世界最速のインディアン ★★★ 松村清志
63歳でオートバイの世界最速記録を達成したニュージーランド男、バート・マンローの実話の映画化。アンソニー・ホプキンス主演。
オーストラリア生まれ、ニュージーランド育ちで実質的にはニュージーランド人といっていいロジャー・ドナルドソンが製作・脚本、
監督を手掛けて、30年以上暖めてきた念願の企画を実現させた作品である。
ロジャー・ドナルソンの最高作といってもいいのではないか。45年生まれのドナルドソンが60歳を過ぎてバート・マンローと同年代に
なって手掛けたのが、奏効したと思える。老いを自覚して体もガタがきて、それでも夢を追いつづける男の心情がぴたりとシンクロして
描けている。ドナルドソンが初めてマンローに会ったのは71年に彼についてのTVドキュメンタリーを撮った時だったそうだが、以降その
劇映画化の企画を暖め続け「売れる」作品とするための脚本の書き直し要求にも妥協せず、自身の望む形での映像化まで寝かしておいて
くれて本当によかったと思う。
30年余りも寝かしたことでうまい具合に醗酵したとでも言おうか。ギート・マンローというキャラクターを、例えば孫が祖父を見るよう
にあるいは父を見るように英雄化もせず、さりとてそのファナティックかつエキセントリックともいえる個性を強調もせず、その行動を
アナクロニズムとカリカチュアもせずに、過不足なく等身大に愛着を持って描けている。
ロジャー・ドナルドソンは、これまで僕にとってロジャー・スポッティクスウッドとごっちゃになって記憶される程度の、無難な職人
監督でしかなかった。ニュージーランドでわずか2本の監督作を撮りあげたのみですぐさまハリウッドへ進出してねお仕着せ企画を
撮らされ続けてきたことは、才能の濫費であったのかも知れない。それとも、本作の境地に辿り着くにはやはりハリウッドでの修業が必要
であったのか。
こんなことを書いたのは、本作の故国ニュージーランドでのローカリズムの部分も<聖地>アメリカでのロード・ムービーの部分も共々
捨てがたく魅力的に感じられたからだ。
ともあれ、本作は僕の観る事のできたドナルドソン監督の中では最も゛魂゛のこもった優れた作品である。バート・マンローが60歳を
過ぎてからも毎年のように挑戦を続けているように、ドナルドソンもさらに挑戦を続けていって欲しいと願う。アンソニー・ホプキンスに
とっても代表作の1本となるであろう。
「人生は63から」と思わせる元気の出る映画である。
2007お正月第2弾として、テアトルタイムズスクウア、銀座テアトルシネマ他にてロードショー