昼行灯
〜ひるあんどん〜



2004 5/16 AM 12:00



・・・・・・・・・・・・どうしよう.

僕は今までで一番,
いや,三番目か四番目か.まぁ,それくらいのピンチに陥っている.

スーパーピンチクラーーッシュ!


・・・・・・・・・・・・
いや,そんなネタかましてる余裕はありませんってばさ.
今布団の中にいるんですよ.

とにかく,事の発端は,昨日に遡る.


2004 5/15 PM 10:00



「春歌,誕生日おめでとう!」

「まぁ,兄君さま,ありがとうございます♥」

「これは僕からのプレゼントだよ!」

「あぁっ♥ 綺麗な小箱・・・・・・」

「あけてごらん.」

「ええ・・・・・・・・・あっ! これ,オルゴールですわ!」

「気に入ってもらえたかな?」

「えぇ・・・・・・とっても♥ だけど・・・・・・」

「なんだい? 遠慮せず言ってごらん?」

「その・・・・・・ワタクシの誕生日は・・・・・・」

「あぁ,もちろん知ってるよ.でも,春歌の喜ぶ顔を見るのが待ちきれなかったんだ.」

「まぁ! 兄君さまったら♥ ポッ♥」



春歌は僕の可愛い妹だ.数ヶ月前までドイツにいて,僕たちはお互い兄妹だっていうことも知らずに育てられてきた.初めて春歌っていう妹がいるって知ったときは,さすがに驚いたけど,最初から9人いたし正直,すぐ慣れた.春歌は向こうで厳しいおばあさまの元で「大和撫子」になるよう育てられてきて,僕なんかよりずっと和の文化に詳しかったし,

それに・・・・・・

なんだか,お互い通じ合っていたんだ.まるで,ずっと前から兄妹だったような・・・・・・
(実際そうですが)



まぁ,というわけで,僕はめでたく春歌の誕生日を祝うに至ったわけだ.


「去年まではドイツにいたから,オルゴールが初めての誕生日プレゼントだな.」

「えぇ,この曲,ホントに素敵・・・・・・・・・・・・.曲名は,何というのかしら?」

「『夜明けを待てずに』だよ.ちょっと決まりすぎたかな?」

「あぁ・・・・・・兄君さま・・・・・・ワタクシ,熱でたおれてしまいそうですわ♥♥♥」


兄妹でこんなことをしているのも,傍目から見れば恥ずかしいことなのかもしれない.だけど,この春歌の笑顔の前では,どんなことでも許される――そう,思ってしまうんだ.


「そうだ,去年までの誕生日プレゼント,リクエストしてくれる?」

「まぁ,こんな素敵なオルゴールをもらったというのに,これ以上尽くされては兄君さまに悪いですわ.」

「僕から誕生日プレゼントをもらうのは嫌?」

「いいえっ,とっても嬉しいです! でも・・・・・・」

「去年まで,僕は春歌に兄らしい事をできなかったから.」

「でも,誕生日というものは,年に一回だから嬉しいのかもしれません.」

「そうだね・・・・・・」


ふっと笑って言う.


「こんなに素敵な春歌の笑顔を見られたって言うのに,欲張りすぎたね.」

「あの,じゃあ,ひとつだけお願いできますか?」

「もちろんいいよ.何がほしい?」


めずらしいな,春歌がのってくるなんて.


「あの・・・・・・ワタクシが最近,日本の家具を集めていることは知っていらっしゃいますよね?」


これ以上?


「うん,知ってるよ.」

「それで,あとそろわないのが囲炉裏と・・・・・・」

待って,無理.

「いいえ,囲炉裏をもらおうとしているわけじゃないんです.欲しいけど.


欲しいのか.


「ワタクシが欲しいのは,行灯ですわ.」

行灯?

「ええ・・・・・・寝床につく前に縁側で庭を眺めるのがワタクシの日課なのです.
春の夜,散りゆく夜桜に魅せられ,
夏の夜,鹿おどしの音を愉しみ,
秋の夜,川面に浮かぶ紅葉に移り行く世を思い,
冬の夜,蛍の光で本を読む.
・・・・・・という生活をしているので,最近視力が落ちているんです.」


うわー.鹿おどし作っちゃったか.
っていうか川?庭に川あるの?

もう視力云々にはつっこまない.


「だから行灯がほしいんです!」

「あー・・・・・・そーか・・・・・うん,わかった,買ってあげるよ.」

「出来れば,電球のよりロウソクのほうがいいのですわ.」

「そう?全然明るさが違うんじゃない?」

「でも,蛍よりましですわ.」


まあな.


「そうだね,和風にこだわりたいならロウソクだね.」

「いえ,ワタクシの家にはコンセントと言うものがないのです.」

「はぁ?」

「あの,兄君さま,コンセントと言うのは電気を・・・・・・」

「いや,知ってる.」


もはや何も言うまい.行灯くらい買ってやろうじゃないか.



思えば,そのとき既に僕は,春歌の術にかかっていたんだな

2004 5/16 AM 10:00



「あ,兄君さま!こっちですわ!」


春歌が洋服姿で手を振っている
こうしてみると,とても囲炉裏を欲しがるような女の子には見えない.

僕たちは,春歌の誕生日本番に和風小物のお店で待ち合わせをしたのだった.


「このお店ですわ!」


へぇ.いい感じのお店じゃないか.


「お邪魔しまーす.」

「中も和風で,落ち着くね.」

「ええ,とても.あっ,この提灯,とても可愛い」

「ホントだ.ってことは行灯コーナーは近くかな.」

「あっ!この行灯,とても素敵!」


春歌が,龍と虎が浮かび上がる,39万の行灯を発見する.


「買わないよ?」

「いやですわ,兄君さま.そんな兄気味さまにご無理は言えませ・・・・・・
わぁああ!!!」


「ど,どうした春歌!?」

「ぽぽっぽぽぽぽぽぽぽおぽぽぽぽぽぽ
ぷおーぷおーぷおー


そんな馬鹿な.


「大丈夫か!?」

「こ,この行灯・・・・・・可愛い・・・・・・・・・・・・!!!!!!」


春歌が指差す先には四季を象った小さな四つの提灯.
桜.
鹿おどし.
紅葉.
雪.
各5千円.
4月から税込み表示で計弐萬壱千円だぁ.

昨日の言葉は台詞でしたかコノヤロウ.
図ったなシャア!


「兄君さま!これに決めましたわ!」


「じゃあ,ワリカンで.」

「あ゛!?」


コワイコワイタスケテ


2004 5/16 AM 11:00



はぁ・・・・・・結局買ってしまったな.
ロウソクまで.


「兄君さま,今日は本当に有難う御座いました♥♥♥」

「まぁ,春歌の笑顔のためなら二万円くらい安いほうだよ.
春歌,今まで出一番いい顔で笑ってるよ.」

「まぁ♥ポポポッ♥」


まぁ,毎月誰かの誕生日が来るから,もうこれで勘弁ですが.
最近は非公式企画でやたら増えてるし.
金銭面的にアウトです.


「そうだ,今晩家に泊まりに来てくれませんか?」

「あ,ごめん・・・・・・ちょっと用事があるんだ・・・・・・
だから昨日の夜に行ったんだけど・・・・・・」

「そうですか・・・・・・残念ですわ・・・・・・一緒に行灯を見て、夜を過ごしたかったのに.」

「昼は大丈夫なんだけど・・・・・・また今度ね.」

“キュピーン”


えっ!今の何!?
春歌の目が光ったような・・・・・・


「そうですわ! 今から私の家で灯してみませんか?」


マジで?
ああしくじった.しくじった.まただわ.


付け込む隙を与えてしまった・・・・・・


「ね,行きましょ.兄君さま♥ お昼は暇だっておっしゃいましたわよね? ね?

「でも未だ明るいし・・・・・・」

「布団の中に入れば暗いですわ!」


逃げてもいいですか.


「ダメですわ♥」

「心を読むな!」

「日没を待てずに.」

「うまいわ!!!」





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