平成12年8月19日付けの朝日新聞の<ひと>欄に、東京フルトヴェングラー協会の野口剛夫さんのことが載っていました。以下はその記事の全文紹介です。
まぎれもなくブルックナーの交響曲第八番が鳴り響く。百人ものオーケストラではない。四台の電子オルガンと、電子バーカッション。五人の″大オーケストラ″に、指揮者として取り組む。
電子オーケストラはポピュラー音楽、オペラ、協奏曲に使われているが、あえて指揮者の解釈を問うブルックナーの交響曲に挑んだ。昨年に続き、この七月にも演奏会を開いた。
「費用が十分の一で済むということもあるが、それよりも、音楽そのものに迫るライブ演奏に現代技術の粋を生かしたい」
もちろん本物のオーケストラも振る。東京フルトヴェングラー研究会管弦楽団という。その名を冠せられた大指揮者は、自らは作曲家だと信じていた。約五十人の仲間とともに、埋もれている作品の日本初演をする。
この目的があって、指揮法を独学。大学院の哲学専攻から音楽大学に転じた。作曲家別宮貞雄さんに師事、のちに恩師の養子になった。
評論家、編集者の顔も持ち、フルトペングラーの研究家として知られる。ドイツで毎年開かれる国際学会に出席し、日本で報告会を開く。十数曲の歌曲集の校訂をし、世界で初めて出版。関係音楽書の翻訳も次々手掛けている。
半世紀も前の指揮者と、電子オーケストラと?
「感動を大切にしたい。今の時代にそういう音楽家がいないから、フルトペングラーまでさかのぼった。本当に心に根差した音楽とは何か、を考えさせられる存在です」
フルトペングラーに学んだ音楽観をいろいろな方法で表現しようと考えている。電子オーケストラもその一つだ。
「指揮するのが好きなんです。本物のオーケストラと人数は違っても、指揮に取り組む姿勢は変わりません。音楽の原点を追い求めたい」 (文 横田庄一郎)