交通労働災害ゼロへの道

自動車運送事業では、輸送の安全の確保が事業経営の根幹です。そのさい重要なキーワードは、経営トップの安全確保の意志と行動です。労働災害は「人」と「物」とのかかわりから発生します。「人」の不安全行動と「物」の不安全状態を無くすることが”交通労働災害ゼロへの道”です。
ここでは、安全対策に取り組む上で参考になる資料を紹介します。
トラックの過労運転による事故を防止するための安全対策の提言 国土交通省
交通労働災害防止のためのガイドライン 厚生労働省
人はどんなミスをして交通事故を起こすのか ITARDA
トラックドライバーのための安全運転の基礎知識 全日本トラック協会
SASを正しく理解し、早期治療で安全運転を 全日本トラック協会
事業用自動車総合安全プラン2009 国土交通省
事故事例集(トラックの事故) 国土交通省
社会的影響の大きい重大事故の要因分析 国土交通省
交通事故加害者の手記「贖いの日々」 東京安全協会発行誌より
事業用自動車の運転者の健康管理に係るマニュアル 国土交通省
陸上貨物運送事業労働災害防止規程 陸上貨物運送事業労働災害防止協会

事業用自動車の交通事故要因分析(平成19年度)の結果について 国土交通省(2008.07.04)

国土交通省では、事故が発生した背景としての自動車運送事業者の運行計画、安全指導状況等の運行管理上の要因の把握や事業用自動車による全国的な事故発生傾向の分析を行う観点から、平成11年度から「自動車運送事業に係る交通事故要因分析検討会」を開催し、事故分析及び安全対策を検討しているところです。
今般、検討会における平成19年度の調査・分析等の結果及びトラックの過労運転による事故を防止するための安全対策がまとまりましたので公表します。

 1.別紙【PDF/896KB】
 2.自動車運送事業に係る交通事故要因分析報告書(平成19年度)【PDF/8MB】
 3.トラックの過労運転による事故を防止するための安全対策の提言(別添1)【PDF/416KB】
 4.トラック輸送の過労運転防止対策マニュアル(別添2)【PDF/496KB】


トラックの過労運転による事故を防止するための安全対策の提言        平成20年3月
                                自動車運送事業に係る交通事故要因分析検討会

◆はじめに

国土交通省自動車交通局では、平成11年6月の運輸技術審議会答申を踏まえ、事業用自動車の事故について事実発見を重視した科学的事故調査を基盤に原因を分析し、再発防止策を立案している。具体的には事故の経過、運転者の状況、運行管理の状況、車両の状況等の情報を収集し、事故発生の要因及び背景を主に4つの要素(利用者及び運転者面(Man)、車両面(Machine)、走行環境面(Media)、管理面(Management))の4M側面に整理し、科学的な究明・分析を行い、再発防止対策の立案に反映させることを目的として、産官学協働による「自動車運送事業に係る交通事故要因分析検討会」を設置し、統計分析、事故事例分析等の事故要因の分析と対策についての検討を行っている。
本検討会におけるこれまでの具体的な事故事例の検討結果を踏まえ、トラックの多発する追突事故や出会い頭事故などを詳細に分析すると、事故統計には直接表れないが、背景に必要な休憩を抑制した長時間運転や慢性的睡眠不足が累積するなど過労運転による事故と判断されるケースが見られた。
現在、日本の産業社会基盤である物流の主軸を担うトラック運送事業が占める位置づけは極めて大きい。しかし、運輸安全の基本要因である人、道、車、管理のうち、人と管理については新規参入を含む約6万社のトラック運送事業者のうち9割以上を中小企業が占め、その運転者を取り巻く労働条件も厳しい状況が続く中、行き過ぎた事例では、結果的に安全対策が不十分となっているものが見られる。トラック運送事業の健全な発展を願う視点からは、その改善は急務の課題である。
今回、しばしば社会問題にもなるトラックの重大事故の背景にある過労運転を取り上げ、実行可能な再発防止対策を検討した。過労運転事故を減らすための実効性のある対策について、多面的、専門的に検討し、荷主を含むトラック運送事業者、行政機関等関係者が連携して取り組むことが望まれる具体的な措置を示したものである。ここに関係者が率先して実効ある過労運転に係る事故対策に取り組むことを期待する次第である。

目 次
T.目的
U.トラック運送事業の概要及び事故の現状
 U‐1.トラック運送事業の概要
   (1)トラック運送事業者数の推移
   (2)トラック運送事業における運賃の水準
   (3)トラック運送事業における実労働時間等の水準
 U‐2.事故の現状
   (1)交通事故統計からみたトラックの事故の現状
   (2)事故事例調査からみたトラックの事故の現状(ミクロ調査)
 U‐3.「事業用自動車の運転者に係る過労運転の実態に関する調査」 の結果概要
 U‐4.その他の文献調査により把握した事項
V.具体的提言
 V‐1.トラック運送の安全確保に向けて
   (1)運行と過労のメカニズムの理解促進および休憩・睡眠の改善
   (2)運行管理(点呼、労働時間の管理等)の徹底
   (3)日常的な健康状態の把握・指導
   (4)運転者が相談しやすい職場環境の整備
 V‐2.荷主・元請事業者との連携・協力
 V‐3.車両面の安全対策
 V‐4.走行・荷役環境面の対応

T.目的

トラックが関係する交通事故は追突事故が約半数を占めており、その割合は他の交通形態と比べて非常に大きい。違反項目別にみると安全不確認、脇見運転、漫然運転等の安全運転義務違反によるものが8割を占めているほか、死亡事故についてみると、深夜から早朝の間に多く発生しているところであるが、これまでの本検討会における議論において、トラック運送に係る運行形態や労務管理に関して、「過労」が事故の背景要因のひとつとなっているのではないかとの指摘が複数の委員よりなされている。また、トラックが追突事故を起こした場合の死亡事故率は、乗用車と比べて10倍以上高いなど、トラックが関係する事故は社会的影響が大きいことも踏まえ、このようなトラックの過労運転による事故防止のため、早急に実効性のある予防対策及び再発防止対策をすすめることが求められている。
このような背景のもと、本提言においては、自動車運送事業に係る交通事故要因分析検討会での検討成果及び平成18年度に実施した「事業用自動車の運転者に係る過労運転の実態に関する調査」に基づいて検討をすすめ、過労運転による事故を減らすための実効性のある対策について、トラック事業者等関係者が連携して取り組むことが望ましい具体的な措置を示したものである。

(本提言における過労防止の考え方)
本提言の取りまとめに際しては、日常生活(運転等の業務を含む)における疲労が休息及び睡眠によっても回復されないことが繰り返されることにより、疲労が蓄積し、通常の運転能力の低下が認められる状態を「過労」と呼ぶこととする。
なお、貨物自動車運送事業法等においては、トラック運送事業者は過労運転の防止のため、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年2月9日労働省告示第7号。最終改 正平成12年12月25日労働省告示第120号。以下「改善基準告示」という。)の拘束時間、運転時間等を遵守する必要があるが、今回の提言の対象はそれよりも広い概念であること、また、疲労の蓄積及び回復には個人差があり、過労に係る定量的な基準を策定することは困難であることに留意する必要がある。


U.トラック運送事業の概要及び事故の現状

U‐1.トラック運送事業の概要
(1)トラック運送事業者数の推移
トラック運送事業者数は、平成2年にトラック運送事業参入に係る規制緩和がなされた結果、新規参入が急増し、平成2年度(平成3年3月末)に4万社程度であったものが、平成9年度に5万社を超え、平成18年度には62,567社となった。なお、新規参入事業者は、平成8年度からは継続的に毎年2千社を超えており、平成17年度も2,243社となっている。



                    出典:国土交通省自動車交通局貨物課資料
                       参考資料:社団法人 全日本トラック協会「平成19年版 トラック輸送産業の現状と課題」


(2)トラック運送事業における運賃の水準
平成12年を100としたトラック運送事業における運賃の水準は、一貫して低下している。



                   出典:国土交通省自動車交通局貨物課資料


(3)トラック運送事業における実労働時間等の水準
厚生労働省の「毎月勤労労働統計調査年報」によれば、トラック運送事業における実労働時間は依然として高い水準にある。年間実労働時間は平成13年までは減少傾向、平成14年〜16年は漸増、平成17年は16年よりも若干減少したものの2,260時間に達しており、平成13年の水準よりも明らかに増加している。これに対して全産業平均の実労働時間は減少傾向にあり、平成17年の年間実労働時間は1,829時間であった。




トラック運送事業における平成16年度、17年度の従業員数は、平成9(1997)年度の121万5,969人以来ふたたび120万人を超えた。また、運転者は平成17年度において、88万2,350人になり、前年に比べて2.1%増加している。



                         出典:国土交通省自動車交通局貨物課調べによる。


U‐2.事故の現状
(1)交通事故統計からみたトラックの事故の現状
事業用自動車の全国交通事故統計(マクロ統計)における、平成18年のトラックの事故件数は34,940件である。事故件数は、平成13年をピークに平成14年は減少し、平成15年は一旦増加したものの、その後は減少傾向にある。



          出典:(財)交通事故総合分析センター「平成18年版事業用自動車の交通事故統計」

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なお、保有台数1万台当たりの事故件数をみると、平成15年以降は減少している。



           出典:(財)交通事故総合分析センター「平成18年版事業用自動車の交通事故統計」


1億走行キロ当たりの事故件数をみると、事業用自動車全体の中でトラックは、バス、ハイタクよりも低い水準を推移している。この様に、トラックによる事故は、事故発生率が相対的に低いが、一度事故が起こると致死率が高く、複数犠牲者が出るなど社会的に注目されやすいのが特徴である。



            出典:(財)交通事故総合分析センター「平成18年版事業用自動車の交通事故統計」


トラックの事故のうち、追突事故は17,371件と約半数の49.7%を占めている。なお、最近10年間の追突事故率は、49%程度でほぼ変化はない。



            出典:(財)交通事故総合分析センター「平成18年版事業用自動車の交通事故統計」


トラックが追突事故を起こした場合の死亡事故率は、乗用車に比べて約12倍、一般道と比べ高速道路での事故率は約5倍(トラック同士で比較)となっている。



         出典:(財)交通事故総合分析センター 全国交通事故統計データ(H13〜H15)より


トラックの時間帯別の事故件数は、8〜12時の時間帯等、交通量の多い時間帯に多く発生していることがうかがえる。 全事故件数のうち死亡事故件数をみると、深夜・早朝に多く発生しており、長距離運行トラックの過労運転による事故があるのではないかと推察される。



          出典:(財)交通事故総合分析センター「平成18年版事業用自動車の交通事故統計」


トラックの追突事故における時間帯別危険認知速度をみると、22〜6時の深夜・早朝の危険認知速度は高く、交通量が少なく、スピードを出して運転できる環境が要因ではないかと推察される。



         出典:(財)交通事故総合分析センター「平成18年版事業用自動車の交通事故統計」


(2)事故事例調査からみたトラックの事故の現状(ミクロ調査)
事業用自動車の事故の背後要因を把握するために、運輸支局の調査員による事故事例調査(ミクロ調査)を実施しており、平成14年度からは「トラックの深夜・早朝時の追突事故」を重点項目の一つとして調査を実施した。調査項目には適正な運行計画が立てられていたか、運転者の勤務状況、点呼の実施状況が適切であったか等も含まれ、過労に関わる内容も調査している。
平成14年度から平成18年度においては、同種の事故について合計249件の事故事例が収集された。これらの調査結果を集計したところ、点呼、運行管理の面等、過労との関係から問題があると考えられる事例が以下の通り確認されている。
(a)点呼の実施が不適切な事例:70件/235件
遠隔地での点呼を当該営業所の担当者が行っていない。
電話等で点呼を実施した記録がない。
(b)改善基準告示が遵守されていない事例:112件/221件
事故前1ヶ月間の運行において、16時間超える拘束時間の乗務が7回、休息期間が8時間未満の日が3回、4時間を超える連続運転が19回となっており、運転者に対する労務管理が不十分であった。
(c)運行における休息及び仮眠の取得が不適切であった事例:40件/119件(全体の34%)
睡眠不足(前日2時間の睡眠)。
車中の睡眠時間が事故の前日は3時間/日、2日前5時間/日、3日前4時間/日であり、いずれも日中に取得している。当該運転者は、「睡魔におそわれていた」「体調がすぐれなかった」ことを認識。
(d)労働(乗務)時間を把握していない営業所:76件/213件
運転者の実際の労働(乗務)時間管理がされていない。
乗務基本ダイヤを作成していない。
(e)健康診断が実施されていない事例:60件/236件
事業所の全ての運転者が過去1年間健康診断を受診していなかった。
(f)運転者と運行管理者のコミュニケーションがとれていない事例
運転者が家庭の事情で病院に寄る等して運行コースから外れたにもかかわらず、事前に運行管理者に報告・相談を行っていない。
運転者は「個人的な問題を抱えていた」「運転時に違和感があった」が、運行管理者には相談していなかった。
(g)運行において遅延が発生していた事例:81件/218件
運行中にタイヤのパンク修理に1時間30分を費やし、遅延を回復しようとして4時間を超える連続運転時間、速度超過となった。
注)分母は調査結果から事例の有無を確認できた件数

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U‐3.「事業用自動車の運転者に係る過労運転の実態に関する調査」の結果概要
過労運転の実態をより詳細に把握することを目的として、平成18年度に要因分析特別調査「事業用自動車の運転者に係る過労運転の実態に関する調査」を実施した。運転者に対するアンケート調査及び添乗調査、事業者及び運行管理者に対するヒアリング調査等が行われ、それぞれ以下のような結果が得られた。
@ トラック運転者に対するアンケート調査(14事業者の運転者415名に対するアンケート調査)
睡眠場所の満足度と疲労度との間には有意な関係がみられる。睡眠場所に不満がある人ほど、疲れている人が多い。
睡眠時間が6時間を切ると、また、1日の運転時間が10時間を超えると、疲れていると回答する運転者が多くなる。
約40%の運転者が、時間に追われながら運転することが多いと回答した。また、27%の運転者が、眠気を我慢して運転することが多いと回答している。
12%の運転者が、上司や同僚に仕事についての相談がしにくいと回答している。
健康状態及び生活習慣と疲労度との間には有意な関係がみられる。疲れているほど、健康に不安を抱えているほか、運動不足、食事が不規則等の生活習慣上の問題を抱えている。
A 添乗調査(5事業者の実際の8運行に同乗し、労働、休息・休憩等の状況について調査及び運転者に対するヒアリング調査)
中小事業所のドライバーの睡眠は短いものであった。中小事業者の長距離輸送において休息期間が確保されない例があった。
短い仮眠の場合は、ベッドを使わずにシートを倒して休憩が取得されていた。また、比較的長い休息期間が確保された場合でも、トラックのキャビン内で睡眠をとる例が多数みられた。
少しでも目的地に近づくため、短い仮眠を繰り返すなど睡眠が分割されている例や眠気を我慢して長時間走り続ける例が多数みられた。
交通渋滞の恒常化など不安定な交通状況のもと、荷主からの時間指定の遵守やコストダウンなどを意識して、運転者が運行管理者に申し出ることなく運転を続けている例がみられた。
中小事業者の場合において、運行計画の内容が帰り荷の割り当てや納品時間等、荷主側の事情に影響される例がみられた。
宿泊を伴う長期間の運行では、食事や入浴等、生活行動の全てが高速道路に設置された施設や、道の駅、コンビニエンスストア等で行なわれていた。
安心して駐車や仮眠のできる場所を確保できないと、ドライバーのストレスは大きい。大型車両であることやアイドリングが必要な場合の環境問題(排気ガスや騒音など)が、駐車場所の選択を難しくしている。
道路を利用した輸送時間は、荷主から調整のしやすい要因と見なされやすいことから、工場の生産ラインに部品等を搬送する場合には、荷主から時間的に条件の厳しい輸送が求められる例もみられる。また、荷扱いの待機時間に関しても同様の例がみられる。
B 事業者等に対するヒアリング調査(8事業者に対するヒアリング調査)
仕事は荷主次第であり、顧客確保のために仕事を断れないことがあるとの意見がみられた。
顧客の獲得に結びつくという意味で、Gマークの取得に積極的な例がみられた。
デジタルタコグラフの採用による安全対策や運行管理を行っている例がみられた。
健康管理に関して実施はされているものの、運転者が健康診断になかなか行くことができないとの意見がみられた。

U‐4.その他の文献調査により把握した事項
@睡眠5時間未満の運転者は、「ヒヤリ・ハット体験」が2.3倍
厚生労働省で行った調査注)によると(トラック運転者3,010人に調査、813人が回答)、睡眠時間5時間未満の運転者を1とすると、5時間以上の運転者は、居眠り運転をした人が0.3、ヒヤリ・ハット体験をした人が0.43にとどまっている。
 注)「2006年度 過労運転等による交通労働災害防止に係る調査研究」
A居眠り運転の要因は「睡眠不足」「不規則な生活」
全日本トラック協会で行った調査によると(トラック運転者210人を対象に東名高速道路海老名サービスエリアで聞き取り調査)、運転者の65%が運転中に眠気により危険を感じたことがあり、このうち運転者のうち68%は、実際に居眠り運転の経験があると回答している。その原因として、「睡眠不足」「不規則な生活」を挙げている。
出典:「貨物車の安全運行対策に関する調査研究報告書」2005年3月(社)全日本トラック協会
B睡眠短縮の連続による反応速度の低下
Belenkyらによる研究(2003)によると、被験者(66名)に対して睡眠不足となる日(3時間、5時間、7時間、9時間)を1週間続けた場合における、視覚刺激に対する反応時間の変化を測定したところ、以下の影響がみられた。
3時間睡眠では反応速度の遅延(作業能力の低下)が顕著に進行した。
5時間睡眠においては、5日目までは一定水準まで反応速度が遅れ、6日目以降もその影響は残っている。
8日目以降、いずれの被験者にも8時間睡眠を取得させたが、9時間睡眠を除く睡眠短縮においては実験開始前の8時間睡眠のレベルには戻らなかった。
C連続夜間走行における主観的な眠気の増加と瞬目持続時間の延長
トラック運転者の走行時の主観的眠気と瞬目持続時間(1回あたりの瞬きの長さ)の測定の結果、5日間の連続夜間走行に伴い、眠気の増加と瞬目持続時間の延長がみられた。
注)眠気主観評定値;走行中に30分間隔で運転者が感じた眠気を0(ない)、1(多少)、2(かなり)、3(非常に)で口答評定した値。
          出典:財団法人労働科学研究所の調査(2004)による
D運転中の疲労蓄積の影響(運転者アンケート)
「乗務中に一瞬眠くなる」運転者が全体の約6割と最も多い。「注意、判断力が鈍り、ヒヤッとしたことがある」運転者も約半数近く(49%)を占めた。
図‐15 運転中の疲労蓄積の影響
   出典:全日本交通運輸産業労働組合協議会「規制緩和後の労働実態」 点検アンケート調査報告書」2006年2月調査

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V.具体的提言

以下においては、II.における統計分析、事例調査等の結果を踏まえ、過労運転による事故の防止に向けた問題点を整理するとともに、それに対する具体的対応策を提示することにより、提言の取りまとめを行った。


V‐1.トラック輸送の安全確保に向けて
(1)運行と過労のメカニズムの理解促進及び休憩・睡眠の改善
《問題点》
運行管理者や運転者において、睡眠(短時間)の分割化や座席での仮眠等により疲労の蓄積を招きやすいこと等の運行と過労のメカニズムが十分理解されていない事例がある。
事業者において、運転者の十分な休息を確保することよりも、過労運転による事故の方が重大な結果を招き、多大な損失となることが十分認識されていない事例がある。
過労状態にあるとは考えにくい休日明けにおいても事故が発生する傾向が見られる。
以上を踏まえ、睡眠の重要性、睡眠不足状態での事故回避能力の低下、長時間運転における休憩・睡眠の取り方等について、事業者、運行管理者及び運転者の理解の促進を図る必要がある。
《具体的対応》
事業者団体及び国土交通省においては、運行と過労のメカニズム、休憩・睡眠の改善方策を含む関係者が取組むべき対策等についてまとめた本提言及び別添2「トラック輸送の過労運転防止対策マニュアル」(以下「マニュアル」という。)の周知・活用に向けて以下の措置を講ずる。

@パンフレットやポスター等による周知徹底
A事故防止や過労運転防止に係るセミナーでの講演
B政府広報、業界誌等を活用した周知徹底
C運行管理者指導講習等におけるマニュアルの紹介、活用

(2)運行管理(点呼、労働時間の管理等)の徹底
《問題点》
点呼が形式的、画一的に行われ、運転者の疲労の程度、健康状態等を的確に把握できていない事例がある。
改善基準告示が遵守されていない、余裕時間を含まない無理な運行計画に基づく運行がなされている、長距離の運行にも拘わらず輸送コスト節減のために高速道路を使用していない事例がある。
運行管理者においては運行中の休憩の取得等について運転者任せにし、また、運転者においても着時刻を守るため、運転中に疲労感や眠気を自覚したり渋滞等による遅れが発生しても運行管理者に申し出ることなく運転を続けたり無理な追い越しを行う等、運行管理者と運転者の間で十分なコミュニケーションがとれていない事例がある。
以上を踏まえ、点呼、労働(乗務)時間管理等の徹底、運行中のコミュニケーションの強化等 を図る必要がある。
《具体的対応》
(事業者及び運行管理者)
運転者に係る健康状態の的確な把握:
事業者及び運行管理者においては、マニュアルを活用して点呼等を通じた運転者の健康状態の的確な把握を行う。
余裕のある運行計画の策定及び実施:

事業者及び運行管理者においては、改善基準告示の遵守を通じて過労運転による交通事故を防止するため、労働時間、休憩時間、休息期間等に配慮した運転者の増員、交替要員の確保等に努めるとともに、道路事情による速度低下、交通規制による運転時間の延長、予定外の手待ち時間の発生等を見込んだ余裕のある運行計画を策定し、運転者に対して指示する。
なお、早朝時間帯に交通死亡事故が多発していることを踏まえ、早朝時間帯を含む運行計画の策定に当たっては、可能な限り早朝時間帯に休憩又は休息が取得できるよう配慮するとともに、点呼の機会において疲労度を確実にチェックすることが必要である。

新技術の積極的な活用による運行支援等:
事業者及び運行管理者においては、労働時間の適正な管理、リアルタイムでの運行状況の把握を通じた運転者に対する運行支援等に資するGPSと連動したデジタルタコグラフ、ドライブレコーダー等の積極的な導入・活用に努める。特に4時間を超えるような長時間連続運転、休憩の間引き、過小な休息時間等が把握された場合にはその原因を精査の上、運行計画を見直したり、運転者へ適切な指導・教育にあたる。なお、運行状況の把握に際しては、運転者に対して過度の心理的プレッシャーをかけないよう配慮する。
ヒヤリ・ハット事例の積極的な活用による指導・教育:
事業者及び運行管理者においては、「ヒヤリ・ハット活用マニュアル」(国土交通省自動車交通局及び自動車運送事業に係る交通事故要因分析検討会が外部機関の協力を得て平成14年度に作成)を活用しつつドライブレコーダーによる映像記録を含むヒヤリ・ハット事例の収集、当該事例を活用した運転者間のグループ討議等を通じて、過労等による居眠り運転等のリスク(危険性)の把握、並びに予防策の指導・教育を行う。
数値目標の設定等の運輸安全マネジメントを通じた事故の削減:
事業者においては、経営トップから現場の運転者に至るまで輸送の安全が最も重要であることを自覚し、絶えず輸送の安全性の向上に努める運輸安全マネジメントの一環として、過労運転による事故を削減していくため、できるだけ数値による目標を設定し、PDCAサイクルに基づき事故削減に取組む。
なお、交通労働災害の防止を図る観点から、厚生労働省において「交通労働災害防止ガイドライン」を定めているところであり、事故削減の取組みに際しては、本ガイドラインを参考とすること。
(運転者及び運行管理者)
運転者と運行管理者とのコミュニケーション強化による安全運行:
運転者においては、瞬き時間の延長、眠気・だるさ等を感じるほか、車両の蛇行等自らの運転制御の不良により、安全な運転をすることができないおそれがあるときは、無理をせず運行を一旦中止し、運行管理者にその旨を申し出、運行管理者においては、安全を優先した運行指示を運転者に対して行う。
(行政)
関係機関との連携強化による効果的な監査の実施:
国土交通省においては、警察や貨物自動車運送適正化事業実施機関等の関係機関と連携し、効果的・効率的な監査等を実施するとともに、引き続き必要な監査要員の確保に努める。さらに、厚生労働省との合同監査等の連携強化により、効果的な監査を実施する。
ドライブレコーダーの普及に向けた取組み:
国土交通省においては、ドライブレコーダーの映像記録データの効率的な処理方法、運転者の教育資料としての活用方策及びその普及方策等の検討を進める。
中小事業者の運輸安全マネジメントの推進:
国土交通省においては、中小事業者に対する運輸安全マネジメント評価の方法等について検討する。
運行管理に係る準則の見直し:
国土交通省においては、運行管理に係る準則(平成19年度に国土交通省自動車交通局が作成した「貨物自動車運送事業の運行管理に関する基本的考え方(準則)」)の過労運転防止対策の項目について、本提言を踏まえ適切な見直しを検討する。
グッドプラクティスの紹介:
国土交通省においては、過労運転防止に効果を上げた具体的な対策、現場レベルでの取り組みを中心に、事業者の運行管理に係る先進的事例について、グッドプラクティスとしてホームページを通じて紹介する。
(3)日常的な健康状態の把握・指導
《問題点》
運行管理者及び運転者自身による日常的な健康管理が不十分であり、健康診断における要注意事項について十分なケアがなされていないこと等から事故につながっている事例がある。
以上を踏まえ、運転者自らの適切な健康管理、家族のサポート、運行管理者によるきめの細か い日常的な健康状態の把握・指導(乗務前後の点呼、健康診断結果、日常の相談等の機会を活用した把握)が必要である。なお、その際、個人情報の保護等に配慮する必要がある。
《具体的対応》
(事業者及び運行管理者)
マニュアルを活用した日常的な健康管理の推進:
事業者及び運行管理者においては、マニュアルを活用して日常的な健康管理に取り組む。運転者においては、特に勤務状況の改善、睡眠(休息)状況の改善、生活習慣の改善が重要である。
運転者自らによる疲労度チェックの普及:
事業者及び運行管理者においては、全日本トラック協会が外部研究機関の協力を得て開発した運転者向けの「疲労蓄積度自己診断チェックリスト」等の活用を図る。
SASの早期発見・早期治療:
十分に睡眠・休憩を取っていても眠気がとれない場合、SAS(睡眠時無呼吸症候群)になっていることが考えられる。このため、事業者及び運行管理者においては、国土交通省においてとりまとめているSAS対応マニュアル(「「睡眠時無呼吸症候群」に注意しましょう」)等を活用して、SASの早期発見・早期治療に向けた取り組みをさらに進める。
(4)運転者が相談しやすい職場環境の整備
《問題点》
運転者が精神的ストレス、悩み等を相談しやすい職場環境が構築されていない事例がある。
運行管理者においては運行中の休憩の取得等について運転者任せにし、また、運転者においても着時刻を守るため、運転中に疲労感や眠気を自覚したり渋滞等による遅れが発生しても運行管理者に申し出ることなく運転を続けたり無理な追い越しを行う等、運行管理者と運転者の間で十分なコミュニケーションがとれていない事例がある(再掲)。
以上を踏まえ、日常的な健康管理等を行う上で、運転者が相談しやすい職場環境作り、運転者が臨時の休暇を取得しやすい体制作り等に努める必要がある。また、運行中の運転者に対しては、トラックによる一運行が数日に及ぶ長距離輸送になる場合には特に運行管理者が運転者の走行状況等の把握に努め、適切な指導等を行う必要がある。
《具体的対応》
相談しやすい職場環境作り:
事業者、運行管理者及び運転者においては、マニュアルを活用して相談しやすい職場環境作りに努める。
相談窓口の活用:
事業者及び運行管理者においては、産業医や保健師、衛生管理者などの専門スタッフによるサポート、さらには外部機関との連携による精神的ストレス、悩み等についての相談窓口を活用する。
新技術の積極的な活用による運行支援:
事業者及び運行管理者においては、労働時間の適正な管理、リアルタイムでの運行状況の把握を通じた運転者に対する運行支援等に資するGPSと連動したデジタルタコグラフ、ドライブレコーダー等の積極的な導入・活用に努める。特に4時間を超えるような長時間連続運転、休憩の間引き、過小な休息時間等が把握された場合にはその原因を精査の上、運行計画を見直したり、運転者へ適切な指導・教育にあたる。なお、運行状況の把握に際しては、運転者に対して過度の心理的プレッシャーをかけないよう配慮する。(再掲)
運転者と運行管理者とのコミュニケーション強化による安全運行
運転者においては、瞬き時間の延長、眠気・だるさ等を感じるほか、車両の蛇行等自らの運転制御の不良により、安全な運転をすることができないおそれがあるときは、無理をせず運行を一旦中止し、運行管理者にその旨を申し出、運行管理者においては、安全を優先た運行指示を運転者に対して行う(再掲)。

V‐2.荷主・元請事業者との連携・協力
《問題点》
適正な勤務時間管理等が困難である背景に、荷主からの急な発注を引き受けざるを得ない、荷主の事情により適正な運行時間が確保できない、道路混雑等による延着に対して荷主からペナルティを課される、荷主サイドでトラック事業者の運行計画を把握していない等の事情がある。
荷主・元請事業者にとって過労防止に取組む安全性の高いトラック事業者であるか判断できない等の事情がある。
以上を踏まえ、平成19年に策定された「安全運行パートナーシップ・ガイドライン」を踏まえた荷主・元請事業者との連携・協力を図る必要がある。
《具体的な対応》
「安全運行パートナーシップ・ガイドライン」の着実な実施:
事業者及び荷主においては、「安全運行パートナーシップ・ガイドライン」の着実な実施等を図る。
(参考:「安全運行パートナーシップ・ガイドライン」の主な内容)
荷主側で、運送する貨物の量を増やすよう急な依頼があった場合、適正な運行計画が確保され、過積載運行にならないよう、関係者が協力して取組む。
到着時間の遅延が見込まれる場合、荷主・元請事業者は安全運行が確保されるよう到着時間の再設定、ルート変更等を行う。また、到着時間の遅延に対するペナルティ付与にあたっては、一律にペナルティを付与せず、遅延理由等を分析し、柔軟に対応する。
荷主・元請事業者は、実運送事業者に対して安全運行が確保できない可能性が高い運行依頼は行わない。なお、 無理な運行が予見される場合、到着時間の見直し等を行うなど協力して安全運行を確保する。
荷主・元請事業者は、積込・荷卸し作業の遅延により予定時間に出発できない場合、到着時間の再設定を行い、 適正な運行計画を確保するための措置を講ずるとともに、貨物車両が敷地内待機できる措置を講ずる。
安全運行の確保に向け、協力して安全推進活動に取組むとともに、安全運行パートナーシップ・ルールとして各種課題について具体的な改善方策を取入れてルール化する。
安全運行パートナーシップを確立するため、基本方針・目標の共有化、人材の確保と実施体制の整備等を行う。
荷主勧告制度の運用の改善:
国土交通省においては、「安全運行パートナーシップ・ガイドライン」で指摘された安全運行を阻害する行為を防止するため、現在、過積載に対し適用されている荷主勧告制度の運用を過労運転及び速度超過にも適用を拡大する。
Gマークの積極的な取得及び認知度の向上:
荷主がより安全性の高いトラック運送事業者を選択できるよう、全国貨物自動車運送適正化事業実施機関においては、現在、各事業所毎の安全性の評価を行い、「安全性優良事業所」(シンボルマークはGマーク)の認定を行い、その結果を公表している。各事業者においては、安心・信頼の事業活動を行っていくため、Gマークの積極的な取得と荷主に対するアピールに努めるとともに、全国貨物自動車運送事業適正化事業実施機関においては、Gマークの認知度を高めるための広報の充実について検討する。なお、他のモードに係る評価制度との統一化については、各制度の趣旨等を踏まえ、その必要性等について将来的に検討されることが望まれる。
利用者ニーズを踏まえた情報提供の検討:

国土交通省では、これまでも事業者の安全に係る取組みを「安全対策グッドプラクティス」として、また、行政処分を受けた事業者に係る情報を「ネガティブ情報」として、ホームページ上で公表している。今後、利用者の利便性向上、情報の集約等を図り、更なる情報提供の充実に向けた検討を行う。


V‐3.車両面の安全対策
国土交通省においては、産学官連携のもと、ASV(先進安全自動車)技術の開発・普及の促進を推進しているところであるが、このうち、過労運転による事故の防止・被害軽減対策への活用が期待できるものについて以下の取り組みを進める。
《具体的対応》
衝突被害軽減ブレーキ(*1)の普及促進
国土交通省においては、大型自動車に対する衝突被害軽減ブレーキの普及促進策として補助制度を導入しており、引き続き衝突被害軽減ブレーキのさらなる普及に努める。
(*1) システムが衝突の危険性を判断し、まず警報を出しドライバーが回避するよう促し、それでも衝突が避けられない状 況になった場合には、自動的にブレーキを制御して衝突時の被害が少なくなるようする装置。
その他のASV技術(*2)の普及促進
国土交通省は、その他の実用化された各種ASV技術に関し、メディア等を活用した広報や一般ドライバーがASVを体験できる運転シミュレーター等のシステムの製作を行い、認知度向上や理解促進等に努め、普及促進を図る。
*2)
@ACC(Adaptive Cruise Control):ドライバーが設定した車速で一定走行する機能に加え、設定車速よりも遅い先行車がいた場合には、車間距離を適正に維持して追従走行する機能をもつ装置。
Aレーンキープアシスト:高速道路などで走行車線の中央付近を維持しようとする場合、細かいハンドル操作をしなくてもすむように補助してくれる機能をもつ装置。
Bふらつき警報:車両のふらつき状態を検知してドライバーに注意喚起を行う装置。
BESC(Electronic Stability Control):トラックの横滑りや横転を抑制するために駆動力・制動力を制御する装置。

V‐4.走行・荷役環境面の対応
《問題点》
運転者は、できる限り着荷主に近い場所まで運行して休憩、仮眠する傾向があるが(特に大都市圏中心部に近い場所において)、大型トラックを駐車して休憩できる場所が少ない等の事情がある。
荷役施設が混雑した場合等の待機場所が十分確保されていない、貨物の搬入口に段差がある、照明が暗い等の荷役作業が困難な事情がある。
以上を踏まえつつ、休憩、待機場所の確保については即効性のある解決は難しいことから、関係者が中長期的課題として以下の取組みを進める。
《具体的対応》
幹線道路における大型トラック駐車スペース、休憩・仮眠施設の拡充
トラックステーションの積極的な活用
着荷主を含む関係者における車両待機場所の確保、荷役環境面の施設改善 等

おわりに

今や、国民の豊かな生活を支える宅配、コンビニ・スーパー配送、農水産物・生鮮食料品、工業用資材・製品の輸送等、各種の輸送を通じて日本社会の物流の根幹を担うトラック運送事業。ともすればその役割を当然視してその工夫と苦労を顧みることなく、ありがたみを忘れがちであるが、縁の下の力持ちとして見えないところで過労運転による事故が多く発生しており、過労運転を防止するための安全対策の強化は喫緊の課題である。
その実現のために、検討会関係者を始め、トラック事業者だけでなく、運転者、荷主等全ての関係者の協調が期待される。トラック輸送に関わる各位が、本提言を確実に普及させるという意識を共有するとともに、本提言を着実に実施されることを強く望む。
また、実施状況を広く関係者に知らせるため、関係団体の協力で、過労運転防止に向けたセミナー等の展開、本提言の実施状況を定期的に把握した上でのトラック事業者等関係者の意見を踏まえた提言の見直し等を図っていくことが必要である。

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