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第5回

初夏の太陽が庭に照りつけていた。紀皇女は采女の笠娘子(かさのをとめ)と一緒に橘の木の下にこしかけた。

「ねえ見せて」紀皇女はせかした。

「これでございます。」笠娘子は長く垂れた袖の中から牡丹の花を取り出した。枝には細く巻いた紙がくくりつけられている。

「きれいなはな」紀皇女はうっとりと見入った。白い肌が薄牡丹に染まる。
小さな指で紙をほどくと,中から少し太目のしっかりとした字が書かれていた。この時代まだひら仮名はない,誰でも分かるような簡単な漢字で歌が書かれていた。素養のある男女の間では真名(漢字のこと)で,文を送り合うのが流行りになっていた。中にはなぞなぞのような真名の読み方の文で相手の気をひこうとする者もいる。歌には紀皇女の可憐なうつくしさが牡丹になぞらえられていた。

「ねえ笠娘子」
「なんでしょう,姫様」
「文字には書く人の心があらわれると言うじゃない。きっと弓削皇子様は強くてまっすぐな方なのだと思うわ」

紀皇女はまだ見ぬ弓削皇子に思いをはせた。

「一度この方に会ってみたい」
しかし,それは難しい。紀皇女のいる屋敷は常に兵に守られている。外に出るときも一人というわけにはいかない。

「難しいですね…でも何か考えてみましょう」
笠娘子は思い当たる所があるかのように言った。




(2002/10/10)

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