現在(いま)を疾走する子どもたち……「カナリア」

 

                                                                               桑島まさき



 衝撃的な作品だ。親や教師や地域の大人たちに守られて育つ子どもたちは、大人たちの姿を見て世の中のルールを知り社会性を身に
つけ、やがて巣立っていく。しかし、そんな環境をもたず自力で世の中を渡っていかなくてはならない子どもたちも、確かに存在
する。例えば、昨年公開された是枝裕和監督の「誰も知らない」。四人の子どもたちはシングルマザーの母親に突然捨てられ、生活
していく金もなく、学校にもいけず、相談する人もいない。でも、子どもたちは愛する母親がいつか戻ってきてこれまでのような
楽しい生活ができることを信じて自分たちの楽園であるアパートを離れず、行政の世話を拒否して自分たちの世界を維持し続けた。
これが事実に基づく映画化だっただけに驚きは倍加した。子どもたちは、確かに夏はクーラーのきく部屋でアイスクリームを食べた
かっただろうが、お風呂にはいって身奇麗になりたかっただろうが、フツーの子どもたちのように野球をしたりサッカーをしたかった
だろうが、それ以上に、社会から著しく隔絶されている家族であろうと自分たちの世界を壊されることを何より恐れたのだ。

 本作「カナリア」(塩田明彦監督)も、奪われた家族を取り戻すために孤独な疾走をする少年の物語だ。
主人公・光一(石田法嗣)は、母親と妹と三人でカルト教団の施設で暮していたが、狂信的な教団がテロ事件を引き起こしたため警察
が介入し、教団は壊滅状態に陥った。光一を含む施設に入っていた子どもたちは児童施設に保護され、引き取り人として祖父(母の
実父)がきてくれたものの、なぜか祖父は妹だけを引き取り光一は一人取り残される。テロ事件に関与し逃亡中の母の身はわから
ない。祖父に引き取られた妹の身も心配でたまらず、再び親子三人が一緒に暮せる日を夢みて、光一は児童施設を脱走した。
日本だけでなく世界をも震撼させたオウム真理教(現アレフ)の一連の事件をモデルとし、事件発覚後もっとも懸念されている
「オウムの子どもたち」のその後がどうなったか、という問題を扱っている点も又、衝撃的で意義深い。

 児童施設を逃げ出し、まずは妹を祖父から取り戻すためにがむしゃらに走りつづける光一。物語はここから始まる……。光一の
向かう先はただ一つ。未来だ。過去を捨て、家族と引き離された現状を打破し、施設から「逃げ」てはきたが明るい未来へ向けて
「疾走」しているのだ。
そんな時、光一は由希(谷村美月)と出会う。由希も又、親に恵まれず逞しく生きることを強いられた孤独な少女で光一と同じ12歳
だ。大人たちの無理解に傷つけられ、自力で今を生きるしかない子どもだ。生きるために援助交際をし危ない橋をわたっている由希は、
世間から隔絶された教団の施設で暮していた光一よりは世間を知っていて世俗に染まっている。
孤児という点で似たもの同士の光一と由希。援助交際中の男と引き起こした自動車事故により、咄嗟に由希は光一と逃げる。勘のいい
由希は光一が何者であるかを悟り、由希も又現実からの逃避を願い誰かの役にたって生きていくことを望んでいるので、光一の旅に同行
する決意をする。
 
 子どもの力はあっぱれだ。由希は<仕事>(援助交際)を通じてしりあった老人と事をすませ逃亡資金をつくり、仲間の女の子に光一
の衣類を用意させる。援助交際はお薦めしないが、子どもは親がいなくても立派に生きていけるのではないかと思ってしまうほどに、
子どもたちの生命力と底力に感心した。
暗い夜道を歩きながら歌を歌って励ましあい、旅の途中で出会ったレズのカップルに世話になり。光一を励ますのは由希のほうだ。
次第にうちとけていく二人は互いの身の上を知っていく。教団に入った経緯や母との思い出が光一の回想として挿入され、反社会的な
共同体での生活が子どもたちに及ぼす影響の深さが浮き彫りにされる。
やっとの思いで二人は東京にたどり着くが、祖父の家は娘(光一にとっては母)がテロをおこした教団に入っていたことが知られ、
世間からバッシングをうけて悲惨な状態になっており、祖父はそこをひきはらっていた。
二人の旅は、続く。しかし旅を続けるお金がなくなり由希は又あぶない仕事をしようとするが、光一はバットをもってそれを食い
止める。まだ幼い二人はこれまですっかり馴染んだ価値観をめぐって反発しケンカをし、少しずつ恋人同士のようにその距離を縮めて
いく。そんな時、天の助けか同じ教団に属していた伊沢(西島秀俊)にバッタリあい世話になることに……。

 教団の犠牲になった子どもたちのその後だけでなく、社会に戻った大人たちのその後をも描いている。伊沢や他の教団時代の信者
たちは、すっかり覚醒し慎ましくも社会とかかわりながら生きていた。
伊沢は過去と決別でき現在を生きている。しかし、光一はまだ現在を生きることができない。依然として母の行方も安否も不明、祖父
の家に預けられた妹とも再会できない。光一は目的を果たすために先を急ぐのだが……。
奪われた家族を取り戻すために走りつづける光一に未来をないのか? あまりにも酷い知らせに光一はこれまで堪えていた涙を全部
放出してしまうかのように号泣する。何もかも洗い流すかのように雨が激しく12歳の光一に降りつける。無情の雨だ。そして衝撃的な
結末が訪れる……。
神も存在しないような過酷な現実の中、絶望を再生に変えていく子どもたちの強さ逞しさ。こんな作品をみせられると大人もがんばら
なくちゃーと思えてくる。

 *3月12日より アミューズCQN、新宿武蔵野館他全国ロードショー予定


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