第76回 監名会レポート
桑島まさき
映文振センターが主催する「第76回監名会」が11月16日、京橋のフィルムセンターで開催された。上映作品は黒澤明監督の「用心棒」(61年・東宝)。
黒澤作品は幾度も映画館やテレビで再上映されているので、リアルタイムに観賞できなかった人でも、部分的に観賞したという人は多いだろう。かくいう私もその一人なのだが、過去の名作日本映画を愛する観客と一緒に再度作品に向き合うと、また新たな発見ができるから不思議だ。
三船敏郎演じる用心棒こと桑畑三十郎の貧乏だが魂は売らず、正義のために刀を抜くそのえも言われぬカッコよさ。公開当時、日本人を励ましたヒーロー像は時代が変っても普遍的に求められているのではないか。”フリーランス用心棒”の機転のきいた対応は、長引く不況で「個」の力が問われている現在、見習うべきものが多く、戦い済んだ後の引き際の潔さは、進退問題の参考になる。
上映後、黒澤監督の代表的な活劇「七人の侍」で本格的に俳優デビューを果たした土屋嘉男さんにお話を聞いた。聞き手はライターの弓家保則さん。
土屋さんは「七人の侍」撮影中は黒澤家に住み込み演技の指導をうけ、「用心棒」「椿三十郎」など黒澤作品の常連となったという。「用心棒」では博打の借金のかたに妻を取り上げられた不甲斐ない百姓役で、出演時間は実に短いが独特の存在感を放っている。出演作に対して土屋さんは、「『七人の侍』でも情けない役だったが、気持ちを押さえた役はとてもやりがいがある。現在でも世界各地で上映されている黒澤作品に沢山出演できたことは、役者冥利に尽きる」と幸福感を語った。監督については「音楽に例えるなら、撮影所での監督はベートーベン、自宅での監督は優しくて分りやすいハイドンだ」と語った。
”ベートーベン”が指揮をとった撮影現場は、監督のマジックにかかり、心地よい刺激に満ち、理想に燃えたやりがいのある現場だったに違いない。
※「キネマ旬報」2003年1月上旬新年特別号より転載
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