児童虐待シンポジウムから

システム論から見た児童虐待

柴 田  長 生


 平成8年7月5日、京都府と京都市の関係機関が合同で「小児保健研究会」を開催し、児童虐待に関するシンポジウムを開きました。私もシンポジストの一人として、親や家族の側から見るとどうなのかという観点から報告しました。以下はその報告の抜粋です。
 当日は事例も交えて報告したのですが、インターネットというメディアの関係上、事例は扱えませんので悪しからず。

*   *   *

1 統計的なこと

 京都府の児童相談所の虐待相談件数は以下のとおりである(平成7年度厚生省への相談業務報告)。件数的には決して多くない。しかし一旦相談が開始されるとケースワーク的な労力が非常に多くかかる。なお、この中に電話相談の分は含まれていない。
 現在、全国児童相談所長会のリードで、虐待を含む相談の受理状況の調査を全国規模で行っている。京都児童相談所では7月上旬までにすでに6件の相談があった。

@ 経路別相談件数(誰から相談があったのか)と、性別の内訳

児相名家族親戚福祉事務所学校合計合計
宇 治   
京 都  
福知山    
合 計

A 主たる虐待者

児相名実父実母その他合計
宇 治 
京 都 
福知山  
合 計

B 虐待者本人からの相談件数

児相名実母
宇 治 
京 都
福知山
合 計

C 被虐待者の年齢別・種別相談件数
児相名0〜3歳3歳〜小学校中学校高校生合計
宇 治   1(身) 1(心)
京 都1(身) 2(身) 1(身)  
福知山1(身)     
合 計 

注) (身)は身体的虐待、(心)は心理的虐待


2 虐待をシステム論の視点から検討してみると…

 児童相談所が受けた虐待相談の全体をシステム論の観点から検討してみるといくつかの特徴を見いだすことが出来る。この特徴をまずよく承知することが実際のケースワークを進める上で大切だと考える。なお、ここで報告する議論は、季刊誌『発達』(ミネルヴァ書房刊)第49号において、演者らが事例を交えて報告しているものを基礎としている。

 @ 虐待認定の難しさ
   ・事実(虐待事実・人間関係の事実など)を把握することの難しさ
   ・緊急時危機介入に対する方法論のなさ
    承知はしているが、実際に行使することはほとんどない法的介入
    児童福祉法第28条(保護者の児童虐待等の場合の措置)
    児童福祉法第33条の7(親権喪失宣告の請求)
    家事審判法第15条の3(審判前の保全処分)
    交通事故にあった児童が宗教上の理由で医療拒否をし、そのために即日死亡した
    事例の後、児童福祉法第29条(立入調査)に関して部内検討したこと
   ・相談・援助者として接近するという立場に関する難しさ(介入しなければならない
    ことと、その後の相談関係を維持・形成しなければならないことのジレンマ)
   ・相談テーブルをいかにすれば作ることが出来るか

 A 虐待は関係の相互性の問題である
   ・虐待という事象そのものがが「家族に含まれる何らかの関係のシンボル」ではないか
   ・虐待しているといわれる人は、過敏な人たちであり、ある意味では追いつめられて
    いる親である
   ・虐待事象をめぐる構造を見てみると、そこで生じているのと同様の構造が、近いと
    ころに相似形のように存在することが多い。
    当代の親子と先代の親子の相似構造(加害者は被害者…)
    家族内の関係と家族の内外の間の関係
   ・虐待は人と人との間の<感情>の問題である

 B 虐待の背景に<家族の構造>が横たわる
   ・義理の関係、ステップファミリーを生きるということ
   ・家族構造の中に所在する様々なストレスや葛藤
   ・家族の構造の中に父子家庭としての構造や、母子家庭としての構造が隠された形で
    含まれてくる

 C 分離された家族と、<家族の絆>
   ・覆水は盆に戻るか…!?
   ・家族の絆は何によって形成されるのか(家族の中で反復して語り合われる、家族自
    身が主人公となる物語には、家族の感情や絆をプラス方向に強める物語と、マイナ
    ス方向に強める物語がある)
   ・語り続けられる物語が、家族の中に新たな<意味>や<感情>を産み、育てる

 D 地域社会との関係
   ・噂の中で孤立する親(虐待者)たち(田舎でも、近郊でも、都会でも)
   ・関係者・無関係者
   ・地域社会は何をケアできるのか

3 子育て・家庭支援ネットワークづくりに向けての一つの提言

 若い父の暴力は母の妊娠中からすでにあった…。
 その時から現在まで一貫してこの母やこの家族やこの子達を見守り続けてきたのが地域の保健婦であり、何かあった時に一貫して具体的に対応し続けてくれた地域の総合病院の小児科の主治医であった。母子保健を軸に子ども達の発達評定や子育て指導をしながら、継続的にこの家族にモニターをかけつつ広い意味での家族支援を行い続けてきた。結果的には虐待の再発ということになったのだが、その時に児相を含めた三者がすぐに具体的に対応を開始できたことがなによりも心強かった。
 就学前の時期は、子どもだけでなく、夫婦も家族の歴史もまだ若い時期である。若い時期だけに、家族の中で生じる問題に対する対応力もまだまだつたないのかも知れないが、逆に経過がこじれきっていない分、この時期にうまく家庭支援・子育て支援を行うことが出来れば、より少ない労力で良い方向へのスタートを切らせることもできるのであろう。
 就学前の母子保健といえば、これまで障害児の「早期発見・早期治療」が仕事上の合い言葉であった。健診体制の確立でこのあたりのことがほぼうまく行くようになった現在、母子保健の重心を、むしろ若年家庭の子育て・家庭支援の方に移していっても良い時期ではないかと思われる。そしてそのために、各地域というフィールドで、子どもに関する諸機関が、いかに問題を共有し役割を分担し合うかが本当の<連携>なのだろう。例えば平成9年の地域保健法の施行にあわせて、ある虐待ケースで手を携えることの出来た関係の良さをバネに、児童相談所といくつかの保健所とが「子育て・家庭支援懇話会」の様なものをスタートさせることが出来たとしたら、<虐待防止ネットワーク>の設置と改まらなくても、十分そのような意味あいをも有する、更にレインジの広い有効なネットワークが組めるのだろう。指示されてネットワークを組まなければならない為に、ネットワークを組むというのはいかにも仕事として空しい。

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