第19回例会
日本の医療制度を考える
「保険証1枚」でかかれる医療制度を守り充実させよう

040815 岡林信一


1.06年「医療抜本改革」の背景とねらい

・社会保障制度全体に対する改悪の嵐
04年金、05介護保険、06年医療「抜本改革」
・背景に政府が推し進める「構造改革」=財界の国家改造計画!
@大企業の負担軽減A大企業への規制緩和B産業構造のグローバル化
・政府が進める医療改悪
@患者負担大幅増、受信抑制
A保険医療の範囲縮小、混合診療の容認、特定療養費の拡大
B医療の市場化・営利化
C国民負担増、国・大企業の責任後退・負担軽減
・現状でも「痛み」には耐えられない
世界的に高すぎる日本の窓口負担
 窓口負担大幅増で受診率落ち込み最大に 自覚症状のある人の14%が受診を我慢
・2003年3月 閣議決定「基本方針」
@国保・政管健保を都道府県単位の運営に
  建前:財政逼迫の市町村単位の国保、小規模の健保組合の統合
  本音:国庫負担の削減と医療費を県単位に抑制をねらう
→医療給付の格差化。診療報酬単価の切り下げ招く
住む町で医療サービスに違いが生まれる
A高齢者医療制度の新設
  建前:「高齢者医療の適正化」「世代間の負担の公平化」
  本年:高齢者の窓口負担引き上げ、保険料徴収
B診療報酬体系の見直し
  定額制・包括払いで公的医療費抑制
  長期入院の抑制
  「保険証」が使えない医療範囲の拡大(「ホテルコスト」「保険免責」)
・行き着く先は…「医療保険2階建て化」
 公的医療の縮小とその穴埋めの「追加料金」や民間保険依存
 自費医療の拡大で医療市場を創出 
医療を企業の利潤追求の市場に
  @株式会社の医療機関経営 A特定療養費の緩和・拡大 B医療従事者の派遣労働緩
和  Cコンビニなどでの医薬品販売


2.医療改悪を正当化する俗論への反論

俗論@ 「老人医療5倍論」? 
 加齢で病気がちになるのは生物的に当然。
 1日あたりの診療費は一般と変わらない
俗論A 日本の高齢者は金持ち?
 高齢者世帯の約4割が生活保護基準以下
俗論B 日本人は医者にかかりすぎている?
 受診回数が多いから医療費が高いわけではない
 1回の受診あたりの医療費は欧米より低い
俗論C 医者が患者を薬漬けにしている?
薬剤費が高すぎるのは薬価(薬の公定価格)が高く設定されているから
新薬とジェネリック(後発医薬品)
 大手製薬企業は不況の中でもぼろ儲け
俗論D 日本の医療費30兆円は高いか?
GDP比でみれば先進国で18位、なのに健康達成度1位、平等性3位(WHO)
日本の医療制度の国際的評価はトップクラス
日本の医師・看護師は足りていない
俗論E 日本の社会保障給付比は高いか?
 ヨーロッパの2/3、北欧の半分、新自由主義の国アメリカよりも低い
 先進国で社会保障への国庫支出を減らしたのは日本だけ
俗論F 「国民負担率」
 国際比較すべきは「社会保障への還元率」=「支払った租税と社会保険料の総額のうち、社
会保障給付としてどれだけ国民に還元されているか」
俗論G 少子化は「日本民族の危機」?
 「総人口」と「労働人口」の比率は2:1で変化はない


3.本当の問題は何か?

@逆立ちした財政支出の構造
 公共事業が社会保障を上回っている先進国は日本だけ
 日本の公共事業費はサミット6カ国より多い
A少なすぎる事業主負担
 事業主負担はスウェーデン、フランスの1/3、ドイツの半分
 法人税減税を消費税で穴埋めする大衆収奪
 消費税5%でも、EU各国と同程度の国税収入割合(22%)
B財政悪化の主因は?
国庫負担の引き下げと企業リストラによる保険料収入の低下
国と事業主の支出分が減り、家計と自治体の負担増に


まとめ 世界に誇れる国民皆保険制度

いつでも、誰でも、どこでも、お金で差別されることなく、安心して受けられる皆保険
保険医療を担う自由開業医制の下での開業保険医の役割
医療従事者と患者・国民との分断工作に屈せず、連帯・共同の運動を
市場化、民営化、営利化に対して非営利原則の徹底を


矢吹紀人『国保崩壊』から、国民皆保険を考える
2004/08/15 楠 真次郎


○「国民皆保険」崩壊の実態
 会社の倒産→アルバイト開始と国保への切り替え→病気がちで十分働けず→前年度所得に
よる保険料計算、滞納開始→「短期保険証」の交付→期限切れ、「資格証明書」の交付→全
額窓口自己負担、自己負担分の還付は滞納分の保険料に→受診抑制と保険料未納の継続

○保険証取り上げの手段としての「資格証明書」
・1987年中曽根内閣による改定国民健康保険法で導入
・1997年の改定で、発行が自治体に義務化
・保険給付の一時指し止めで、窓口では10割負担
・本来は「特別の事情」があれば発行してならないが、自治体行政による機械的発行
  →背景には国からの圧力と「ペナルティー」への恐れ

○国保は「相互扶助」の制度?−「金を払えない者は、医療を受ける権利なし」?
・「国保は相互扶助であって、義務なくして権利はない。お金のない人が医療を受けられないの
は当然のこと。だから、私たちのおこなっていることは正しい」←本当か?
・国民健康保険法第一条
 「この法律は、国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もって社会保障及び国民保健の
向上に寄与することを目的とする」→国保は「社会保障」、国が責任を持つ

○国庫補助の削減が国保財政破綻の原因
・1984年健康保険法改定により、国保財政への国庫補助を削減 45%→38.5%
・国庫負担削減分は、自治体の一般会計からの繰り入れ増加と保険料の引き上げへ
・住民と自治体が一丸となって、国庫負担の引き上げを要求することが大事

○不況による保険料滞納者の増加
・働き盛りでのリストラ、倒産→無収入による保険料滞納、無保険化
・国保法第5条、6条→「そこで生活していれば誰でも加入できるのが国保の前提」
・全国の国保加入者役2300万世帯、約4700人のうち、滞納世帯は412世帯(18%)
  →滞納者急増の原因は、国庫補助率の削減とそれによる国保料値上げ
・低所得者ほど苦しい保険料

○自治体と住民による国保改善運動
・「社会保障としての国保」への取り組み
・社会保障への公的責任を問う原動力としての国民皆保険を守る運動




討論要旨

高薬価について
■生命にかかわる問題なのに、医療について理解する機会がないし、医療改悪を正当化する
議論を客観的に問題にすることもない。こうした現状からどうやって国や企業に負担を求める
道のりが遠いなと思う。
■「医者が患者を薬漬けにしている」という俗論があるが、製薬業界が薬価を高価にしている
システムはどういうものか。友人に血友病患者がいるが、いまだにアメリカから輸入された非
加熱製剤が使われている。
■血友病については、薬害エイズや人工透析と同様、本人負担は月1万円上限なので、いくら
高い薬であっても本人負担が変わらないので、製薬会社が高い薬を売りつけているのでは。
■厚労省の審議会が公定価格を決めており、政・官・業の癒着がある。医療機関独自の努力
として、ブランド物の新薬ではなく安くても効能が一緒の後発医薬品=ジェネリックが普及され
ている。
■医薬分業で製薬会社が儲かるように仕掛けた。調剤薬局は薬の仕入れ値と売値がほとん
ど同じなので薬剤で収益を上げられないし、仕入れたものがすべて売れるわけでないので損
になる。だから、薬をたくさん出したから儲かるわけではなく、基本料と指導料でなんとかまか
なっている。だから薬局が不必要な薬を出して儲かっているというのはデマ。調剤薬局は製薬
会社に力関係上弱い。日本の処方箋は、薬の成分を指示して薬を選択できず、指定された薬
を出すことしかできない。医療機関も薬害や医療事故の危険性があるので、むしろ薬をあまり
出さなくなっている。
■医療機関は薬で収益を上げられるどころか、消費税分でマイナスになる。医療機関は薬の
仕入れの時に消費税を払っているが、患者にそれを転嫁できない。今は税率5%だが、さらに
引き上げられたらその分赤字になる。だから患者に消費税分を払ってもらうか、医療費への軽
減税率を求める意見もあるが、保団連・協会はゼロ税率を要求している。これは患者に消費
税を転嫁せず国に還付請求できるよう求めるもの。もちろん消費税自体、これ以上引き上げ
られたら困るが。

マスコミの医療バッシング
■医療事故が頻繁に報道され医療不信が高まった直後に、診療報酬本体がマイナス改定さ
れたように、マスコミは医療改悪の前ふりをしている。医者が診療報酬を下げられたら困ると
いうことを言えない状況をつくるため。マスメディアを使っての大々的宣伝だ。介護保険導入前
も「高齢者の介護が大変」という報道があったが、介護保険ができたらぜんぜん報道しなくなっ
た。マスコミが勉強不足で、厚労省や健保連の見解を鵜呑みにして報道するという横着なこと
もあるが、例えば読売は「オピニオンリーダー」を自認して、意図的な報道もしている。
■医療従事者の条件はいまでも悪いので、これ以上診療報酬を下げられたら、さらに条件が
悪くなり医療事故も起きやすくなるのでは。
■診療報酬は「医者の給料」という誤解があるが、これは看護師ら他のスタッフの給料の原資
でもある。
■マスコミは、反権力・反権威的態度をとるが。一見小さな権威・権力を持っているかに見える
医師をたたくのが好きだが、もっとも大きな権力である大企業が医療を食い物にしようとしてい
ることをぜんぜん批判しない。
■大手新聞は、社会保障の財源の問題、とくに大企業が社会的責任を果たそうとしないことに
口をつぐんでいる。
■そういったからくりが市民に知られていないし、知る機会がない。住民と自治体が一丸となっ
て国庫負担を求めることが大事だが、大企業の責任まで求めていくことは難しそう。
■製薬会社が儲けていることは、よく知られているが。
■予算の仕組みもあまり知られていない。
■トリビアの泉に投稿してみては(笑)?
■医大でも教育の中で学ぶこともないようだ。

■私が子どもの頃に教えられていたことと逆になっている。アメリカみたいに「貧乏人は死ね」
ではなく、「みんなが医療を受けられる」医療保険制度や平和憲法も日本の誇りだと教えられ
たが、70年代後半から80年代前半ぐらいから世論も意図的に変えられている。

ここから医療の話からそれて、日本政治の大枠の問題
■医療の問題を考える際の大枠の話として、日本が福祉国家だった時代があったのか?日
本政府は社会保障を充実させようとしてきたのか?アメリカへの追随が著しい。「平和国家」日
本の戦後政治史を問い直す必要がある。
■むしろ最近は右翼の側からの歴史の捏造が顕著だ。
■日本の平和運動の弱点として「被害者意識」「紛争巻き込まれ症候群」があった。「憲法を守
れ」というスローガンに象徴的なように、憲法は「守る」べきものであって、生存権や憲法そのも
のも、いったい何なのかということを攻勢的に提案してこなかった。
■「平和と社会保障を基盤とした国づくり」「新しい福祉国家」といった、憲法9条と25条を理念
とした大枠の構想を実現するために、これを下から地域から地道にどのようにつくっていくか。
労働組合が頼りない。かつては、総評が地域団体と社会保障推進協議会を結成して社会保障
に真面目にとりくんでいたが。とりあえず、生活相談や学習会を行い、地域で起きている問題・
実態をつかみ、例えば国保保険料を滞納し医療が受けられないといった問題など、住民が困
っていることや求めていることが何か、それをサポートする中で、当事者に権利意識を持っても
らうことから出発する以外にないのでは。
■参院選の結果、改憲派が国会の9割以上を占めた。国民意識は護憲と改憲が拮抗してい
る。「憲法9条の会」のように、過去のしがらみを乗り越えて幅広いネットワークをつくっていく、
何らかの構想力、結びつきが必要。その一つの切り口として医療制度の問題があり、それは
大枠の問題と根っこが一緒だということだ。
■日本では1973年に「福祉元年」と言われたが、経済的にはオイルショックなど70年代に入っ
て、ケインズ主義的福祉国家が破綻し、土台のところで福祉国家が否定されるようになった。
福祉医療の無料化など、60年代から革新自治体が支えてきたものが、10年持たなかった。83
年に老人健康法が制定されて以降、福祉を充実するという方向が逆転し改悪の方向になっ
た。社会保障の貧困を企業福祉が代替してきた。健保組合が従業員に手厚い福利厚生を行
ってきたが、それは福祉国家ではなかった。1961年に実現された国民皆年金・皆保険は市民
の要求・エネルギーによって実現されたものだったが。
■かつては政治領域で歯止めをかけるものとして、革新自治体や社会党があった。
■79年からの中曽根、レーガン、サッチャーらが台頭し、サミット体制ができケインズ主義的手
法から新自由主義的手法へと変遷した。今。日本では自民党と民主党で新自由主義的改革を
競っている状況だ。
■ケインズ主義の破綻といっても、その再評価・再構築があるのでは。日本では「抵抗勢力」と
呼ばれる土建国家型のケインズ主義が主流で、公共事業に金をばら撒いても有効需要が創
出できなくなっている。第三の勢力である新福祉国家派は、お金を出す蛇口を土建ではなく福
祉の方向にひねる。何らかの産業を育成しなければ、経済再建はできないが、そのためにむ
しろ社会保障にお金を注ぎ込む方が、日本経済の再生につながる。社会保障に携わる労働
者の諸条件、賃金は低すぎる。そこにお金を投入し人件費を底上げし雇用も増やす。医療・介
護などの従事者のほとんどはその地域に住んでいるので、地域の雇用が増えて、地域内の購
買力も高まり地域経済が活性化する。
■今までケインジアンは自民党内部でやっていけたので、組織や党をもっていない。
■自民党内のケインジアンは土建国家型ケインジアン。第三の極として、国会で何とか議席を
確保している共産党や社民党、ローカル政党の新社会党など、また政党レベルにとどまらず
幅広い第三の勢力をつくり、国会の二大政党制を打ち砕く流れを早く作らないといけない。政
党政治のレベルではこうだが、国民意識のレベルでは、例えば今年の参院選で年金問題がは
じめて国政選挙の争点になったように、国民の社会保障へのニーズはかつてないほどある。
その受け皿をどのようにつくるか。この点に唯一の活路があると思える。その不満は民主党へ
の支持となってしまったが、民主党の社会保障政策は与党よりもひどいので、早晩幻想は崩
れる。しかし、二大政党制を固定化するために、比例代表部分を削ってゆくゆくは衆院では単
純小選挙区にさせられ民意はさらに歪められることになる。流れを早く変えないと。
■今の状況であれば、平和主義者、民主主義者、自由主義者、社会主義者でも、ケインジア
ンでも一緒にやっていける条件がある。
■ケインズ主義の問題として、経済運営を官僚にすべてをまかせてきたことがある。市場にお
ける国家の役割を認めたのが大きいが、草の根からの民主主義を重視しなかった。スウェー
デンでは福祉国家の反省点として、草の根の市民民主主義が弱かったが、今ではコミューン
を単位として、地域で身近な社会保障をしっかり議論する場を提供するようになった。イギリス
でも、ブレア労働党が政権を取れたのも、サッチャーと違って、市場にも国家にも任せず、コミ
ュニティに任せようと主張したところが大きい。とはいえ最近のブレア政権はそれが崩れている
が。
■小泉構造改革の問題によって社会保障のニーズが高まってくるのは確かだが、どのように
訴えていくか。住民と地方自治体が連携して政策提言することや、自治体が財源や権限地方
を国から握ることが大事。それなしの住民の政策提言は単なる要望になってしまう。滋賀県知
事や全国知事会のレベルでは、「地方自治を国政より優先させる」分権を確立させる法案を出
そうという中央と違う動きがある。地域レベルでは、自治基本条例、市民参加条例といった、市
民の権利・責務、行政と市民との関係、市民と議会との関係など、市民の権利者として自覚す
るための条例、「自治体の憲法」をつくろうという動きがある。そういう中で社会保障に対する
意識も高まってくるのではないか。
■自治体職員の役割として、住民団体や労働組合、あるいは開業医の団体も加わって連携し
ていくことが大事では。
■一般的には無理。これからの自治体職員にそういう意識はない。一部の基幹部分をのぞき
あとは全部派遣・パート・嘱託へと再編されているので、採用自体がほとんどなく受験戦争の
「勝ち組」の超エリートばかりになる。自治体労働組合もそうなる。



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