関心を持つことから始めよう! …「東京原発」
桑島まさき
「卓球温泉」の山川元監督の最新作「東京原発」は、痛烈な皮肉とユーモアたっぷりの爆笑社会派作品にしてハラハラドキドキの
一級のエンターテインメント作品だ。
都庁の長い一日は、カリスマ性溢れる天馬都知事(役所広司)の関係各所への会議招集メールから始まった。岸部一徳、段田安則、
平田満、吉田日出子など、日本映画界の演技派役者たちが、天空へ向けて聳え立つ高層ビルが林立する新宿西口の中でも、郡を抜いて
その威光を誇示するかのように構えている都庁の会議室に集まってくる。都庁の多角的なショットが効いている。
誠実でシャイで人のいい役どころの多い役所は、本作ではワンマン都知事ぶり(現役の都知事に似てないか?)を演じ、会議は
もっぱら自分ペースで進行する。糊のきいた真っ白なワイシャツに真っ赤なネクタイが日の丸を形容しているように見えて笑えるでは
ないか。さて、この会議で天馬都知事が提案したのは、なんと「東京に原発を誘致する!」こと。こんな大事な問題を決議するのに
会議室に集まったのは、たったの6、7人。東京のどこに原発を誘致するのか? 窓からチラリと外をみて「新宿中央公園だ」と
いとも簡単に天馬は答える。それがダメなら「日比谷公園でもいいぞ」とまで言うに至る。
都知事の爆弾発言に頭が混乱した人々はパニック状態に陥いるのだが、このやりとりが現在の日本の行政の在り方や迷走する日本の
姿を如実に反映していて興味深い。
まず、かりにも都政に関わる選ばれた人々であるメンメンがまるで社会問題に無知。それでもなけなしの知恵をだしあって問題を
協議するのだが、仮に東京原発を新宿に誘致するとした場合、発生するであろう問題、放射性廃棄物の処理はどうするのだろう、と
疑問が生じると、「それは国の仕事だろう」と人ごとのように答える。国政と都政の管轄と認識の違いがハッキリとしているでは
ないか。
反対派の津田副知事(段田安則)は、東大教授で原発専門家を呼んで意見をきくことになり、ここからメンメンは、過去の原子力
発電の事故隠し、エネルギー問題、放射性廃棄物の最終処理のあり方が世界規模での問題であること、日本の原子力開発が知らぬ間に
国会を通過し、いつしか国家予算の9割が開発費にあてられていること、などを知り愕然となっていく。時に怒鳴りあいケナしあい
ながら、アホみたいなジョークをとばしながらもメンメンは恐怖や怒りを覚えていく。観客も又、同時にメンメンと同じ思いを
共有し、いかに我々が原発やエネルギー問題に無関心であるかに気づかされる。
都庁の会議室でスリリングな会議が展開されている間、フランスから極秘に運ばれてきたプルトニウムを積んだトラックが東京へ
向けて運ばれていた。指揮をとるのは天馬都知事が一目おく原発問題に詳しい(?)男(益岡徹)。運ぶトラック運転手はカネに
困っているアル中気味の男。
ここでも痛烈な皮肉がバシバシ登場する。益岡演じる男は、大事なことを電車の中で平然と声高に話し、プルトニウムなどの
危険物を積んだトラックなんぞ当たり前のように走っていると平然と言い、「国のやることに責任者なんかいるわけないでしょー」
とまで言う。どこまで本気で生きているのか不明なこの男、国の大事をどう考えているのか。結局、この男の失態でアル中運転手が
運転するトラックは、爆弾マニアの若者に核ジャックされ、都庁を震撼とさせるハプニングへと発展していくという超スリリングな
物語へ展開していくのだからたまらない。
それも天馬都知事の「原発計画」の真意をメンメンが理解し、効果的な音楽とあいまってウルウルとなっていた時だったから、
一難さって又一難で緊張感は加速しぱなっしだ。
やっぱり天馬都知事はいいヤツだった! “東京に原発を誘致する”と爆弾発言し、そのことで反対派の運動が起こることで国民
の原発に対する意識を高める。人は皆、関心のないことには当然無知。んなもんだから国が決めたことにノーとは言わない。
そうやって国の大事なことは簡単に国会を通過し、国民は与えられたことを黙々とやるしかない。愚痴るぐらいならノーという声を
あげるべきなのに。
都庁めざして夜の町を疾走する爆弾トラックの行方は…。
シニカルなセリフだけではなく、「人間は過去のことはすぐに忘れる。終わったことには関心がない。東京都民は世界一無関心だ」
と天馬都知事がいうように、正鵠を射たセリフもあり、東京都民でない筆者までもが、自分が住む町への意識を刺激させられた。
都庁発信の「政治意識改革推進プロジェクト」(?)は、地味だが存在感のある名優たちの底力演技によって、充分に納得させ
られた。傑作!
* 3月13日より 新宿武蔵野館にて公開中