私を導いて…「ティラミス」

                                                                           桑島まさき
                                




 一時、イタリアのお菓子ティラミスが大ブームとなったことがあるが、いつの間にか下火になってしまった。ところでこの
ティラミス、「私を元気づけて、天国に引っ張って」という意味をもつお菓子だと知っていましたか? 無知な私はしらなかった。
 イタリアでは微妙な関係にある男女が二人で食事の後ティラミスを食べる際(女がティラミスを食べたいと言い出した場合だが)、
男は女が「私を引っ張って(導いて、誘って)」とサインを送っているのだと解釈するのだろうか? だとしたら食いしん坊の私は
気をつけなくては。余談が長くなった。 
 さて、本作。甘く意味深なお菓子の意味どおりの作品である。昨日まで名前もしらなかった男女が電車の中でふとした事から
出会う。もう二度と会うことはないと思っていたら、意外に二人は香港の街中を知らぬ間にすれ違っている。男は聴覚を失った美青年
コウ(ニコラス・ツエー)。女はダンスに青春を燃やすジェーン(カリーナ・ラム)。 郵便局で働くコウは偶然、ジェーンの稽古場
のダンススタジオに郵便物を届け、そこでジェーンを見かける。偶然が重なるのは、恋人たちの宿命か? その後、交差点でジェーン
とすれ違い彼女が落していった本を拾い、返してあげようと思いジェーンの家(プールつきの豪邸)に出向くのだが、そこで出会った
ジェーンは…。

 女は不慮の事故であえなく死に、ダンススタジオの仲間がオーディションのファイナルにいけるか気になって仕方がない。青春の
すべてをかけたダンスができなくなった悔しさ。突如家族と死に別れた女は死んでもしにきれない。この世に未練を残したジェーン
は、未練を断ち切るために、愛する者たちに自分の思いを告げるために、生きていたら恋人になっていたであろう淡い思いを抱いた
ばかりの男・コウに望みを託す。
 そう本作はデミ・ムーアとパトリック・スウエッジが共演した「ゴースト ニューヨークの幻」と設定が逆になっているだけで、
男が女を守るという点では一致している。決定的に違うのは、「ゴースト…」が愛し合う二人が急遽引き裂かれたのに対し、本作は
愛し合う手前で死別したために、幽霊となった女(ジェーン)とコウがタイムリミットの7日間に愛を育んでいくという点だ。

 ゴーストと人間の恋。人間でないだけにジェーンは生きている者ができないことができる。コウの身体に宿り自分のパワーをコウ
へ与える。さながら日本映画「福耳」みたいに。自分の身体にジェーンがいる時、コウは耳が聞こえダンスがうまく踊れるので、
ジェーンが死んで抜け殻になっていたジェーンの親友ティナは彼にパートナーになって欲しいと依頼する。つまり、二人はそれぞれの
メリットを最大限に利用していくのだ。
 が、ジェーンは死んだ身。時々、黄泉の番人が彼女を探しにやってくる。馬に乗り中世の世界からやってきたような番人の登場の
仕方や黄泉の世界の描かれ方は、小さい頃よんだ童話の世界のそれとピッタシだ。そして囚われの美女を助けるコウは、女たちが永遠
に求めてやまない王子様像を体現している。女はいつもこんな男の出現を待っているのであり、未来永劫夢みているのだ。
 主役二人の嫌味のない風貌、「お坊ちゃま」「お嬢様」タイプだけに甘くなりすぎな印象は否めないが、二人の哀しく切ない
ファンタジックなラブ・ストーリーだけに留まらず、家族愛や友愛をもしっかりと描かれている点が好感が持てる。


 *9月中旬より キネカ大森にて公開予定

  
   


戻る