宇野功芳氏の「フルトヴェングラーの名盤」の中に出てくる、ベートーベンの交響曲第2番と第8番に関する<贋作>の話を読んだ時(他者のステレオ演奏を、ピッチをずらせ、モノラルにして、W.Fと称するなど…)、「まったくひどい話だ」と思ったことがあった。このようなまったくの<贋作>でなくても、これまでのコレクションの経過の中で、妙なものに出会っているのだろう。その中には今日までわからなかったものもある。
例えば、今から25年前に買った、turnabout VOX の「エロイカ」である(TV4343)。ジャケットには、<1944年、ベルリンフィル>と書かれていた。まもなく知り合いのレコード通のおじさんから、「これが有名な、ウィーンフィルとの、<ウラニアのエロイカ>である」ことを知った。しかし、後にフォンタナのレコードなどで、同じの録音とされる<エロイカ>を聴くのだが、聴いた感じやピッチなどがかなり異なり、何がオリジナルか、ちっともわからないと思った。でも、感銘させられる<エロイカ>ではあった。特に第1楽章がすばらしい。
フルトヴェングラーに出会い始めた、25年前のダントツのレコードは、やはり「バイロイトの第9」であった。しかし当時から、この演奏の第1楽章だけは、どうも生ぬるいという感じがあった。ものの本には 「ソ連に摂取された録音の中に一つに、<1942年のベルリンフィルの第9>があり、金縛りにあったほどの、恐ろしいまでの演奏で…」という話を初めて読んだ。メロディア原盤の第9のことである。しばらくしてレコード屋に立ち寄ると、なんとこの演奏が900円で売っているではないか。飛びつくように買ったが、今考えると変なレコードである。アメリカのEVERESTから出た、ステレオレコードであった(EVEREST 3241)。音が貧弱で、ステレオにするから音が曖昧になって…、およそ聴けたものではなかった。でも、何であれソースは何らかの1942年演奏によっているのだろう。このレコードほど、元の演奏を想像しながら聴いたものはない。ロシア製のメロディアのCD盤を入手して、初めて解決がついた。
それから時は流れ、CDが世の中に出る前後から(昭和50年代の後半)、いろんな録音が出回りだした。その立役者のの一人は、間違いなく<チェトラ>だっただろう。ヒストリカル・ライブ専門のレーベル…。そんな強い印象があり、好奇心をそそるものを次々に発売していた。そして、箱入りのレコードを数種類買うハメになったが、いずれもぴたっと来なかった。購入した中では、「田園」や「K466」などが入った1954年、ルガーノのライブがよかった。一番失望したのが、「ルツェルンの第9」であった。昔から愛読していた「フルトヴェングラー頌」のディスコグラフィーにある、「本当に聴きたいのは、ルツェルンでの驚異的演奏だ…」との記述が余りにも印象的であったからである。「<バイロイト盤など足下にもよらない第9>というのを連想していたから、もうコレは<神業中の神業>に違いない」、そんな妄想があった。だから、何をさておいてもコレは聴かねばならない。チェトラの箱入りレコード(LO530)であった。DIRIGE BEETHOVEN、何ともそそられるタートルではないか…。その結果は、書かない。「こんなもんだったのか?」「いや、そんなはずはない…」この気持ちが続く。それを<翻弄させられた…>というのだろう。 こんな思いをすこしづつ解消してくれたのがCDの登場であり、<ルツェルンの第9>については、はじめはルドルフのCDが、そして最近になってTAHRAが、段階的に解決してくれたのであった。
「RODOLPHE PRODUCTION(RPC 32522.24)というもので、LONG PLAYING MONO COMPACT DISC と銘打たれている代物である…」
こんな書き出しで綴った私のページの記事を、いろんな方が読んで下さった。
(3)「片チャンネルのBeethoven全集(-1)」についてですが、これは正規なCDではなく海賊盤です(Elisabeth 夫人がどう思ったかは知りませんが)。没後25年にあたる1979年にヨーロッパのFM放送でかなりの数のFurtwaenglerの演奏会録音が放送されました。巷に出回っている正規でない音盤で音の良いものは、この時の放送のエアチェックテープを用いたものが多いらしいです。具体的にどんな曲が放送されたのか、私も 詳しくは知りませんが(要するに、又聞き)。 都志見正次 さん
こんなメールがまず届いた。そうだったのか…と思った。ただ、発売元のハルモニアムンディというフランスのレーベルは、LPレコードの時代から、特にバロック以前の音楽においては有名なレーベルであったので、信用のおける発売元かと思っていた。
そうこうする内に、フルトヴェングラー関連のすばらしいホームページを開いておられる、林伸司さんから、次のようなメールをいただいた。
ハント著の「フルトヴェングラーサウンド」という著名なカタログにも記載されています。7・8番が53年(DGと同じ録音)、1番が54年9月9日の巨匠最後の演奏会録音と比較的、戦後の録音状態の良いものが中心ですね。しかし、私はカタログ上でしか知り得ないものですので、なんとも言えません。ただ9番のルツェルン盤はTAHRAと4楽章のみのレリーフ(リヒテンシュタインの小レーベル)しか オーソライズされていないとヴァージン池袋店の宣伝にはありました…。
林さんのリンク経由で、フルトヴェングラーのディスコグラフィーのページを見ると、このCDは確かに紹介されている。ただし、第9だけが紹介されていなかった。このCDは、音も演奏も決して悪いものではない。だからそれなりに珍重してはいたのだ。しかし最近、やっとTAHRAの<第9>を入手して聴いてみると、演奏は同一ではあったが、音の鮮明度がやはり大きく違っていた。やはり正規盤は正規盤…ということをここでも思い知ることになったのである(最初の経験は、メロディアの<第9>)。
でも、ルドルフのCDには変な愛着があった。ホームページに紹介したからかもしれない。エロイカも50/6/20の演奏だと思っていた。そんなところに、今村さんから次のようなメールが届いた。
私も貴殿と同じCDを持ってます。英雄交響曲の1952/12/8がはじめて完全な形で聞くことができた盤でした(ジャケットは50/6/20などと書いてますが明瞭な誤記というか出自をごまかしたいがためのワザか)。それまでのチェトラ、日キング盤は第1楽章終結部を12/7の演奏で差し替えて発売していましたから。でも最終楽章が次のトラックにまたがるというのもかなりやっつけ仕事な編集だなと思っていました。そのせいでしょうか、ロドルフはこの3番だけは1枚ものでも発売したのです。私はそれも持っているのですが。そのCDの表側ジャケットにはOPERA GARAなどとか書いてあって、カラー写真の指揮者とオケはフルトヴェングラーとはまったく関係無い物なのです。曲名すらかいてない!。裏側を見てようやくフルヴェンのものとわかるという、ひどい代物です。しかし、まあ、わるくもない音質だったので愛聴しておったのです…。
ゲゲゲ…。じゃぁ、あのルドルフのCDは何だったのだろう…。<贋作>ではないのだが、やはりまがい物だったのか。最近入手したTAHRAの52/12/8のエロイカと注意深く聴き比べると、第1楽章冒頭しばらくの咳払い、同じく展開部に入ってすぐの2カ所の咳払いは、すべて同一箇所であった。ちなみにLPで持っている12/7とされる<エロイカ>には、咳払いはなかった。ちなみに前述のチェトラのLPは12/8盤(箱には12/7と書かれている)であるが、音質が比較にならない。音質は、当然TAHRA盤の方がクリアーで豊かなのであるが、ルドルフ盤も低音部に厚みのあるもので、私は嫌いではない。しかし日付が違う!!
ようするに<まがいもの>だったのであろうか。しかし、前述のディスコグラフィーにも、50/6/20と書かれていたのに…。