やさしくキスをして  ★★★  桑島まさき



 常に労働者階級の目線にたって彼らが直面する社会問題を提起してきたイギリスの名匠、ケン・ローチ監督の最新作。
スコットランド、グラスゴー。ヒロイン、ロシーンはカソリックの高校で音楽を教えるアイルランド移民。別居中の夫とは正式に離婚
する意志をもち、自立した美人だ。ある日、ピアノの個別レッスンをしているところ、パキスタン移民二世の教え子、タハラが白人の
男子生徒たちに追われ、騒々しくかけこんでくる。不条理な差別をうけ全身に怒りを漲らせているタハラをみて、ロシーンはピシリと
その場を静める。その時そばには、タハラの兄カシムがいた…それが二人の出会いだった。

 ロシーンとカシムはすぐに惹かれあい愛し合うようになる。西洋人と東洋人。白人と褐色の肌をもつ男。国際結婚など今時
めずらしくはなく、どこの国にも移民と現地人との軋轢は根強い問題を抱えているものだ。スコットランドにおいても、移民家族は
社会的にも経済的にも不当な扱いを受けており、<棲み分け>など差別的な現状はしっかり残っている。だからなかなか共生社会は実現
できない。移民は移民同士、母国の伝統や文化や風習を重んじ、他国に住みながらその国の人間になれずにいる。だが、そこで生まれ
育った子どもたちは親ほどの抵抗はあまり感じないので、世代間のギャップによる衝突は避けられない。
外国で暮す移民家族の物語は、近年では「ぼくの国、パパの国」や「ベッカムに恋して」などの作品でその実情を知ることができる
が、とりわけイスラム教を信奉している家族の絆や結束は固いようだ。
 
 先述した二作品同様、カシムの家族はパキスタンからの移民家族だ。近く結婚を控えているカシムの姉はイスラム圏の女らしく
慎ましく男に絶対服従することを快しとし、彼女にとって「家族」=「社会」そのものだ。だから、彼女にとって社会である家族の
崩壊の危機がカシムとロシーンとの恋愛によってもたらされると、彼女はヒドい仕打ちをロシーンにしてしまうのだが、心情的に同情
できないことはない。
ティーンエージャーのタハラは、スコットランドで生まれ育っているだけに、両親や姉のような保守的な思想はもたず、完全に西洋の
思想に心酔し、将来はジャーナリストになりたいと思っている進歩的な(?)女の子だ。
 
 姉と妹の間のカシムは、DJという誇りをもった仕事をし、西洋人の女を愛する自由な精神の持ち主であるが、家族のしがらみを
断ち切ることができず、親の決めた婚約を断ることができず、かといって愛するロシーンと別れることもできず、曖昧な態度をとって
しまう。
二人でスペインを旅行し、さんざん愛し合った後、実は婚約者がいることをロシーンに告白するカシムの態度には男の身勝手さ
(女は宥めれば許してくれるという男の甘え)を感じなくもないが、ロシーンは彼を許し、二人で障害を乗り越えることにするの
だが……。
意志的なロシーンとは対称的に、カシムは家族とのしがらみにがんじがらめになり、決断を迫られ揺れ動く。愛し合う二人が、障害を
乗り越えて恋愛を成就させる恋愛映画であるが、パキスタン移民家族が辿ってきた壮絶な差別の歴史を背景に、社会の抱える問題を
浮き彫りにする、いかにもケン・ローチらしいアプローチによる作品だ。

 主役を演じるロシーン役のエヴァ・バーシッスルは、国際的には無名に等しいが、知的な雰囲気漂うブロンド美人。カシム役の
アッタ・ヤクブは、役柄どおりパキスタン移民としてグラスゴーで生まれ育ち、モデルとして活躍していた美男子、本作出演後、
役者としてのオファーが殺到しているそうだ。

 *5月7日より アミューズCQNにて公開予定

  


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