支援費時代の知更相1  

支援費時代の知更相

〜 地域福祉推進のための、役割の明確化をめざして 〜


 平成15年4月、それまで長く勤務した児童相談所を離れ、知的障害者更生相談所勤務となりました。着任の時は、まさに支援費制度が開始されるまさに「その時」でした。これは奇遇と言うほかありません。

 私の勤務する京都府知的障害者更生相談所では、年に1回市町村や施設等の関係機関に向けて情報誌「Tanto」を発行しており、平成15年度には第11号の発行となりました。10年以上続いた情報誌です。

伝えたいことがある、やらねばならぬ事がある、まだまだ未来はたんとある

Tanto 11号

 創刊当時、巻頭を飾った言葉です。この言葉は、今でもそのまま生きています。そして私が着任して最初に関わるのが支援費制度元年の「Tanto」でしたから、「支援費時代の知更相」と題した拙文を掲載し、私達の職域がめざさなければならない事柄について伝える試みを行いました。以下の文章は、その中からの抜粋に少し加筆したものです。


1 支援費制度のこころと、市町村・関係機関の御尽力

 今、手元に京都府が作成した『「支援費制度」を利用するために』というパンフレットがあります。

 「支援費制度」は、障害のある人が、事業者との対等な関係にもとづき、自ら事業者を選択し、サービスを利用する制度です。

 「支援費制度」は、「サービスを利用するのは、障害者自らの意思と選択である」との理念にもとづくもので、障害のある人が身近な地域で自分にあったサービスを選択し、利用できることをめざしています。

 支援費制度の核心部分です。平成15年度は、この新しい制度の発足に際して 、市町村を始め、関係各機関が本当に御尽力下さったと、まずは衷心より敬意を表したいと思います。

 そして、昨年末に当所が開催しましたネットワーク会議では、各般より支援費制度開始に向けての様々な取り組みや、それらを通しての現場的実感などを聞き、更にその裏付けとなる財政執行に関する現状(居宅支援のための補正予算が、当初予算額を上回った所があったそうです)の報告を聞きながら、我々は従来にも増して、更生相談所業務の第一の柱である、「市町村支援」のために、「専門的立場からの相談・支援」について、可能な限り努力しなければならないと感じました。

「共に支援を進める、連携・協力のための専門相談機関としての知更相をめざそう」…。

 こんなキャッチフレーズがイメージされます。

 新年になり、介護保険制度と支援費制度との合体を検討するという報道がありました。私たちは、障害者一人ひとりの権利擁護の立場から、施策・制度に対する意見を持たなければなりません。

 

2 更生相談所事務マニュアルの発行

 前号で、「知的障害者更生相談所のあり方」検討委員会の報告内容を掲載しましたが、検討委員会の議論の成果として、平成15年7月に「更生相談所事務マニュアル 障害者の地域生活支援に向けて」(中央法規発行 3,800円)が出版されました。知的障害者更生相談所が実施すべき業務を集約したマニュアルは、これまで存在しなかったので、本書の編纂は画期的なことでした。このマニュアルには、知的障害者更生相談所業務の他に、身体障害者更生相談所が実施すべき業務についても、同じ支援原理に基づいて執筆・掲載されています。支援費制度の導入を期に編纂された本書によって、知的障害者支援(更に身体障害を含む障害者支援)の方向が明確化されました。

 このマニュアルに示されている、知的障害者更生相談所の新しい役割の柱は次のとおりです。

 1 市町村支援

 地方分権、及び支援費制度の導入に伴い、市町村の役割・権限・責任が大きくなっています。都道府県は、市町村において支援費制度が円滑に行えるよう必要な支援を行う役割を担います。

  @ 障害者の相談支援と指導
  A 医学的、心理学的および職能的判定
  B 施設入所に係る市町村相互間の連絡調整等
  C 専門的技術的援助および指導等

 2 研修の実施と情報提供

 3 地域生活支援の推進

 ここで示されている相談所業務の柱を、実務にきっちり反映させる相談・支援体系をまず確立しなければなりません。そこで平成15年度からは次のような業務体系をまず我が所の前提に据えました。

知的障害者相談・支援概念図

 

3 全国版事務マニュアルを、我々の日々の実務に反映させる

 京都府知的障害者更生相談所では、支援費制度導入以前から、年1回「ネットワーク会議」を開催してきました。そして、昨年末のネットワーク会議では、「平成16年度版 知的障害者相談の手引き」を作成・配布しましたが、この手引きが、全国版「事務マニュアル」を、我々の日々の実務に反映させた形としての全てになります。

 障害理解や支援に向けての原理・原則の提示や、実務遂行のための手順やそのための諸形式の整備などについても、支援費制度時代である今日的な要請に基づいた内容となっていますが、新たに「第4 知的障害者相談業務の実際」という項を追加したことも、大きな特徴のひとつです。そして、この執筆に当たり、前記の全国版「事務マニュアル」の存在が大きな助けとなりました。支援活動・支援事務推進のための基本理念や基本ルールの提示や確認のためだけではなく、読物としても活用していただけましたら望外の喜びです。

 私たちの業務の第一の柱は「市町村支援」ですから、当所への相談は、市町村経由で寄せられるのが原則になります。そして、地域から寄せられる相談の内容によって、「療育手帳に関する相談判定」「施設利用相談」「個別支援相談」「進路相談」「障害程度区分に関する相談」「その他の相談」に区分しています。このことは、「相談手引き」の中でも繰り返し述べていますが、どのようなTPOで、どのような相談区分枠を通して、知的障害者更生相談所に対して相談を開始することができるのか、積極的・肯定的なイメージで思いめぐらしていただければ、非常にありがたいと思います。そして、必要な時には、必要なだけ、労を惜しまずに手を携えていけることを内外に向けて切望する次第です。

 

4 平成15年度の相談の特徴

 支援費制度の導入によって、知的障害者更生相談所の業務内容は、施設入所時の判定が不要になるなど、相談件数が減少するのではないかという予測がありました。しかし、下の表に見られるように、京都府の知更相でも、総件数として減じることはありませんでした。

 支援費決定をめぐる、障害程度区分に関する相談はほとんどなく、マニュアルに従って市町村レベルでの支給決定がほぼ円滑になされてきていると見ていいのでしょう。ケア・マネの手法を、地域に導入・定着させることが今後の課題となります。

 支援費制度の導入によって、療育手帳の新規申請が増えてきました。中高年の方の申請が目立ちます。支援費制度推進の前提として、療育手帳の所持が、現実的には支給決定判断の際の基礎要件となるので、新規取得申請が増えているようです。

 個別支援相談と、進路相談が伸びています。いずれの相談も、地域における今後の支援の方向をを検討・実施する際のスタートラインとなる相談ですから、これらの相談を通して地域ネットワークや、市町村支援が実現されるのです。ですからこれらの相談は、単に判定をして、結果を地域へ送付するだけではダメであり、今後の支援のポイントを共に検討する「ケース検討」の実施が要になり、場合によってはその作業を継続しなければなりません。前ページの下の表は、継続的な取り組みの結果を示していますが、昨年度と比べても大きく伸びてきており、支援費時代の更生相談所へと変化してきていることを示しています。特に、ケース会議を各地域で継続的に開催してきており、出張対応でのケース会議数は、昨年が9件だったのに対して、今年は28件と大きく伸びています。また判定の結果を、本人・家族・関係者などに伝えることも、必要に応じて開始しました。

 

5 地域支援システム発展モデルに思う

 厚生労働省は、平成15年5月30日付けで、「障害者地域生活推進特別モデル事業の実施について」という通知を行いました。この中には、「地域生活移行事業」と「地域生活支援ステップアップ事業」という二つが含まれているのですが、それはさておくとして、この中で、全国的に見て先進的と思われる地域における、地域支援システムの実際の発展・成長過程を分析し、これを5つの段階に分析して図式化した「地域支援システム発展モデル」は、ネットワーク構築という観点から見ても興味深いものです。掲載している図は、市町村型圏域タイプの第W期「圏域設定と地域内連携強化」の模式図です。

 この「発展モデル」によれば、地域内に「相談支援事業」がない状態から出発して、まず「相談支援事業者」が生まれ、これが活性化して実施機関である市町村との連携が始まり、圏域内支援システム・府県レベルの支援システムへと有機的に発展していく5つの段階が抽出されるといいます。ところでこの流れをよく見ますと、このような発展過程を牽引している原動力は、「相談・支援」という概念や活動ではないでしょうか。そのことの実践として、各地域に「障害者生活支援センター」の整備が望まれるわけです。そして、このセンターが核となって地域が発展していくためは、

   @地域の中で「相談・支援」という方法が定着し、

      A関係者ネットワークが作動し、

         Bその結果として有効なサービスが拡張・発展してくるという、

3つの動きが生起しなければなりません。知更相は、様々な「相談・支援」を各地で実現させるための専門的な地域援助機関であるので、ネットワーク化の推進は知更相の生命線でもあります。

 ひとくちにネットワークといっても、有効で活発なネットワーク化はたやすくありません。しかし、活性化の秘訣は逆にそんなに難しいものでもないのです。まず、自分のポジションを知ること、また周辺はどうなっているのか見ること。そしてそれらの間にどんな動きや関係があるのかを相対的に把握します。更に、自分の機関や周辺の機関は、今は実現できていなくても、どのような動きを相互に望んでいるのかを考えます。後はその実現を、半歩のお節介を恐れずに、一歩づつ進めるだけなのです。これらの様子を、上に掲載したような図に書き込んでいくと、ネットワーク地図ができます。そして、できあがった地図を関係機関と共有するなら、更に連携が進むでしょう。現状はともかくとして、「かくありたい図」を複数機関で、ゲーム感覚で作成すれば楽しくなります。

 ネットワークと言えば、例えば「知的障害者福祉」という領域内でのネットワークも大事なのですが、児童福祉・老人福祉・他の障害福祉・女性福祉・生活保護…などの他の領域とのネットワークも大切で、このあたりはまず府の機関同士が積極的に連携していかないとダメだと痛感しています。例えば、虐待・DV・貧困などの事象の中に、知的障害の問題が含まれることも少なくなく、その場合に、弱者である知的障害者はまず始めに阻害されるのに、他方では「(知的障害なのだから)仕方がない」とずっと放置されることはなかったでしょうか。こんな事が生じないためにも、領域間ネットワークの推進が重要なのです。

 支援費時代の知更相は、「地域福祉推進のための自らの役割の明確化」をテーマとします。

 

児童福祉スクエアのページに戻る

ホームページに戻る