お父さんは、お父さんである!…「お父さんのバックドロップ」
桑島まさき
カンヌで柳楽優弥君が主演男優賞をゲットしたことで話題をよんだ「誰も知らない」では、シングルマザーの一家を支える長男が
母親代わりになって妹弟たちの世話をかいがいしくする姿が印象的だった。制度という枠組みに囚われたくない女性達が増えている
ことにも要因があるのか、シングルマザーが増え、それでなくても時代は少子化傾向にある。必然的に子供達は“主婦(夫)”化し
つつある。本作「お父さんのバックドロップ」(李闘士男監督)の主人公、一雄も“主夫”化している子供の一人だ。
10歳の一雄(神木隆之介)と中年プロレスラーの父・下田牛之助(宇梶剛士)は2人で暮していたが、祖父と一緒に暮らすため
大阪のとある町のアパートに引っ越してくる。一雄は利発そうな瞳をもった素直な少年。病死した母にかわって地方巡業の多い
プロレスラーの父の面倒をみ、年寄りの祖父の世話をし、掃除洗濯をこなし、学校の勉強もちゃんとやる。逞しく騒々しいアパート
の住人の中で一雄だけがちょっと浮いていてオカしい!
アパートには牛之助の幼馴染で近くで焼肉店を営む英恵(南果歩)とその息子・哲夫(田中優貴)がすんでいる。「ぼくんち」の
田中優貴は芸達者な子役だー! 勝気でちょっとダラしない母を子供らしくない包容力でケアし、なよなよとした一雄とすぐに友達
になり守ってくれる。2人の子供の目からみた大人の世界がユーモラスに語られる。
牛之助の所属する「新世界プロレス」は台所事情が苦しい。テレビ中継されるような大きな仕事はなく、そこに集まった
プロレスラーも既に過去のメンメンばかり。観客の少ない場末のリングで「仕事」をする男達のドラマがサラリとだが描かれ、
ショービズの厳しさは胸キューンものだ。
実は、一雄はプロレスが嫌いだ。だから父の仕事が恥ずかしく級友にはヒミツだ。そんな中、牛之助は生活のため悪役転向を
強いられる。悪いことに、その噂は一雄の級友たちにしれてしまい、一雄は皆にからかわれ辛い思いをする。
悪役に転向した途端、髪を金髪に染め悪役らしく暴れまわる牛之助は“話題の人”となりテレビ中継されるようになる。10歳の
一雄は人生最悪の時。追い討ちをかけるように、母との思い出がつまっているビデオテープ(1本しかない!)に祖父が牛之助の試合
を重ね撮りしてしまい…。
辛抱強い一雄だが遂にプッツンして父と祖父をナジってしまう。牛之助は息子との間に埋められない溝ができ心を痛めるのだが…。
父は息子に<尊敬される父>になりたくてある決断をする。それは命の保証のない無謀な選択だった。周囲の人々は止めるが牛之助は
人生の賭けにでる。プロレスラーとしての自分の再起、息子との和解を賭けて。しかしかたくなに心を閉ざした一雄は知らん振り。
おお、まるで「ロッキー」ではないか!
お父さんはリングでボコボコにされていた。カッコ悪いほどに。顔は醜く腫れ上がり、防御するだけで精一杯。それでもお父さんは
ギブアップせず敵に向かっていく。負けるとわかっていて王者に向かっていく姿は、一雄の胸を揺さぶる。カッコ悪くても僕の
お父さんだ! その瞬間、奇跡が起こる…(観てのお楽しみ)。
プロレスと家族を愛する男の誇りと名誉をかけた挑戦。「チャンプ」と「ロッキー」を彷彿とさせる本作は、飾らない大阪人の
パワーに後押しされ、ストレートな感動を呼ぶ。
*10月 シネ・アミューズ他にて全国ロードショー