「タイ映画祭2003」レポート
国際交流基金アジアセンターが主催した「タイ映画祭 2003」が9月22日〜9月30日まで都内の国際交流基金フォーラムで開催された。
1990年以来13年ぶりの「タイ映画祭」となる。上映作品は近年日本劇場公開された「わすれな歌」「怪盗ブラック・タイガー」
「ナンナーク」などを始め20作品。
映画祭の定番となるイベントでは、日本における「忠臣蔵」や「四谷怪談」、韓国における「春香伝」と並ぶ「国民的映画」として
タイ国内で何度もリメイクされ国民に支持される映画「ナンナーク」をめぐる国際シンポジウム「『ナンナーク』と国民映画」や
「日タイ映画交流の黄金時代」と題したトークショーがあった。
9月23日に開催された国際シンポジウムの模様をレポートする。
8月の暑気が続いた9月前半だったが、この日は天高く澄んだ空気が気持ちよい秋晴れの一日だった。前日から始まった「タイ映画祭
2003」の2日目の目玉は「ナンナーク」。この日一回目の上映作品「怪盗ブラック・タイガー」にしても「ナンナーク」にしても
日本劇場公開された作品だが、タイ映画史上空前のヒット作となった作品と、それに続く国際シンポジウムを聴講したいと思った人々で
会場は大変な賑わいをみせ、整理券による入場となった。
ちなみに二回目は「ナンナーク」と「メ・ナーク」の二本立て。続くシンポでは、ニ作品を通じて、同じ作品がくり返し上映されると
いう現象を読み解くという企画であったため、上映後も席はぎっしり埋まっていた。 シンポのパネリストは、「メ・ナーク」の
ピムパカ・トーウィラ監督、チャリダ・ウワブルンジットさん(タイ国立フィルム・アーカイヴ研究員)、四方田犬彦さん(映画評論家、
明治学院大学教授)、津村文彦さん(文化人類学者、福井県立大学専任講師)の四人。ピンパカ監督の「メ・ナーク」はタイで何度も
リメイクされてきた「ナンナーク」を、女性の視点から描いたもので、物語を知らない人にとっては観念的で、非直線的な構造だけに
とっつきにくい作品という印象を受けるかもしれない。が、タイ国民が一生のうちで二度は観るというゴースト・ストーリー
「ナンナーク」(プラカノン運河のナーク夫人)を知る者にとっては、従来のリメイクものとは一線を画した斬新な手法による本作の
功績を認めない訳にはいかないだろう。
シンポではまず、タイ国立フィルム・アーカイヴ研究員のチャリダさんが、フィルムを使用して過去のリメイク作品をそれが作られた
時代背景と共に簡単に説明した。
続いてピンパカ監督が挨拶し、「自分も『ナンナーク』を観て成長した。小さい頃、悪いことをするとナーク夫人の霊がでるよ、
と脅かされて育った。『メ・ナーク』製作にあたっては、伝説の映画『ナンナーク』が何故、いつまでもタイ国民の心を捉えて離さない
のか、という疑問から生まれた。最初はドキュメンタリーにしようと考えたが、従来のリメイクのような面白おかしく撮るのではなく、
女性の視点から撮ろうと考えた」と述べた。 ところでこの「ナンナーク」を未見の人のために物語の説明をしておこう。
19世紀、タイ。妊娠中のナークを村に残し、兵士として戦場へかり出されたマークは、瀕死の重傷をおうが回復して帰省する。
めでたく妻とうまれた子どもと再会するが、村人の語るところによると、マークの妻子は難産の末、死んだという。一緒に暮している
妻子は幽霊? 信じられないマークは笑い飛ばすが、ある日、妻が冥界の者だと確信する。愛する夫への未練が断ち切れずお化けと
なって現世に留まるナークは自分の幸福を邪魔するものを偉大な霊力でやっつける。国民の94パーセントが仏教徒というタイにおいて
根強く残っている精霊(ピー)信仰。伝統的な宗教職能者も存在する。物語はナークと宗教職能者と仏教の僧との闘いになる。
19世紀にプラカノン運河に実存したナーク夫人の悲話が語り継がれてきたものだ。
何故同じ作品がくり返し作られるのだろうか? それに対しチャリダさんは「タイ映画産業では、不振に陥った時は『ナンナーク』
を撮ればうまくいく」という迷信が根強く残っている」と話す。
では、実際、タイ国民はお化け(ピー)の存在を信じているのだろうか? 答えはまちまちだとか。とはいえ人々の間に深く
根付いている精霊信仰への崇拝は、ナーク夫人の祠を参詣する人々が絶えない事実や、ピー映画がヒットする事実が如実にもの語って
いるといえるだろう。今後もタイではピー映画が製作される予定だそうだ。日本や韓国のお化け映画も盛んにタイに入ってきて好意的に
受け入れられているそうだ。