“フツー”だって悪くない……「インスト−ル」
桑島まさき
史上最年少の若さで芥川賞受賞作家(受賞作は「蹴りたい背中」)となった綿矢りさもキュートだが、綿矢のデビュー作となった
本作「インストール」の主人公・朝子役を演じる上戸彩も抜群のカワイサだ! 原作者が描いたヒロイン像をトップアイドルの上戸が
忠実に演じ、フツーの女の子なのにフツーじゃ嫌! 訳もなく苛立ち不安になり、遂に学校も受験戦争からもドロップアウトしていく
揺れ動く17歳の現在(いま)をリアルに演じている。
17歳! 南沙織はかつてそのはちきれんばかりの可能性を秘めた若さのもつまぶしさを歌ったが、本作の主人公朝子は違う。自分が
何に興味をもっているのかわからない、何者であるかも疑問。同年代の女の子のように、似たような背格好、歩き方、ヘアスタイルを
して同じになるのは嫌。そう思うことはオカシイのか? 自分ははみ出した思想の持ち主なのかと思えてくる。勉強も学園生活も
面白くない、当然受験戦争も諦めている。何もかもイヤイヤイヤ、つまりフリーズ状態の女の子。
そして、遂にやってしまった。登校拒否をして完全に引きこもったしまったのだ。
朝子は母(田中好子)とマンションで2人暮らし。普段どおり学校へ行くフリをして先に家をでて母が仕事に出かけるのを見届ける
と、家に戻りテレビを見てお腹が空いたら学校で食べるはずだった弁当を食べる。
そんな時、自分が捨てたパソコンを拾った同じマンションの住人の小学生・かずよし(神木隆之介)と再会する……。小学生のくせに
変な落ち着きがあり物知り(?)のかずよしは朝子の登校拒否をしり、一緒にジョブをやろうともちかけるのだ。美しい男の子
カズヨシは朝子より世間を知っているように見えるが、「日常茶飯」を「にちじょちゃめし」と、「興味津々」を「きょうみつつ」と
嘘覚えしている始末。間違いに気づくとさっさとメモをとり朝子と対等な関係にあることを誇示しようとするところがカワイイ。
かずよしは朝子からもらったパソコンを自在に駆使していて、インストールしなおしてあるジョブをしていた。そのジョブとは、人妻
風俗嬢<雅>のエロチャットを替わりにやることだった。学校へいくことをやめた朝子が外界と繋がるための唯一の手段、それが
エロチャットだった。かずよしが学校へいっている間、彼の親に見つからないように朝子は押し入れの中で黙々とエロチャットに
励む。
暗い押し入れの中の現実が朝子の現在であり、朝子はさらに細い線一本でバーチャルな世界へ入り込み、見知らぬ他者と同じ時間を
共有しながら文字で会話し、いまだ足を踏み入れたことのないエロスの世界を覗き興味津々。時に恍惚とし、時に危険な目に
あいながら。しかし、朝子はハマっていきこれまで感じたことがないほど夢中になることができた。
高校生の朝子と小学生のかずよし。同じマンションに住むだけの関係からいつしか<相棒>となった2人の絶妙な関係が面白く
描かれる(上戸と神木君はどこか面差しが似ていて本当の姉弟みたいだ)。
だが、こそこそした現実は長くは続かない。双方の親たちが子どもの事情を悟り、朝子とかずよしは押し入れから出る日がやって
くる…。学校で見出せなかった夢中になることの楽しさを体験した朝子は、爽やか。奇妙な体験によって、退屈でつまらない毎日でも
生きていけば面白いことに出会える、今まで朝子に衝動的に訪れていたもどかしさや焦燥感から解放され、17歳は何となくフツーに
戻る意味を理解するのだ。
もやもやとした複雑な感情の季節。純粋でガラスのように繊細で脆く、煌く宝石のような瑞々しい感情の発露を、ユーモラスに描いた
作品だ。
*12月25日より アミュ−ズCQN、シネ・リ−ブル池袋他にて全国公開予定