交通労働災害ゼロへの道

自動車運送事業では、輸送の安全の確保が事業経営の根幹です。そのさい重要なキーワードは、経営トップの安全確保の意志と行動です。労働災害は「人」と「物」とのかかわりから発生します。「人」の不安全行動と「物」の不安全状態を無くすることが”交通労働災害ゼロへの道”です。
ここでは、安全対策に取り組む上で参考になる資料を紹介します。
トラックの過労運転による事故を防止するための安全対策の提言 国土交通省
交通労働災害防止のためのガイドライン 厚生労働省
人はどんなミスをして交通事故を起こすのか ITARDA
トラックドライバーのための安全運転の基礎知識 全日本トラック協会
SASを正しく理解し、早期治療で安全運転を 全日本トラック協会
事業用自動車総合安全プラン2009 国土交通省
事故事例集:トラックの事故 国土交通省
社会的影響の大きい重大事故の要因分析 国土交通省
交通事故加害者の手記「贖いの日々」 東京安全協会発行誌より
事業用自動車の運転者の健康管理に係るマニュアル 国土交通省
陸上貨物運送事業労働災害防止規程 陸上貨物運送事業労働災害防止協会

事業用自動車総合安全プラン2009
〜死者数半減、飲酒運転ゼロを目指して〜 平成21年3月27日
       
事業用自動車に係る総合的安全対策検討委員会

1.はじめに
交通事故は、一瞬にして被害者の生命や将来の可能性を奪うのみならず、その家族に対しても多大な精神的、経済的な負担や苦しみを強いるものである。また、加害者側においても、社会的制裁や信用の失墜等に直面することとなる。自動車に関わるすべての者は、常にこのことを肝に銘じ、交通事故を防止するために取りうる限りの手を尽くさなければならないことは言うまでもない。
近年の自動車に係る交通事故の発生状況について俯瞰してみると、シートベルト着用率の向上、悪質運転違反の減少等により、死者数が年々減少し、人身事故件数についても平成16年をピークとして着実に減少している状況にある。
しかしながら、事業用自動車については、運送のプロとして乗客の生命、顧客の財産を預かり、より高度な安全性を求められるにもかかわらず、全体としては、事故件数、死者数ともに、自家用自動車と比べると減少の歩みが遅いのが現状である。
また、依然として飲酒運転や、長期間にわたり高速道路が通行不能になったタンクローリーの横転・火災事故等、社会的影響の大きな事案が後を絶たず発生しているほか、昨年はタクシーの死亡事故が増加に転じるなど、大変憂慮すべき状況と言わざるを得ない。
交通安全対策については、現在、「第8次交通安全基本計画」に基づき政府全体で取組を進めているところであるが、上記のような状況にかんがみれば、今一度、これまでの事業用自動車に対する安全対策を振り返った上で、ソフト・ハード両面から、総力を挙げて、事業用自動車に係る事故の削減に取り組むことが必要である。
このため、国土交通省等及び関係業界においては、今後10年間を「事故削減のための集中期間」と位置付け、PDCAサイクルに沿って、次のとおり取組を進めるべきである。

2.事故削減目標の設定(Plan)
今後10年間で確実に事故削減を実現するためには、関係者が共通の目標のもとで一丸となって安全対策に取り組むことが必要である。このため、本年1月に示された政府全体の新たな事故削減目標を踏まえ、事業用自動車に係る目標を次のとおり設定する。
(目標)
@ 10年間で死者数半減(平成20年513人を10年後に250人、中間年である5年後には380人)
A 10年間で人身事故件数半減(平成20年56,295件を10年後に3万件、中間年である5年後には4万3千件)
B 飲酒運転ゼロ
関係業界においても、それぞれ上記目標を踏まえて業界としての目標を設定することが求められる。

3.目標達成のため当面講ずべき施策
(Do)
事故削減目標の達成に向けて当面講ずべき施策は、別表のとおりである。その中でも特に、次の施策について、今後重点的に取り組むべきである。
(1)安全体質の確立
言うまでもなく、安全の確保は自動車運送事業における最大の課題である。事故防止のためには、各事業者における日々の自主的な努力の積重ねが最も重要であるが、中小規模事業者の中には未だ安全に対する意識が不十分な者も見られ、業界全体として安全に対する取組を進めることが必要である。
中小規模事業者を含む全ての事業者において安全体質が確立されるよう、各事業者、事業者団体等による一層の自主的な努力に加え、行政としても必要な支援を行うべきである。
重点施策
@ 安全マネジメントの評価の対象を中小規模事業者にも拡大。
A 講習会の開催等事業者団体による安全マネジメントの浸透のための支援の拡充。
B メールマガジンの発信等による業界全体での事故情報の共有。
C 映像記録型ドライブレコーダー、デジタル式運行記録計等の活用による運行管理の高度化。
D 労働・社会保険関係法令違反に対する行政処分の強化、労働・社会保険関係行政機関との連携、運行記録計の義務付けの拡大等による、運転者の労働環境の改善。
(2)コンプライアンスの徹底
近年、コンプライアンスは、企業活動の生殺与奪を握る要素としてその重要性が認知されつつあるが、自動車運送事業における事故惹起や法令違反は、事業継続の観点のみならず、人命の損失等国民の安全・安心に直接支障を及ぼすことになりかねないことから、自動車運送事業者に対しては特に高いコンプライアンスの徹底が求められる。
加えて、自動車運送事業者がコンプライアンスを徹底するためには、荷主や旅行業者等、発注者サイドの理解や協力のもと、公正な事業環境の醸成に努めることが重要である。
行政においても、事故につながりかねない法令違反を犯す悪質事業者等に対しては、質・量ともに一層の監査機能の強化に努め、国民の目線に立って毅然として対応すべきである。
重点施策
@ 監査要員のさらなる増員。
A 労働・社会保険関係法令を含む法令違反に対する行政処分の強化。
B 被監査事業者の車両移動等による処分逃れを防止するため、事業譲渡先への処分を可能とする等の処分基準の改正、刑事告発の活用等。
C 重大事故の発生等に関与した発注者の名称等の公表。
D 点検整備未実施に係る行政処分の強化等による整備管理の徹底。
E スピードリミッターの不正改造に係る改造施工者、運送事業者に対する監査の実施。
(3)飲酒運転の根絶
乗客の生命、顧客の財産を預かる運送事業者にとって、飲酒運転は言語道断の恥ずべき行為である。
飲酒運転ゼロを実現するためには、運転者1人1人が運送のプロとしての自覚と誇りをもち、厳しい目で自らを律する必要があることは言うまでもないが、加えて、各事業者においても、「飲酒運転ゼロ」の方針のもと、運行管理者を中心に飲酒運転につながる意識や行動の芽を確実に摘み取る体制を構築することが求められる。
行政においても、飲酒運転の防止及び監督の観点から、ソフト面・ハード面の双方で現時点で考えられる最大限の措置を講じ、これまで以上に厳格な姿勢で臨むべきである。
重点施策
@ 点呼時におけるアルコールチェッカーの使用の義務付け。
A 飲酒運転に対する行政処分の強化。
B アルコール・インターロック装置の普及。
(4)IT・新技術の活用
自動車に係る新技術は、概して、実用化までに長期間を要するものの、一旦普及が進んだ後には極めて大きな事故削減効果を発揮することから、現在開発が進んでいる新技術については、行政による強力なリーダーシッ
プのもと、今後10年間のできる限り早期に本格的な普及を実現すべきである。
車両安全については、これまで重視されてきた衝突安全技術(=事故による被害を軽減するための技術)から、予防安全技術(=事故を未然に防ぐための技術)に軸足を移し、事故発生そのものの防止に資する車両の開発・普及を強力に推進する。
映像記録型ドライブレコーダー、デジタル式運行記録計等の運行管理に係るIT機器については、安全や事故防止の観点にとどまらず、業務の効率化、燃費向上、事故処理費用の削減等を通じて経済的なメリットをももたらすものとの認識を業界全体で深め、飛躍的な普及につながる方策を早急に検討すべきである。
重点施策
@ 実用化されたASV技術の普及促進、新たなASV技術の開発。
A 衝突被害軽減ブレーキの普及促進とそのための装着義務化の検討。
B 映像記録型ドライブレコーダー、デジタル式運行記録計等の一層の普及促進。
(5)道路交通環境の改善
事業用自動車に係る事故削減目標を達成するためには、自動車運送事業自体の安全性の向上のほか、事業用自動車をとりまく道路交通環境の改善も重要な要素である。
幹線道路では、交通事故が特定の区間に集中して発生していることから、事故の発生割合の高い区間において重点的な対策が必要である。
また、交通事故死者数に占める歩行中の死者数の割合が欧米に比べて高いこと等にかんがみれば、歩道等の整備や生活道路への通過交通の抑制等、安全・安心な歩行空間の確保が重要である。
関係行政機関間において引き続き連携を図るとともに、事業者団体等においても、各地域における交通安全のための取組に主体的に参加するなど、よりよい道路交通環境の実現に貢献することが求められる。
重点施策
@ 事故の発生割合が高い区間における交差点改良や歩道の整備、中央帯の設置、信号器改良等。
A 通学路における歩道の整備やカラー舗装、防護柵の設置等。
B 生活道路への通過交通が多く、事故の発生割合が高い地区において、生活道路への通過交通を抑制するためのクランクやハンプ等の整備による、歩行者等の安心・安全の確保。
C 防護柵や道路反射鏡等の交通安全施設の適切な維持・管理を実施。

4.本プランのフォローアップ(Check、Act)
10年後、本プランに掲げた目標を確実に達成するためには、PDCAサイクルに沿って定期的・継続的にチェックを行うことが必要である。
このため、自動車交通局に「事業用自動車総合安全プラン2009フォローアップ会議」を設置し、毎年(当面は年2回)、関係者間で施策の進捗状況、目標の達成状況等を確認するとともに、交通事故の要因分析も踏まえつつ、必要な場合には新たな施策を検討すべきである。
あわせて、関係業界においても、同様のチェック体制を構築することが求められる。
また、各事業者に対する安全マネジメント評価や監査・処分等、目標達成のために講じる施策の主たる実施機関となる各地方運輸局等においても、管内での取組状況やその効果等を把握・検証し、施策の実施をより実効ある方向に改善していく必要がある。
このため、関係事業者団体等との連携のもと、各地方ブロックごとに「○○地域事業用自動車安全対策会議(仮称)」を設置し、地域における施策実施目標の設定、毎年における進捗状況の確認等について、PDCAサイクルに沿って進めることとすべきである。

5.おわりに
本プランは、策定されたことをもってその役割を終えるのではなく、今後10年間にわたり自動車運送事業に関わるすべての関係者の間で共有され、着実に推進されるべきものである。
安全への取組みは決して派手なものではなく、一朝一夕にその効果が目に見えるものでもないが、関係者1人1人のたゆみない地道な努力の積重ねが、合わさり、いずれ必ず大きな効果をもたらすことになる。
関係者各位の不断の努力によって、我が国が世界一安全・安心で、住みよい国となることを期待しつつ、本プランの結びとしたい。

※「事業用自動車総合安全プラン2009」の概要、本文、参考資料は