ときめきは幾つになっても…「恋愛適齢期」

桑島まさき
                                     
  

         

 

 大人の恋愛模様を描いた恋愛映画は数多くあるが、フランスの大女優カトリーヌ・ドヌーヴとウイリアム・ハート共演の
「逢いたくて」にしても本作「恋愛適齢期」にしても、若さを通り越したオバサンオジサンになったからといって、恋をしないわけ
ではない、人は不意に恋に落ちてしまうという普遍的なテーマを取り上げ、人を愛することのすばらしさや切なさを謳いあげ、
恋の力の前にはどんなに経験を積み年を重ねても一喜一憂するしかない非力な人間の姿を描いている。「恋愛適齢期」の中年カップル
は、ダイアン・キートンとジャック・ニコルソンというハリウッドの超大物ベテラン役者にしてオスカーの常連。個性派の二人の演技
合戦が見ものだが、二人とも中年の本音を楽しむかのように演じている。

 ニコルソン演じるハリーは、仕事に成功しているオヤジだが、付き合う女は30歳以下の若い女ばかり。イケないとはいわないが、
えてして年齢差のある若い女ばかり選ぶ男の傾向として、イニシィアティブを自分がとりたがる、同年齢や年上の女に欠点をズバリ
といわれるのが嫌、自分を尊敬してくれる女でないと嫌、つまり思想的にマッチョな男が多い。
 ハリーは、現在付き合っているマリーという若い女の家に招かれ、偶然そこでマリーの母親のエリカ(ダイアン・キートン)と
出会う。エリカは著名な劇作家だが、ハリーはそのことさえ知らない。
 エリカを演じるキートンは、待ってましたとばかりのハマリ役。ここのところフツーの主婦役が多かったが、仕事のデキるさばけた
女役を演じさせると実にイイ味をだす。美人ではないが背が高くスラリとしていて知的なキートンは、かつてハンサム・ウーマンの
代名詞となったこともある。近くで見るとシワがかなり目立つが、元々キートンは美人女優ではないので目をつぶろう。いや、仕事を
している時や話している時などの一瞬にとてもイイ顔を見せるのがハンサムな彼女の持ち味なのだ。
 作中では、洒落たビーチハウスの大きな窓側に向いた机で波の音をききながらパチパチ執筆にいそしんでいる。着るものはやはり
ビーチにふさわしく白系で統一し、日焼けをしないようにハイネックのセーターとパンツ姿。足の長いキートンはパンツルックが
よく似合う。
 
 軽い気持ちで恋人の家に来たものの、そこには彼女の母親エリカとその妹ゾーイ(フランシス・マクドーマンド)がいて、年齢的
には二人と近いために女二人にガツガツ言われ萎縮気味のハリー。突然、心臓発作で病院に運ばれ、回復が遅れがちなためにエリカ
のビーチハウスで養生することになるのだが、どういう訳かマリーもゾーイも都合がつかず家の中にエリカとハリーの二人だけに
なってしまう。心臓発作があたかも男のハートをアタックし高揚する胸のときめきを予兆するかのように比喩的に使われているのが
面白い。
 ニコルソンはヨロヨロの状態で尻(醜い!)までみせ、キートンは全裸(引き締まって悪くない!)まで見せてくれるというノリ
の良さでユーモラスな物語はテンポよく進んでいく。そしてエリカを、ハリーという俗っぽい初老のオヤジとジュリアン(キアヌ・
リーブス)という若くてハンサム、誠実な年下の男が取り合いするという、中高年女には悲鳴がでるような嬉しい恋愛模様が展開
するのだからたまらない。世の中高年女性たちよ、心配なく! 恋に定年はありませんし、制限もありません!

 ハリーは自分を人工呼吸して助けてくれたエリカが俄かに気になりだし、養生中で仕事はできないデートもできない、ヒマ、病院
の若い医者ジュリアンがエリカを意識してホメまくるからか尚更エリカが気になってしまう。
 エリカとて娘の恋人とはいえ、恋に長いことご無沙汰の中年女。同じ屋根の下に男と女が二人状態だ。節度を保ちながらも家の中
で、メールでやりとりし、その新鮮さが嬉々とした感情をよびさまし“キッチンで会おう”約束をとりつけ、初のデートがキッチン
デート。巧い演出だ!なかなかいいムードになり二人の距離はうーんと近づくのだが。
 遂に二人が結ばれる日、ハイネックが邪魔をするものだから、エリカはハサミで切るように頼み、ハリーの血圧を測定してから
ゴー! といった具合に若者のような暴走はできないしロマンチックな展開は期待できない。慎重におもいやりながらセックスに
たどり着いた二人はベッドで感激の涙を流す。決して美しいとはいえないベッドシーンながらも、切々とした思いでこのシーンを
観た人は多いだろう。(それにしてもニコルソンは最近よく泣くものだ!)

 しかし、恋は楽しい時間ばかり運んでくる訳ではない。ハリーが女友達と食事をしているのを見て、誤解してハリーの話もきかず
感情的になるエリカ。別れた夫が若い女と結婚することになっても平気なのに、だ。
 久し振りの恋の切なさに震えるエリカはひたすら泣く。キーボードに涙を落としながらもパチパチと指を動かし、恋の辛さ切なさ
を創作の源にし二人の話を書く。ハリーは“逢いたい”のひとことがいえなくて(メールできなくて)、二人の距離は遠ざかって
しまう。その後、ジュリアンとの恋に身を投じるエリカだが…。
 キアヌ・リーブスが涼しい顔をいかして純粋に年上の女を一途に愛する役を好演している。瞳のキレイなピュアな印象のリーブス
と通俗的な女好きオヤジの印象がこびりついたニコルソンとの対比が面白い。
 ナンシー・メイヤーズ監督(脚本共)の本作は、女性のための女性による女性にエールを送る「女性映画」だ。アクの強い
ニコルソンに「63歳にして初めての本当の恋」と言わせ、若い女にばかりうつつをぬかす世の男たちをガツンと言わせるこの爽快さ!
 
 結婚という制度の中で耐えるための精神的に成熟する時間、出産や子どもを育てるための準備期間などを考慮すると、結婚に適齢期
はある。しかし、恋愛に適齢期などはない。恋はいつでも突然やってくる。ジュリアンの言葉を借りれば「フロイトは、この世に偶然
はない」のだ。恋は偶然やってくるものではなく、必然に導かれるようにやってくるのだ。幸福の絶頂にいる時にでも。


 *3月27日より 全国松竹・東急系にて公開中


  


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