愛についてのキンゼイ・レポート ★★★☆ 桑島まさき
「自分のセックスはノーマルなのか?」「世間の人はどんなセックスをしているのだろうか?」「同性に興味をもつ自分は
アブノーマルなのか?」。のっけから女性誌の特集みたいな質問を並べてみたが、同様の疑問を自らの研究にし、膨大な質問を作り、
1万8000人にじかにインタビューしてまとめたレポートが存在する。そんなモンあったって不思議じゃない、世は性同一性障害の人々
がカミングアウトし身体までなりたいように作り変える時代なのだから、と思うだろう。が、そのレポートが発表されたのは、今から
50年前のアメリカ。戦争に勝利したアメリカ経済は潤っていたものの、その実、肌の色や宗教や国籍による厳然とした差別社会が
存在し、それは公民権運動に揺れる60年代に入るまで続いていた時代だ。
このセンセーショナルなレポートを発表したのは、アルフレッド・キンゼイというインディアナ大学で動物学の助教授をしていた
博士。生物に興味のあるキンゼイ博士はボードン大学で生物学と心理学を学び、ハーバード大学で生物の分類学における博士号を取得
した後、インディアナ大学で教鞭をとる。
何かに没頭すると一直線にのめりこむ少年のような無邪気さと、こつこつ研究を続ける人にありがちなナイーブさをもつキンゼイ博士
をリーアム・ニーソンが熱演する。大男のニーソンはハンサムではない(?)が、少年のような澄んだ瞳をした色気のある男優で、
事実ハリウッドでもモテモテの男だ。
キンゼイ博士が人の性に興味をもつに至ったのは、タマバチの研究をしていた時だ。傍目ではソックリだがどれもこれもそれぞれ
違うタマバチをみて、当たり前のことを人間社会にあてはめて考えた。人と同じセックスをしなければいけない理由はないし、人の
真似をした愛し方をする必要もない、多様性という概念を見出したのだ。折りしも結婚したばかりの妻・クララ(ローラ・リニー)
とのセックスがうまくいかず悩んでいた時に医師の指導をうけ難問を突破できたように、人それぞれの性愛の形や悩みや不満が
あってもいいのだ、と。そこで、キンゼイ博士はラジオの「お悩み相談」のような役目を引き受けていく。性器をプロジェクターで
みせ、不躾(当時としては)な質問をバシバシ聴講生になげかけていく。しかし、結果は大反響となり博士は時流にのって、研究
生活をつっぱしっていく。助手も次々と増え、研究のために各地を旅しインタビューを重ねていく。
研究のためには経験こそ全てとばかり博士は助手のマーティン(ピーター・サースガード)と同性愛の体験をもつが、その事実の
告白をあっさりクララにしてしまう。そこが正直な博士の人柄ではあるけれど、妻のクララは恋敵となったマーティンを意識するよう
になり、葛藤の末、それを乗り越えるために自分もマーティンと寝てしまうのだから、道徳的にはメチャクチャ。夫の仕事を理解する
ためにわが身の感情を犠牲にした献身的なクララの苦悩はさぞかし大きかったに違いない。
しかし、感情を殺しながら研究に没頭する博士の研究チームは、わりきれない感情や間関係に摩擦が生じ危機が訪れる。あまりにも
衝撃的すぎるだけにマスコミからバッシングを受け、スポンサーからも見捨てられる。
それでも博士は、厳格であるゆえに衝突ばかりしてきた父の本心を知り、感謝してくれる女性の告白を聞かされ……。
生物学的研究からスタートした性調査は、やがて心理学的、社会学的な考察が必要となる訳だが、前例のない時代にセンセーショナル
なレポートを発表した博士の功績は大いに評価すべきだろう。
クリス・オドネル、ティモシー・ハットン、ジョン・リスゴー、ディラン・ベイカーなど個性的な役者が脇を固める。監督は
「シカゴ」のビル・コンドン。
「自分はノーマルではない」と悩んでいる人は必見の価値があるのでは。
*8月 シネマスクエアとうきゅう、シネスイッチ銀座にて公開予定