ウルグアイのほとんどがこの一本につまっている!……「ウィスキー」

                                                                           桑島まさき
                                
                           


 ウルグアイという国がどこにあるかご存知だろうか? ウクライナと勘違いしている人がいるかもしれない。あまり日本に馴染みが
ないので国際的な位置付けを知らない人が多数だと思うが、サッカーファンならお分かりのはず! そう、ウルグアイは南米にある
国。ブルジルとアルゼンチンに国境を接し、日本の半分しかない国土に336万人が住んでいる。国土の9割が牧場で、気候は温暖、
国民性はいたって穏やかでのんびりしているという。国民的スポーツとしてサッカーが愛されている。
映画に関してもウルグアイ映画は日本とは全く無縁だった。それどころか、ウルグアイ国内での映画製作本数は、年間1〜2本。
これまでに製作された長編映画はわずか60本程というから映画後進国だ。
本作「ウィスキー」は、そんな映画後進国の中で、ファン・パブロ・レベージャとパブロ・ストールという74年生まれの若い映画監督
による作品で、本作が日本初公開のウルグアイ映画となる。さらに、2004年度東京国際映画祭でブランプリと主演女優賞を受賞。
ファンとパブロのデビュー作「25ワッツ」という作品が国内で評価され、2002年以降、本格的に1〜2本は製作される状況を作ったと
いうから、ウルグアイ映画史上、この二人は多大な功績を果たしたというべきだろう。

 さて、本作。アキ・カウリスマキの映画を観ているような奇妙な味わいがある。飄々として可笑しいのにしんみりしている。特別な
事件が起こるわけではないのに、人間の可笑しさ、悲しさ、人生の悲喜こもごもがしみじみと胸をうつ。
日本では、写真を撮る際、“はい、チーズ”と唱え気分が悪くても体裁をつくろうためにニコリと笑うものだが、ウルグアイでは
“ウィスキー”が合言葉だ。
ウルグアイのとある町。さびれた靴下工場の一日は、工場主のハコボ(独身の老人まじか中年以上)がシャッターをあけることから
始まる。長年勤務している中年女のマルタはマジメで地味、いつもハコボが来る前に出社し、彼が鍵をあけるのを待っている。控えめ
なマルタは誠実な人柄なのでハコボに信頼され、彼の秘書業務もやれば、他の従業員同様に靴下作りをし、皆が退社する時にはカバン
の中身をチェックする管理者としての役目もおっている。工場の単調な一日が丁寧に描かれる。
ハコボにはブラジルでくらすエルマンという弟がいいるが、ほとんど没交渉だ。一年前になくなった母の墓石の建立式のために
エルマンが帰国することになり、ハコボはマルタに弟がいる間だけ妻になって欲しいと依頼する。これは見栄というより弟を心配
させまいとする配慮と捉えるほうが妥当だろう。兄弟は長く疎遠状態なのでウソはバレないだろう。奇妙な依頼をされたマルタは、
快く頼みを引き受ける。

 キレイなマンションだが一人暮しのため殺風景なハコボの部屋をそれらしく飾り付け、指輪を準備し、二人で撮った写真を
そろえる。正直者の二人にとってウソは心苦しいものの、レンズに向かってウィスキー!と唱える。だが、二人はベタベタする
わけではなく、お互いに内気で要領が悪いために必要な会話しかしない。
マルタは少しずつ変わっていく。地味な服装、単調な毎日、顔に刻まれたシワ。深い哀しみを湛えたその顔は、人生の労苦を
感じさせる。髪型を変え、口紅をつけ、華やかな服装を身につけ、キレイになっていくが無骨なハコボなその変化に気づかない
鈍感ぶり。

 エルマンはハコボとは対称的な性格だ。陽気で、人を楽しませ、人生の楽しみ方をしっている。地味なマルタはすっかりエルマン
にうちとけ、ハコボの妻役をしっかりこなし楽しい時間を過ごす。偽装結婚とはいえ、三人に至福の時間をもたらしたのだからウソも
方便とはこのことだ。
墓石の建立式がすんだ後、エルマンの申し出で三人は旅にでる。長い間疎遠だったものの、兄弟の仲は悪くない。長い間、兄のハコボ
に母の介護をまかせっきりだったことを詫びるエルマンとハコボの距離は、空白の時間をこえて縮まっていく。しかし、なかなか
埋まらないのがハコボとマルタの距離。会話はなくても親密(?)過ぎて変化がないのか、必要がないと思っているのか。
そして、三人はそれぞれの選択をする……。観客にその後を想像させる結末も、思うようにならない人生の不条理さや、ふとしたこと
で全てが丸く収まることもある摩訶不思議さをかもし出していて絶妙だ。


 * 4月下旬より 渋谷シネ・アミューズにて公開予定
   5月中旬より 大阪テアトル梅田にて公開予定

   


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