Y.M.さんへ

ことりともしない部屋の片隅に
私の核が落ちていた
手を延ばすと核は消えて私も消える
部屋の灯かりはあらかじめ点いていなかった
足元を蠅が歩いている
季節はずれだ もう冬なのに

魂の全周囲を切開できたとしたて
そこにあるものは難問ばかりだろう
経験も教科書もない外科医のように私はおろおろするだろう
難問は魂を信じさせなくする
魂が信じられなくなったときに
難問は解かるべきものとしてそこに現存する

私はどこからも来なかったし どこへも行かない
ここにいる理由は単純なのに
ここにいる形式は複雑である

管理と自由 制度と実存
ある人はそのことについて
眉間に皺を寄せて考えるし
ある人は酒に酔いながらふと思う
そのこと

私も私の愛する全てのものも皆
そのことの硬い壁を突き抜けるようにありたいがために
空虚を忘却し 理由を生成してきた
破綻を度外視し 計画を生産してきた

その歩み 繰り返し過去へ戻る未来を
反芻する私の脳髄と膚は思うのだ
私の近くに存在する全てのものの中に
せめて見えない共同体の灯かりをともそうと

目の見えないいのちに衝き動かされながら
目に見えないいのちに衝き動かされながら
私が唯一見ることのできるのは
いのちを欠いた物と事と幻と夢にすぎない
どこにも核をもたないそれら全ては
無限に延長される滑らかさを持ち
私たちはその上で転びやすくつまずきやすい

せめて見えない共同体の灯かりをともそう
私のなかに灯るともしび
あなたのなかに灯るともしび
灯火はこの深海の日々の営みのなかに
ゆらめき激しく燃えかつ安定し
消滅する可能性の地下茎をどこまでも延長する
分岐しながら果てしなく繁茂し
地溝のなかに吸い込まれて行く

灯火は限りなく消滅しながら限りなく延長する
或る夜に見た星の発する光の触手であるかもしれない

朋だちよ
私とあなたは別の場所別の時別の隣人別の歴史別の思想
別のからだ別のこころ別の生と死を通い路にしながらも
どこかで同じその星を見たことが
あると信ずるに足る理由がすこしでもあるなら

せめて見えない共同体の灯かりをともそう
紙の上にディスプレイの上に壁の上に身体の上に どこにでも
否 その灯かりの語ることを刻む媒体が
物質でなくてもいいのだとすれば
私たちは自己として他者のために
祈ることができるのではないか
たしかにその祈りもまた難問としてそこに
存在し現存することに変わりはない
だが願わくばそれに取り組む力を
永遠に解かれない難問を解くための私たちの盲目的な力を
もう一度 またもう一度 さらにもう一度!
その「二度とないもう一度」を
永遠に離れ離れで孤独の常にすれちがう旅客者であり
かつ限りなくいとおしい全てのものたちとともにもう一度!!