こんな嘘ならついてイイ!……「大いなる休暇」
桑島まさき
これまで随分嘘つきな人々の物語を観てきたが、これほど愛すべき嘘つきたちは初めてみた気がする。人を騙すのはいけない事
だが、こんな嘘ならついてもいいのではないだろうか……。
カナダ、ケベック州の人口がわずか125人のサントマリ島。のどかな島は、交通渋滞も殺人事件も無関係。人々は全てに
スローペースのスローライフ。ストレスレスだからギスギスすることはなく、島はいたって平和だ。だが、かつては漁業で栄えた
この島にも不況の波が押し寄せ、島民の多くが失業保険を受けて明日の身を心配する生活を強いられている。
のんびりした島民は次第に苛立ちはじめる。そんな時、巨大なプラスチック工場誘致話が舞い込んでくる。この工場が島にできれば
住民のほとんどが仕事を得ることができる。しかし、この工場建設には、「島に定住する医者がいること」が条件づけられた。
サントマリ島は無医島だ。医者などいなくても大丈夫だったのに、俄かに医者が必要になった島民は“ある計画”をたてる。本土から
医者を呼び寄せ、定住してもらうことだ。そのためには島を好きになってもらわなければならない。そこでこの任務の陣頭指揮をとる
町長のジェルマンを始めとする島民は一斉に嘘をつき始めるのだが……。
あるつてを使った結果、本土から若き青年医師クリストファー・ルイスが都会に恋人を残し一人で島へやってきた。美容整形医の
ルイスは、仕事の合間にマリファナ(?)なんか吸い、都会の誘惑を楽しんでいた男だ。そして、ルイス一人のために島民は一致
団結して大芝居を始める。ボロ屋を重要指定文化財にデッチあげ、診療所にはひっきりなしに患者を送り込み、レストランでは
ルイスの好物を人気メニューにすえる。釣りが好きだとわかると釣れるように工夫する。さらには、電話に盗聴器をしかけ反応を
みる。主婦たちが、ルイスと都会の恋人の会話をつぶさにチェックし胸ときめかせたりするのは楽しい。
つまり、ルイスは島民から見張られているのだが、それを知らないルイスは島民の親切さや美しくのどかな島を徐々に気に入って
いく。
ルイスが来てからというもの、これまで仕事がなくくすぶっていたが、芝居が島民の<仕事>だ。なにせ島の将来がかかっているの
だから徹底している。とうてい嘘などつきそうもない善良な人々が一生懸命に嘘をついているのがおかしくいとおしい。
島民の芝居が単純でないのがイイ。ルイスの反応をみて、心理戦にでたり、ライバル医者を出現させる逆療法にでたり、となかなか
凝ったことまでしている。これだけの大芝居をユーモラスに描いているが、バカ笑いできないのは、そこに住む人々の深刻な現状を
我々が知っているからだが、この問題は日本にも通じ身につまされる。
2003年アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「みなさん、さようなら」もカナダの作品だが、本作はカナダ国内で大ヒットし、2004年
サンダンス映画祭で観客賞を受賞するなど多数の映画祭で絶賛された。ハートフルで人々に愛された作品だ。監督はジャン=
フランソワ・プリオ。
結果としてルイスは都会の恋人に裏切られ傷心の末、人生の選択をするのだが、彼にとってもこの島でのドタバタは、人生の転機と
なる大きな休暇だったのではないだろうか?
*6月4日より シネスイッチ銀座にて公開予定