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加圧筋力トレーニング
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朝日新聞

血液の循環抑え、大きな効果

五輪を科学する〈中〉 加圧筋トレ

腕や脚の付け根にベルトを巻き、血液の循環を少し抑えた状態で筋力を使う。不思議なことに、こうすると、軽い負荷でも体を強く刺激でき、筋力増強に有効なことが最近の研究で分かってきた。「加圧筋力トレーニング」と呼ばれる。指導者は不可欠で、素人が安易にまねるのは危険。社会人野球の強豪として知られる三菱重工長崎が実施しており、効果のほどを探った。

成長ホルモン濃度上昇

シドニー五輪日本代表に選ばれた杉内俊哉投手が所属する三菱重工長崎は、チームをあげて加圧筋力トレーニングに取り組んでいる。 トレーナーの高西文利さんが、選手一人一人の体調に合わせて圧力を調整しながら、腕と脚の付け根に弾力性のある専用ベルトを巻く。締め具合を調整し、血流を制限する。完全に遮ってはいけない。
 トレーニングのメニューは、腕を曲げる運動(カール)やスクワットといった基礎的な筋トレ、野球の基本動作、ストレッチなどをこなしていく。五分から十分ほど続ける。重さニキロほどのダンベルを使う程度で、負荷は非常に軽いが、選手達の実感は「腕や脚にすぐ張りが来てかなりきつい」。
 杉内投手は一年間、加圧を実践してきた。身長175cm、体重70キロだったのが、筋肉がついたことで80キロに増えた。「普通の筋トレもしているけれど、加圧は体づくり、筋力アップに効いていると思う」という。
 三年間続けている投手の後藤隆之さんは「球が毎年速くなり、今年は最高で(時速)149キロ。故障がちでしたが、今はけがもありません」と高く評価している。

きつい運動に相当
記者も加圧を試した。高西さんに両腕の付け根を締めてもらい、軽いダンベルを上げ下げする。すぐに腕がパンパンに張ってくる。数分後にベルトをはずすと、何とも言えないすっきりした感じが、しびれた指先まで下りてくる。軽い負荷なのに効果が高いのはなぜか。
 東京大学の石井直方教授(筋生理学)らの研究で、最大筋力の20%しか負荷をかけていないのに、加圧筋力トレーニングを終えて15分後には、成長ホルモンの血中濃度が安静時の約290倍になっていることが分かった。
 一般に、非常に強度の高い筋力トレーニングでも、成長ホルモンの濃度は約100倍までしかあがらない。血流の制限でたまった代謝産物が神経を刺激し、脳に働いてホルモン分泌を促す、と石井さんはみる。この研究をまとめた論文は今年1月、米国の応用性理学の専門誌に掲載された。
 また、筋電図を使って加圧時の状態を調べたら、負荷が最大筋力の40%でも、ほぼ全部の筋肉が活動していた。
 「血流が制限されると、筋肉は大きな負荷がかかったときと同じように、働かざるを得ない状態に追い込まれるのではないか」と石井さん。

安易なまねは禁物
 ただし、やみくもに締めればいいわけではない。締めすぎると血管が傷ついたり、炎症を起こしたりする心配もある。石井さんは「安易にまねるのは危険。指導者が必要だ」と話す。
 加圧筋力トレーニングを考案したのは、東京府中市でフィットネスクラブを経営する佐藤義昭さん。きっかけは高校3年のとき(1966年)の法事だった。お寺で正座し、我慢できずに姿勢を崩してふくらはぎをさすったら、筋トレの直後のような張りを感じた。「トレーニングと血流の抑制には何か関係がある」とひらめいた。
 佐藤さんは自分の体を実験台にした。自転車タイヤのチューブで縛るなどしてトレーニングを繰り返し、最適な方法を探った。今春までに日米欧で加圧筋力トレーニングの特許を取得した。この方法を使ってトレーニングの指導をする場合は、佐藤さんの講習を受ける必要がある。
 加圧筋力トレーニングは少しずつ広まっている。佐藤さんのもとには、国内のゴルフやボウリングなどのプロ野球選手も通っている。シドニー五輪を機会に、世界の注目を集める可能性も出てきた。

 
手術後のリハビリにも応用

筋力低が防ぎ、復帰早める


 加圧筋力トレーニングは手術後のリハビリテーションにも応用されている。福岡市の正樹(まさき)会病院は、ひざのじん帯を切断した運動選手が再建手術を受けたあと、筋力の低下を防ぐために加圧筋トレを採り入れた。
 ひざのじん帯の手術の場合、入院は3〜6週間かかる。手術後は装具などで関節の動きが制限されるので、脚を動かすことが減り、筋力が低下する。運動選手にとっては重大な問題だ。
 同病院のトレーナー、藤野英明さんは専門誌で加圧の存在を知り、2年前に導入した。何も手に持たない軽めのスクワットや、かかと上げなど数種目で効果を比べた。加圧してのリハビリは、普通のリハビリに比べ筋肉の減少を半分程度に抑え込めることが分かった。「体を動かしにくい人にぴったりのトレーニングです」と藤野さん。この結果は昨年、日本臨床スポーツ医学会で発表された。
 医師から「圧迫で血管に傷害が出る」などの反発もあった。そこで、循環器や血管の病気のある人や高血圧の人などを除外し、慎重に実施している。最近は医師の理解も得られたという。
 同病院の佐田正二郎副院長は「術後、早めの時期から始めたほうが結果はいい。患者さんの中には痛みが減ったという人もいる」と話す。
 開発者の佐藤さんは「軽い負荷で効果があるという特徴を生かし、高齢者の運動に生かすことも考えたい」とい。

2001年9月4日 朝日新聞夕刊

 




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