小選挙区制によって民意はいかに歪められたか
森 史朗
和泉通信(05-9-15)より転載

データ 03年総選挙と05年総選挙の結果比較

<小選挙区制によって民意はいかに歪められたか>

 森です。予想を超える自民党の大勝をマスコミは大騒ぎをしています。議席数の変動からだ
け見れば64議席を減らした民主党の大敗、59議席増やした自民の大勝ということになります。
しかし得票率から見てみると様子はかなり違ったものとなってきます。歪みの原因は小選挙区
制にあります。いくつかの点から見てみましょう。今回と前回の総選挙結果を比較したものをエ
クセルデータで作ってみましたので見ながらお考え下さい。

<自民は大勝していない>

 自民の議席増の内訳は、小選挙区51、比例8ですから、「大勝」の舞台は小選挙区です。自
民はここで前回168議席(議席率56.0%)から今回219議席(議席率73.0%)まで伸ばしています。議
席率で17.0%の増加です。しかし、得票率で見ると前回43.8%から今回47.8%まで4.0%の増加に過
ぎません。差の13.0%は小選挙区制ゆえの歪みです。
 小選挙区制による歪みは今回の各党の得票率と議席率の乖離の大きさにも見ることができ
ます。自民党は47.8%の得票で73.0%の議席を得ています。差の25.2%は歪みといえます。自民
党は前回総選挙の時に既に議席率が得票率を12.2%上回っていましたが、得票率を4.0%上げ
ることによって歪みによる議席率を25.2%に倍加することができたのです。ちなみに今回の民主
党の小選挙区得票率は36.4%、議席率17.3%と、19.1%のマイナスの歪みを負うことになりまし
た。
 これが小選挙区制なのです。A党とB党の二党しかなく、全選挙区でA党が51%、B党が49%の
得票を得たとすると全議席がA党のものとなります。しかし、次の選挙で2%の得票が起こり全
選挙区でA党49%、B党51%の得票率となったとすると、A党はすべての議席を失い、B党が議
席を独占することとなるのです。実際にはここまで極端なことは起こりませんが、今回の結果
は小選挙区制がもたらす過大な議席変動の姿を示したといえます。

<「郵政国民投票」は引き分け>

 小泉首相は今回の選挙を「郵政民営化を問う国民投票」と位置づけましたが、国民投票とい
うのなら議席数でなく得票率で判定すべきでしょう。今回、小選挙区票と比例票で二回賛否を
採ったとしますと、賛成票は自民・公明のみ(無所属のホリエモン氏の得票は無視できます)で
すから、小選挙区票では賛成49.2%、反対50.8%で否決、比例票では賛成51.4%、反対48.6%で可
決となります。引き分けです。議席数からだけから今回の選挙結果を見て、自民党の勝利を過
大評価すると、民意をとり違えることになります。
 話題となった「刺客」擁立33選挙区(東京12区を含む)の結果は前自民反対派15、民主4、自
民公明公認14の当選と、これもほぼ互角に終わりました。

<とはいえ衆院での自民・公明の議席数は圧倒的>

 議席数から見た結果を過大評価しないとはいっても、過小評価も禁物です。議会は議員によ
って運営されるのですから。今回、自民党と公明党は合わせて327議席を獲得しました。これ
は衆院全議席480議席の三分の二に当たる320議席を確保したことになります。参議院で否決
されても衆議院で再可決すれば、どんな法案も成立させることができます。ただし例外は憲法
改正の発議で、これは両院それぞれでの三分の二以上の賛成を要しますので、参院での民主
党の賛成が必要になります。いずれにしても、国民は「郵政民営化」にGOサインを与えるにと
どまらず、自公政権にとてつもない権限を与えてしまったのです。
 こうなった以上は、今まで以上に国民による政府・国会への監視を強めていく必要がありま
す。特に、今回のように限られた争点で選挙が行われたときはなおさらのことです。しかもその
監視は、「政府・与党が勝手なことをしたら選挙で痛い目にあわせてやる」というはっきりとした
圧力を伴うものでなければなりません。

<小選挙区制の下での対抗軸の形成>

 小選挙区制をいかに非難したとしても、それが現実である以上、その土俵で勝つことが求め
られます。そのためには自公政権への有効な対抗軸、かつ国民の過半数の支持を得ることの
できる対抗軸を形成していくことが求められます。
 完全小選挙区制の下での二大政党によるマニフェスト選挙を推し進めてきたのが財界であ
ることは前に述べたことがありますが、その「二大政党」がともに財界からの支持を競うもので
あったとしたら、国民にとってはどちらも選択肢にはなりません。その点で今のままでの民主党
では自公政権への対抗軸にはなり得ません。うまくいって似た者同士の二つの政党集団によ
る政権争い、下手をすると「万年野党」にとどまり、自公政権に取り込まれる議員も出てくるか
も知れません。
 そこで求められるのが、財界本意の新自由主義的政策に対抗できる国民的な軸の形成で
す。ところがこれがまた難しいのです。第一の課題は政策の整理です。「もう一つの世界は可
能だ」と呼びかけるときに「もう一つの世界」を魅力ある展望として国民的理解が得られるまで
のものにイメージアップしていくことが必要です。
 第二の課題は幅広い革新勢力の統合です。今回の自民党の小選挙区での勝利をもたらし
た要因の一つに公明党との選挙協力があります。自公が対立して選挙戦が行われていたとし
たら選挙結果は全く異なる様相を呈していたことでしょう。小選挙区ではそれだけ選挙協力が
重要になってきます。ところが肝心の革新政党や市民グループがバラバラです。私は既存の
政党を解党して新党を作っていく必要はないと思います。議会での統一会派を前提とした選挙
協力体制を作ることが出発点です。共同候補者には市民運動のリーダーや知識人の中に広く
求めていくことが大切です。対抗軸は人材面でも魅力的でなければいけません。革新政党の
共同を阻害する要因の一つに労働運動の分裂があります。これは民主党も絡み複雑です。運
動統合の核となる市民運動はこうした問題にも積極的に関与していく必要があるでしょう。もち
ろん既存の革新政党が革新の名にふさわしく自己革新していってほしいところです。

<痛みの中から学ぶ>

 しかし、国政を変えていくのはなんと言っても国民です。今回の選択結果のもたらすものから
学んでいくしかないとも言えましょう。
 ハリケーン・カトリーナがアメリカの新自由主義がもたらした人災として批判されています。貧
富の格差を拡大し固定化してきたこと、富裕層減税とイラク戦費を優先し防災対策を軽視して
きたこと、防災の主力となる州兵のイラク派兵により救援対応が手薄になったこと等々。我が
国でも、不安定雇用の増加、庶民増税、社会福祉の給付削減、教育の差別化・強権化、日米
同盟に基づく海外出兵の常態化、アジア・イスラム諸国との外交摩擦等、様々な痛みや危機を
経験していく中で過去の選択を検証し、問題解決の方向を考えていくしかないのでしょう。


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