誠実そーな人柄を偲ばせているのだ。
 実話だけに、ドキュメントフィルム風に写真を挿入し、アメリカの<当時>を再現してみせる手法もイイ。

 山場となるレースは、傷ついた馬と人の再生をかけたレースで、見事な復活を果たす最高のドラマだけに興奮せずにはいられない。
レッドは乗馬すると二度と歩けなくなる、と医師に言われ、シービスケットは競走馬としてはムリ、と言われたのに二人(正式には
一人と一頭)でリハビリし、へこたれず、可能性にかけ、再起をはかる。その涙ぐましい精神は、どんなに時代が変わっても人の心
を刺激する。足の痛みをこらえながらシービスケットに指示をだすレッド、ビリから徐々に加速し、混戦状態を小さい体をいかして
抜け出し、ゴールめざして疾走するシービスケットの勇姿。かわいい黒目が勝負師の目と化した凛々しいお姿、とことんシビれて
しまった。
 人が馬を癒したのか、馬が人を癒したのか? 信頼と共感で名誉を勝ち取った人生ドラマの傑作だ。
監督ニ作目となるゲイリー・ロス監督は脚本家として成功していた人だが、監督の才能は原作によって開花されたのかも。


 *1月24日より 日比谷スカラ座1、他東宝洋画系にて公開中。
    
   


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