私の人生は、あなたの舞台よりスバらしい!
……「舞台よりすてきな生活」
桑島まさき
70歳近くになるいうのにハリウッドのスター俳優でありつづけ、若手映画人育成のためのサンダンス・インスティテュートの主宰者
であり、最近では「モーターサイクル・ダイアリーズ」の製作総指揮をとるなど、依然として精力的な映画活動を続けるロバート・
レッドフォードが新たに製作総指揮したのが本作。
ロサンゼルスに住むピーター(ケネス・ブラナー)とメラニー(ロビン・ライト・ペン)夫婦。閑静な住宅地の瀟洒な家にすむ2人は
ため息のでるようなステキな生活を営んでいるように見える。しかし……。
メラニーは子どもが欲しくて夫にせがむのだが彼は大の子ども嫌い。ピーターは売れっ子劇作家としての地位を築いているが、実は
スランプ中。若くして成功した劇作家は<書けない>苦しみに悶え、妻からは子ども子どもと催促され、セックスの気力もなえ、同居
している義母は痴呆気味でなじめない、不眠状態でタバコの本数は増える、イライラは募るばかり。
実は、ピーターは現在、進行中の芝居台本の中の10歳の子役が上手に書けていないと批判され悩んでいた。作家がこんな苦情を
いわれるほど悔しいことはない。
そんな時、ピーターの苦境に追い討ちをかけるように隣に子どものいる家族が引越してくる。外交上手なメラニーは早速お近づきの
挨拶などするのだが、ピーターは不安。
ところが……。人生はひょんな事から好転するものだ。考え方次第によって。嫌いと思っていたニンジンが実は食べず嫌いだったり
するように。ある日、隣に引っ越してきたエイミーというちょっと足の悪い少女がままごと遊びをしているのを書斎から眺めていた
ピーターは、藁をもつかむ想いで子どもと接すれば子どもが巧く描写できるかもしれない、と思いつき一緒にままごと遊びをする。
まるでエイリアンを見るかのようにおずおずとエイミーに接する偏屈な男をブラナーが好演する。世間からちやほやされてきたが実は
小心者の<成功した>中年作家と、しっかり者でまるで大人のようなクールな面をもつ<障害をもつ>少女とのふれあいが、ピーターの
人生に欠けていた何かを補完していく。そう、舞台の世界に絶対性をみて現実を生きていなかった男=ピーターの目を、エイミーと
いう小娘が存在感だけで開花させるのだ。実人生のほうがあなたの作る舞台よりもステキなのよ、と! ジェンダーや年齢を超えて
親しくなっていくピーターとエイミーの2人の微笑ましい関係が、淡々と語られていく。
ブラナーはご存知の通り、イギリス演劇界で活躍し、映画界でも監督を務めるほどのマルチ才人だ。そのブラナーの実生活と
シンクロするようなピーター役の演技は、まるで劇中劇を観ているようで興味深い。監督は本作が初監督作品となるマイケル・
カレスニコ(脚本も)。ちょっとウッディ・アレン映画を想起させるような雰囲気はあるものの、山場がなく一本調子で進行して
いくのが惜しい。アレン映画を彷彿とさせることを狙ったのだとしたら、やはりアレン映画の醍醐味である、辛辣なセリフの数々、
ウイットにとんだ会話、面白いながら時々ドキッとするようなシニカルな視線、を盛り込むなどの工夫が必要だっただろう。
*12月11日より 銀座テアトルシネマにて公開予定