
これから紹介する五つのケースは、青春ドラマのような、本人と周囲との血みどろの戦いの末に立ち直っていくといった劇的な事例ではない。むしろその終結は、読者にとってはあっけないようなものもあろう。しかし、それにはそれなりの〈わけ〉がある。
ここに述べた事例が、非行ケースの典型というわけではない。家族療法にはとても至りそうにもないような事例が、非行ケースにはむしろ多いからである。しかし、そんな家族の場合も、ここで紹介するようなケースの場合も、その家族には共通した一つの特徴がある。本書のねらいは、非行問題とその処遇について、子どもに対する個別処遇の視点からではなく、家族システムの視点から検討するところにある。
非行問題をめぐる家族療法の報告はあまり聞かない。民間クリニックでの治療も、登校拒否その他の症例が圧倒的に多いのに対して、非行の治療例はぐっと数が少ない。そのことの理由のひとつとして、次に述べるような症状そのものが持つ特徴の違いを、まず指摘することができるのではないだろうか。
「非行と家族療法 第1章より」