スペイン語の読み方: 基本編
→スペイン語の読み方: 応用編
日本語では外国の固有名詞の表記に原音主義を採っているが,
もとの言語と日本語では音韻体系が異なるので,
原音を完全に再現するのは不可能である。この限界をふまえれば,
外国語の読み方や表記の正確さに過度にこだわるのは,
あまり有益なこととは言えない。筆者の立場としても,
この点についてはあまりめくじらを立てず, できればうるさいことは言わないようにしたいところである。
しかしながらスペイン語に関しては,
本来非常に素直に, ほぼ原則どおりローマ字読みすればよいものを,
英語読みなどに毒された気持ちの悪い読みや表記がまかりとおっているのが現状である。
一例として,
ある書籍中でのスペイン語のカタカナ表記の例を挙げる。
Valladolid ヴァラドリド, guardia civil
ガルダ・シヴィル, Valencia ヴァランス, Buñuel
ブニエル, Maya マイア
この例は,
スペイン人であるピカソを主題として扱った本から拾ったものである。当然頻出するスペイン語の固有名詞の表記にもそれなりの配慮があってしかるべきところであるが,
実際には, とりあえず目についたものをいくつか挙げただけでも,
そのでたらめさは歴然としているのがわかるだろう。
これは極端にひどい例だが,
これ以外にも似たようなでたらめ表記が氾濫しているのを目にすると,
つい本来の立場も忘れ,
黙って見過ごすわけにはいかなくなってくる。そこでここでは,
スペイン語の知識がまったくない人でもそこそこ妥当にスペイン語の固有名詞を読んだり書いたりできるように,
また, マスメディアなどにおけるこれ以上の間違いの増加を少しでも防げるように,
できるかぎり単純で網羅的な情報を提供して,
参考にしてもらうことにした。
適用範囲
スペイン語の人名, 地名などの固有名詞や,
普通名詞でも日本語文中で外来語として使われることのあるものを対象とする。なお文中では便宜上「読み方」としてあるが,
以下に解説するのは, 実際には「カタカナでの書き表し方」である。
スペイン語の場合はほぼつづりどおりに読み,
つづりと音が1対1で対応する場合が多いため,
以下の解説ではそれぞれのつづりごとに,
対応する原則的なカナ表記をひとつずつ列挙したが,
複数の表記があり得る場合は / で区切って併記した。また,
慣用によりつづりに対応しない表記が定着している場合は,
[…] 内に「慣用」と記し, 例外として示した。
なお, ここで「スペイン語」というのは,
広い意味のスペイン語であって, 同じイベリア半島内の言語であるカタルーニャ語,
バスク語, ガリシア語や, メキシコ・中米の先住民語であるナワトル語,
マヤ語, あるいはそれ以外の外国語 (英語その他)
起源の語も含む。
これらの例外的な語の場合にも, そのつど […]
内にそれぞれ「カタルーニャ, バスク, ガリシア,
メキシコ・中米,
外来語」などと記すことによって,
本来のスペイン語の読み方の原則が当てはまらない,
特殊な例であることを示した。
ただし, これらの特殊な例については,
スペイン語の文脈でスペイン語として読まれた場合を想定しているので,
必ずしも元の言語での正しい読み方と一致するわけではない。
また,
ここではあくまで「スペイン語」の読み方を解説することが目的であるので,
アメリカのスペイン語系地名や,
ヒスパニック系アメリカ人の人名は対象とはしない。
方針
以下の解説は, 下記の方針に従う。
- 発音の基準は,
なるべく筆者が実際に見聞きした範囲に求める
具体的には,
スペインの,
首都マドリードで実際に話されているスペイン語やテレビなどのメディアで使用されている標準的な発音を主な基準とし,
メキシコでの標準的な発音でこれを補う。逆に言えば,
ほかの地域――特に南米での発音についてはあまり考慮されていない。
- 日本語の音韻として,
自然で無理のない表記を目指す
たとえそのほうが原音に近くても,
自然な現代日本語の音韻としては難がある「スィ」「クェ」や「グヮ,
グァ」などの類いは使わない。同様に,
小書きのカナ (「ト」など)
の導入もしない。Luis と Ruiz のように,
日本語にしたとき特に区別しない/できない音韻を,
無理に書き分けるような無為な試みもしない。
- 慣用が定着しているものはそれに従う
慣用としてすでに定着している「セビリア」を改め,
原語の発音に近い「セビーヤ」を新たに採用するような類いのことはしない。
また, これとも関連するが,
- アクセントの位置を表すことにはあまりこだわらない
補足の「アクセントの位置と慣用表記について」参照。
- 不必要な「ッ」は, なるべく省く
スペイン語では,
日本語の捉音に相当する音はほとんど現れないし,
「フィリッピン」や「アッピール」のような表記がかもし出すじじくささを避けるため。
- 複数の語からなる固有名詞 (Los Angeles
などの地名や Juan Carlos のような複合洗礼名)
を書き表す際, 語の区切りの「・」(中黒)
は使わない
新聞などの一般的な表記法にならって。
以下につづりごとに読み方を示す。かっこ内の×は英語などの読み方に毒された,
よく見かける間違い。
母音字
すべてローマ字読みでよい。2つ以上組み合わさった場合でも読み方は変わらない。
- a ア (×エイ, エー) 例: David
ダビ (×デイビッド, デービッド)〈洗礼名〉
- aa アー/アア 例: Isaac
イサーク〈洗礼名〉
- ai, ay アイ (×エイ) 例: El
País
エル・パイス〈スペインの日刊紙〉 Paraguay
パラグアイ
- au アウ (×オー) 例: Augusto
アウグスト (×オーグスト)〈洗礼名〉
- e エ (×イー, エイ) 例: Ebro
エブロ (×イーブロ)〈河川名〉 Ferrero
フェレーロ (×フェレイロ)〈姓〉
- ei, ey エイ (×エー) 例: Siqueiros
シケイロス (×シケーロス)〈メキシコの画家〉
Monterrey モンテレイ (×モンテレー)〈地名〉
- eu エウ (×ユー) 例: Euskadi
エウスカディ (×ユースカディ)〈バスクの別称〉
Eugenio エウヘニオ (×ユーヘニオ)〈洗礼名〉
- i イ (×アイ) 例: Iberia イベリア (×アイベリア)〈地名/スペインの航空会社〉
- ia イア (×イヤ, ヤ) 例: Andalucía
アンダルシア (×アンダルシヤ)〈地名〉
Santiago サンティアゴ (×サンチャゴ)〈地名〉「サンチアゴ」なら許容
- iu イウ (×ユ) Ciudad Real
シウダーレアル (×シュダー―)〈地名〉
- ie イエ (×イェ) 例: Sierra Nevada
シエラネバダ (×シェラ―)〈ネバダ山脈〉
- io イオ (×ヨ) 例: Asunción
アスンシオン (×アスンション)〈地名〉
- o オ
- oi, oy オイ 例: Goicoechea
ゴイコエチェア〈姓〉 Godoy
ゴドイ〈姓〉
- ou オウ (×オー, アウ) 例: Mompou
モンポウ〈スペインの作曲家〉
例外: Lourdes
ルルデス〈洗礼名〉つづりどおりに読まない唯一の例?
- oo オー (×ウー) 例: Quintana Roo
キンタナロー (×キンタナルー)〈地名〉
- u ウ (×ユ, ア) 例: Induráin インドゥライン
(×インデュライン)〈自転車選手〉間違った表記「インデュライン」がかなり定着してしまっているので,
いまさら訂正は無理か?
- ua ウア (×ウワ, ワ) 例: Cuatro
Caminos クアトロカミーノス (×クワトロ―)〈地名〉
Juan フアン (×フワン, フヮン)〈洗礼名〉「ホアン」と表されることがあるが,
推奨しない。同じ ua のつづりが前の子音によって「ウア」になったり「オア」になったりするのは,
一貫性に欠け問題がある (参考: Suárez
スアレス〔×ソアレス〕)
- ui ウイ (×ウウィ, ウィ) g-, q-
に続く場合についてはそれぞれの項参照
例: Luis ルイス (×ルウィス)〈洗礼名〉
- ue ウエ (×ウウェ, ウェ, ユエ) g-, q-
に続く場合についてはそれぞれの項参照
例: Puente プエンテ (×プウェンテ)〈姓〉 Manuel マヌエル
(×マニュエル)〈洗礼名〉
- uo ウオ (×ウウォ, ウォ)
子音字
凡例
x- 母音字との組み合わせ (-
は任意の母音字を表す)
x* 語頭で後ろに子音字が続く場合, -x*
音節末 (- は任意の文字, * は任意の子音字。後続の子音字が
l か r のとき, 本来は2重子音となり別の音節をなすが,
今回は便宜上ここに含める)
-x 語末 (- は任意の文字)
- b
- b-
- ba バ 例: Barcelona
バルセロナ
- bi ビ 例: Bilbao
ビルバオ〈地名〉
- bu ブ 例: Burgos
ブルゴス〈地名〉
- be ベ 例: Belén
ベレン〈姓〉
- bo ボ 例: Borges
ボルヘス〈アルゼンチンの作家〉
- b*, -b*, -b ブ 語末に現れるのは外来語などのごく一部の語に限られる
例: Blanco ブランコ〈姓〉 club
クルブ〈クラブ〉
- c
- c-
- ca カ 例: Salamanca
サラマンカ〈地名〉
- ci シ (×スィ) 例: García
Márquez ガルシア=マルケス〈コロンビアの作家〉「ガルスィア」などの表記は方針2に従い採らない
- cu ク 例: Cuzco
クスコ〈地名〉
例外: [慣用] Cuba キューバ
本来は「クーバ」
- ce セ 例: ONCE
オンセ〈スペイン盲人協会/自転車チーム〉
- co コ 例: Francisco
フランシスコ〈洗礼名〉
- c*, -c*, -c ク 例: Moncloa
モンクロア〈地名〉 Octavio Paz
オクタビオ・パス〈メキシコの詩人〉
Cuauhtémoc クアウテモク/クアウテモック〈アステカ王〉
- ch-
- cha チャ (×シャ) 例: Chaves
チャベス (×シャベス)〈姓〉 La
Mancha ラマンチャ〈地名〉
- chi チ (×シ) 例: Chinchón
チンチョン〈地名〉
- chu チュ (×シュ) 例: Chueca
チュエーカ〈地名〉
- che チェ (×シェ) 例: Merche
メルチェ〈洗礼名 Mercedes の愛称〉
- cho チョ (×ショ) 例: Ochoa
オチョア〈姓〉
- -ch* [メキシコ] チ 例: Tenochtitlán
テノチティトラン〈アステカの都市〉
- -ch [カタルーニャ] 無音/ク 例: Belloch
ベヨー〈姓〉 Rexach
レシャク〈姓〉
例外: [慣用] Samaranch
サマランチ〈IOC会長〉スペイン語では「サマラン」?
- ç- [カタルーニャ]
- ça サ 例: Barça
バルサ〈FCバルセロナの愛称〉
- -ç [カタルーニャ] ス 例: Vicenç
ビセンス〈洗礼名〉
- d
- d-
- da ダ 例: Badajoz
バダホス〈地名〉
- di ディ 例: Cádiz
カディス〈地名〉
- du ドゥ (×デュ) 例: Durango
ドゥランゴ (×デュランゴ)〈地名〉
Duero ドゥエロ〈河川名〉
例外: [慣用] Honduras
ホンジュラス 本来は「オンドゥーラス」
- de デ 例: Delgado
デルガード〈姓〉
- do ド 例: Almodóvar
アルモドバル〈スペインの映画監督〉
- d*, -d* ド 例: Rodrigo
ロドリゴ〈洗礼名〉
- -d 無音 例: Trinidad
トリニダー〈洗礼名〉 Real Sociedad
レアル・ソシエダー〈サッカーチーム〉
Valladolid バヤドリー/バヤドリード〈地名〉後者は世界史などで使われることのある「バリャドリード」に配慮した準慣用形。ll-
の項参照 David
ダビ (×デイビッド, デービッド)〈洗礼名〉
例外: [慣用] Madrid マドリード 本来は「マドリー」。英語読み由来と思われる「マドリッド」という慣用もある
El Cid エル・シッド〈中世スペインの英雄〉原則どおりにいけば「エル・シッ」だが,
それではなんだか落ち着かないので慣用に従っておく
- f
- f-
- fa ファ 例: Rafael
ラファエル〈洗礼名〉
- fi フィ 例: Figueras
フィゲーラス〈地名〉
- fu フ 例: Tierra del Fuego
フエゴ島 (×フェゴ)〈地名〉
- fe フェ 例: Felipe
フェリペ〈洗礼名〉
- fo フォ 例: Telefónica
テレフォニカ〈スペインの電話会社〉
- f*, -f*, -f フ 語末に現れるのは外来語などのごく一部の語に限られる
例: Francisco
フランシスコ〈洗礼名〉 golf
ゴルフ〈ゴルフ〉
- g … gi, ge, gui, gue などのつづりに注意。
- g-
- ga ガ 例: Fraga
フラガ〈姓〉
- gi ヒ (×ギ, ジ) 例: Gijón
ヒホン (×ギホン)〈地名〉 Gil
ヒル (×ジル)〈姓〉
例外: [カタルーニャ] ジ 例: Girona
ジローナ〈地名〉本来のスペイン語形は
Gerona ヘローナ だが,
最近ではカタルーニャ語形のままで使われることも多い
- gu グ 例: Guzmán
グスマン〈姓〉
- ge ヘ (×ゲ, ジェ) 例: Ángel
アンヘル (×アンジェル)〈洗礼名〉
Cartagena カルタヘナ〈地名〉
例外: [慣用] Argentina
アルゼンチン 本来は「アルヘンティーナ」
例外: [カタルーニャ] ジェ 例: Generalitat
ジェネラリタット〈カタルーニャ州政府〉
- go ゴ 例: Santo Domingo
サントドミンゴ〈地名〉
- gu-
- gua グア (×ガ) 例: Guatemala
グアテマラ (×ガテマラ) 「グァテマラ,
グヮテマラ」は方針2に従い採らない
Uruguay ウルグアイ
例外: [メキシコ, カリブ] グア/ワ
発音は両者の中間ぐらいだが,
一部の語では明らかに「ワ」に近い
例: guarachi
ワラッチ〈サンダル〉 guaguancó
ワワンコー〈キューバ音楽の一種〉
(スペインなどでもまれに
aguacate
アワカテ〈アボカド〉のように「ワ」になることがある)
- gui ギ (×グィ, グイ) 例: Guipúzcoa
ギプスコア〈地名〉
- gue ゲ (×グェ, グエ) 例: Guernica
ゲルニカ〈地名〉 Miguel
ミゲル (×ミグェル, ミグエル)〈洗礼名〉
- gü-
- güi グイ 例: güiro
グイロ〈楽器の名前〉
- güe グエ 例: Sigüenza
シグエンサ〈地名〉
- g*, -g*, -g グ 例: Granada
グラナダ〈地名〉 Ignacio
イグナシオ〈洗礼名〉 Puig
プイグ〈アルゼンチンの作家〉
- -ing [外来語] イン 例: Racing
de Santander ラシン・デ・サンタンデール〈サッカーチーム〉
- h … スペイン語では原則的に無音。
- h-
- ha ア (×ハ) 例: Abraham
アブラアム (×アブラハム)〈洗礼名〉
例外: [慣用] Alhambra
アルハンブラ 本来は「アランブラ」
La Habana ハバナ〈地名〉本来は「ラアバーナ」
- hi イ (×ヒ) 例: Hierro
イエロ〈姓/地名〉
- hu ウ (×フ) 例: Huelva
ウエルバ〈地名〉
- he エ (×ヘ) 例: Herrera
エレーラ (×ヘレラ)〈姓〉 Héctor
エクトル (×ヘクター)〈洗礼名〉
lehendakari
レエンダカリ〈バスク州政府首相〉
- ho オ (×ホ) 例: horchata
オルチャタ〈飲み物の名前〉
例外: [慣用] Honduras
ホンジュラス 本来は「オンドゥーラス」
- hu- [メキシコ]
- hua ワ (×フア) 例: Teotihuacán
テオティワカン〈メキシコの遺跡〉
Chihuahua チワワ〈地名〉
- hui ウィ (×フイ) 例: Huitzilopochtli
ウィツィロポチトリ〈アステカの神〉
- j … スペイン語の j
は英語やフランス語の発音とはまったく違うので注意。
- j-
- ja ハ (×ジャ, ヤ) 例: Guadalajara
グアダラハラ〈地名〉 Barajas
バラハス〈地名〉 Oreja
オレハ (×オレッハ)〈姓〉 La
maja desnuda
裸のマハ〈ゴヤの名画〉なぜか「裸のマヤ」とか書いてる本が多いんだ,
ほんとに。中米の古代文明とごっちゃにしてない?
- ji ヒ (×ジ) 例: Jiménez
ヒメネス〈姓〉
例外: [慣用] Méjico
メキシコ 本来は「メヒコ」
- ju フ (×ジュ, ユ) 例: Julio
フリオ (×ジュリオ)〈洗礼名〉
- je ヘ (×ジェ, イェ) 例: Jesús
ヘスス (×ジェスス)〈洗礼名〉
Jerez de la Frontera ヘレスデラフロンテーラ
(×イェレズ)〈地名〉
例外: [慣用] Compañía de Jesús
イエズス会 jerez シェリー酒
- jo ホ (×ジョ, ヨ) 例: José
ホセ〈洗礼名〉 Gijón
ヒホン (×ヒヨン)〈地名〉 Ojos
de Salado
オホス・デ・サラード (×オッホス)〈アルゼンチンの山〉
例外: [カタルーニャ] ジョ 例: Jordi
Pujol ジョルディ・プジョル〈カタルーニャの政治家〉
例外: [バスク] ヨ/(一部の地方)
ホ 例: Jon ヨン〈洗礼名〉この名前は地方によって発音が変わることはない
- ju-
- jua フア (×ファ) 例: Juan
Carlos I フアンカルロス1世 (×ファン)〈現スペイン国王〉
Juárez フアレス (×ファレス)〈姓〉「ホアン」「ホアレス」と表されることがあるが,
ここでは採用しない。u の項参照
例外: [慣用] Tijuana
ティファナ〈地名〉 Guanajuato
グアナファト〈地名〉
- jue フエ (×フェ)
例外: [慣用] Aranjuez
アランフェス〈地名〉
- -j フ 語末に現れるのは,
次の例などのごく一部の語に限られる
例: reloj レロフ〈時計〉
- k …
普通はバスク語由来の単語か外来語にしか使われない。
- k- [バスク, メキシコ・中米,
外来語]
- ka カ 例: Euskadi
エウスカディ〈バスクの別称〉
Tikal ティカル〈マヤ遺跡〉
- ki キ 例: Iñaki
イニャーキ〈洗礼名 (の愛称?)〉
- ku ク 例: Kukulcán
ククルカン〈マヤの神〉
- ke ケ 例: Kelme
ケルメ〈スペインのスポーツ用品メーカー/自転車チーム〉
- -k [メキシコ] ク 例: Bonampak
ボナンパック〈マヤ遺跡〉
- l
- l-
- la ラ 例: Alcalá
アルカラ〈地名/姓〉
- li リ 例: Dalí
ダリ〈スペインの画家〉 Salinas
サリーナス〈姓〉
- lu ル 例: Luis
ルイス〈洗礼名〉
- le レ 例: León
レオン〈地名〉
例外: [慣用] Chile チリ 本来は「チレ」
- lo ロ 例: Carlos
カルロス〈洗礼名〉
- -l*, -l ル 例: alcázar
アルカサル〈城〉 Puerta del Sol
プエルタ・デル・ソル〈「太陽の門」広場〉
- ll- …
この音を無条件にジャ行で写すのは問題がある。y-
の項, 「ll, y について」参照。多少慣用化しているものについては,
以前の規範的発音に従いリャ行で表すことも認める。
- lla ヤ (×ラ, ジャ, リア)
例: Castilla カスティーヤ (×カスティラ,
カスティリア)〈地名〉または「カスティーリャ」
Paseo de la Castellana
カステヤーナ大通り Valladolid
バヤドリー/バヤドリード〈地名〉または「バリャドリー/バリャドリード」。-d
の項参照 Marbella マルベーヤ
(×マルベラ, マルベージャ)〈地名〉
paella パエーヤ (×パエラ,
パエージャ, パエリア)〈スペインの米料理〉または「パエーリャ」
tortilla トルティーヤ (×トルティージャ)〈スペイン風オムレツ/トウモロコシを薄く延ばして焼いたメキシコ・中米の主食〉または「トルティーリャ」
例外: [慣用] Sevilla
セビリア〈地名〉本来は「セビーヤ」
Pancho Villa パンチョ・ビリャ
(×ビラ)〈メキシコの革命家〉原則に従えば「ビヤ」
Falla
ファリャ〈スペインの作曲家〉原則に従えば「ファヤ」
- lli イ (×ジ) 例: Medellín
メデイン〈地名〉
例外: [慣用] Medellín
メデジン〈コロンビアの町〉コロンビアの
Medellín に限り, 慣用となっているので。現地の発音に合わせた表記か?
- llu ユ (×ル, ジュ) 例: Arzalluz
アルサユス (×アルサルス)〈バスクの政治家〉
- lle イェ/イエ (×レ, ジェ) 例: Lleida
イェイダ〈地名〉本来のスペイン語形は
Lérida レリダ だが,
最近ではこのカタルーニャ語形のままで使われることも多い
Guillermo ギイェルモ (×ギレルモ)〈洗礼名〉
Rayo Vallecano
ラヨ・バイェカーノ (×ラジョ・バジェカーノ)〈サッカーチーム〉
Allende アイェンデ〈姓〉
例外: [慣用] Allende
アジェンデ〈チリの政治家〉同名のチリの政治家に限り,
慣用として定着しているので。現地ではこう発音している?
- llo ヨ (×ロ, ジョ) 例: Mallorca
マヨルカ (×マジョルカ)〈地名/サッカーチーム〉
Zedillo セディーヨ/セディージョ〈前メキシコ大統領〉前者を採用したいところだが,
なぜか後者の表記のほうが広く流通しているのでこれも挙げておく
例外: [慣用] Vargas Llosa
バルガス=リョサ〈ペルーの作家〉「ヨサ」としたいところだがこの表記がすでに定着して久しいので
Murillo
ムリーリョ〈スペインの画家〉原則に従えば「ムリーヨ」
- -ll*, -ll [カタルーニャ,
外来語] ル 例: Sabadell
サバデル〈地名〉 Borrell
ボレル〈姓〉 Güell
グエル〈姓〉 Pasqual Maragall
パスクアル・マラガル/――・マラガイ〈カタルーニャ州首相〉
- m
- m-
- ma マ 例: José María
(= José Mª)
ホセマリア〈洗礼名〉
- mi ミ 例: Joan Miró
ジョアン・ミロ〈スペインの画家〉
- mu ム 例: Murcia
ムルシア〈地名〉
- me メ 例: Mérida
メリダ〈地名〉
- mo モ 例: Ramón
ラモン〈洗礼名〉
- -m*
- -mb- ン+バ行 (×ム+バ行) 例:
Colombia コロンビア (×コロムビア)
- -mp- ン+パ行 (×ム+パ行) 例:
Pamplona パンプローナ〈地名〉
これらを「コロムビア」のように書きたがる向きもあるようだが,
そういう人はアンパンも「アムパン」と書くのだろうか?
- -m ム/ン 例: Tulum
トゥルム〈マヤ遺跡〉 UNAM
ウナム〈メキシコ国立自治大学〉 Mariam
マリアン〈洗礼名〉
- n
- n-
- na ナ 例: Solana
ソラーナ〈姓〉
- ni ニ 例: Nicaragua
ニカラグア
- nu ヌ 例: Núñez
ヌニェス〈姓〉
- ne ネ 例: Banesto
バネスト〈スペインの銀行/自転車チーム〉
- no ノ 例: Serrano
セラーノ〈姓〉
- -n*, -n ン 例: Cuenca
クエンカ〈地名〉 Martín
マルティン〈洗礼名/姓〉
- -nm- ン+マ行/マ行 例: Inma
インマ〈洗礼名 Inmaculada の愛称〉
Inmaculada イマクラーダ/インマクラーダ〈洗礼名〉
- ny- [カタルーニャ] ニャ行
- nyo ニョ 例: Espanyol
エスパニョール〈サッカーチーム〉
- ñ
- ñ-
- ña ニャ (×ニア) 例: La
Coruña ラコルーニャ (×ラコルニア,
ラコルニャ)〈地名〉 Cataluña
カタルーニャ/カタロニア (×カタルニア)〈地名〉「カタロニア」は英語形の慣用名称
例外: [慣用] España
スペイン 本来は「エスパーニャ」
- ñi ニ 例: Iñigo
イニゴ〈洗礼名〉
- ñu ニュ 例: Buñuel
ブニュエル〈スペインの映画監督〉
- ñe ニェ 例: Ordóñez
オルドニェス〈姓〉
- ño ニョ 例: Logroño
ログローニョ〈地名〉
- p
- p-
- pa パ 例: gazpacho
ガスパチョ (×ガスパッチョ)〈冷たい野菜スープ〉
- pi ピ 例: Pilar
ピラール〈洗礼名〉
- pu プ 例: Acapulco
アカプルコ〈地名〉
- pe ペ 例: peseta
ペセタ〈スペインの旧通貨〉
- po ポ 例: Popocatépetl
ポポカテペトル〈メキシコの火山〉
- p*, -p* プ 例: Pérez Prado
ペレス=プラード〈ラテン音楽家〉 Museo
del Prado プラド美術館 本来はこれも「プラード」のほうがいいが,
慣用的にこうすることが多い Concepción
コンセプシオン〈洗礼名〉 Repsol
レプソル〈スペインの石油化学企業〉
- -p [カタルーニャ] プ 例: Josep
ジョセプ〈洗礼名〉 Camp Nou
カンプ・ノウ〈FCバルセロナの本拠地〉
- psi シ (= si) ギリシャ系の一部の語のみ
例: psicología シコロヒーア〈心理学〉
- q
- qu-
- qui キ (×クィ, クイ) 例: Quito
キト〈地名〉 Don Quijote
ドン・キホーテ
- que ケ (×クェ, クエ) 例: Raquel
ラケル (×ラクェル, ラクエル)〈洗礼名〉
- r
- r-
- ra ラ 例: Antonio Banderas
アントニオ・バンデーラス〈スペインの俳優〉
- ri リ 例: La Rioja
ラリオハ〈地名〉
- ru ル 例: Ruiz
ルイス〈姓〉洗礼名の Luis
ルイス と混同しないよう注意 Perú
ペルー
- re レ 例: Cáceres
カセレス〈地名〉
- ro ロ 例: Rosa
ロサ〈洗礼名〉
- -r*, -r ル 例: El Corte Inglés
エル・コルテ・イングレス〈スペインのデパート〉
- -ar アール/アル (×アー)
例: Pilar ピラール (×ピラー)〈洗礼名〉
- -er エール/エル (×アー)
例: Santander
サンタンデール (×サンタンダー)〈地名〉
- -or オール/オル (×アー)
例: Héctor エクトル (×ヘクター)〈洗礼名〉
- rr-
- rra ラ (×ルラ, ッラ) 例: Serrano
セラーノ〈姓〉 Guerra ゲラ (×ゲッラ)〈姓〉
- rri リ (×ルリ) 例: Barrionuevo
バリオヌエボ〈姓〉
- rru ル (×ルル) 例: Covarrubias
コバルビアス〈地名/姓〉
- rre レ (×ルレ) 例: Torremolinos
トレモリーノス〈地名〉
- rro ロ (×ルロ) 例: Curro
クロ〈洗礼名 Francisco の愛称〉
s … 英語やフランス語と違って,
いつでもサ行の清音 (濁らない)。
- s-
- sa サ (×ザ) 例: Isabel
イサベル (×イザベル,
イザベラ)〈洗礼名〉
- si シ (×ジ, スィ) 例: Simón
シモン〈洗礼名〉「スィモン」などの表記は方針2に従い採らない
- su ス (×ズ) 例: Jesús
ヘスス (×へズス)〈洗礼名〉
- se セ (×ゼ) 例: Orense
オレンセ (×オレンゼ)〈地名〉
- so ソ (×ゾ) 例: Alonso
アロンソ (×アロンゾ)〈洗礼名/姓〉
- ss- … s
を重ねるのは本来のスペイン語では非常に珍しい。
- sso ソ 例: Picasso
ピカソ これが唯一の例か?
- -s*, -s ス (×ズ) 例: Huesca
ウエスカ〈地名〉 Buenos Aires
ブエノスアイレス
t
- t-
- ta タ 例: Arrieta
アリエタ (×アリエッタ)〈姓〉
- ti ティ 例: Santiago
サンティアゴ (×サンチャゴ)〈地名〉「サンチアゴ」なら許容
San Sebastián
サンセバスティアン (×サンセバスチャン)〈地名〉
- tu トゥ 例: Asturias
アストゥリアス〈地名〉
- te テ 例: Alicante
アリカンテ〈地名〉
- to ト 例: Toledo
トレド〈地名〉
- t*, -t* ト 例: Castro
カストロ〈キューバの政治家〉 Atlético
de Madrid アトレティコ・デ・マドリード〈サッカーチーム〉
- -t [カタルーニャ, 外来語] ト/無音
例: Generalitat ジェネラリタット〈カタルーニャ州政府〉
Pinochet
ピノチェト〈チリの政治家〉
Ortega y Gasset オルテガ=イ=ガセット/オルテガ=イ=ガセー〈スペインの哲学者〉前者が主流だが後者の表記もまれに見かける
SEAT
セアット〈スペインの自動車会社〉
- ts- [カタルーニャ, バスク]
ツァ行
- -ts [カタルーニャ, バスク] ツ
例: Sants サンツ〈バルセロナにあるスペイン国鉄の駅名〉
- tx- [カタルーニャ, バスク]
- txa チャ 例: Arantxa Sánchez
Vicario
アランチャ・サンチェス=ビカリオ〈テニス選手〉
- txi チ 例: Patxi
パチ〈洗礼名 Francisco の愛称?〉
- txe チェ 例: Ibarretxe
イバレチェ (×イバレッチェ)〈バスク州首相〉
- txo チョ 例: Otxoa
オチョア〈姓〉
- tz- [バスク, メキシコ・中米]
- tza ツァ 例: Chichén-Itzá
チチェンイツァー (×チチェンイッツァ)〈マヤ遺跡〉
quetzal
ケツァル (×ケッツァル)〈鳥の名前/グアテマラの通貨〉
例外: ertzantza
エルチャンチャ〈バスク州警察〉本来は「エルツァンツァ」のはずだが、非バスク語話者には発音しづらいため?
- tzi ツィ 例: Janitzio
ハニツィオ〈地名〉
- tzu ツ 例: Tzintzuntzan
ツィンツンツァン〈地名〉
- -tz* [メキシコ] ツ 例: Pátzcuaro
パツクアロ〈地名〉
v … スペイン語では b
とまったく同じ扱い。英語やフランス語の
v の発音とは違い決して「ヴ」の音にはならないので注意。
- v-
- va バ (×ヴァ) 例: Valencia
バレンシア (×ヴァレンシア)〈地名〉
- vi ビ (×ヴィ) 例: Javier
ハビエル (×ハヴィエル)〈洗礼名〉
- vu ブ (×ヴ) 例: Vuelta de
España
ブエルタ・デ・エスパーニャ (×ヴエルタ,
ヴェルタ)〈スペイン1周自転車レース〉
- ve ベ (×ヴェ) 例: Veracruz
ベラクルス (×ヴェラクルス)〈地名〉
Velázquez ベラスケス (×ヴェラスケス)〈画家〉
- vo ボ (×ヴォ) 例: Gustavo
グスターボ (×グスターヴォ)〈洗礼名〉
w …
普通は外来語にしか使われない。
- w- [外来語] 発音は語によって異なる
- wa バ/ワ 例: water
バテル〈トイレ〉
- we ベ/ウェ 例: Loewe
ロエベ〈スペインの高級ブランド〉
x
- x-
- xa クサ
例外: [カタルーニャ] シャ 例: La
Caixa ラ・カイシャ〈貯蓄銀行〉
例外: [バスク] サ 例: Xabier
サビエル〈洗礼名〉バスク語本来の発音は「シャビエル」
例外: [メキシコ] サ/シャ 例: Uaxactún
ワシャクトゥン〈マヤ遺跡〉
例外の例外: [メキシコ] Oaxaca
オアハカ〈地名〉
- xi クシ 例: Máximo
マクシモ〈洗礼名〉
例外: [メキシコ] シ
例外の例外: [メキシコ] ヒ México
の派生形のみ。México
自体については次項を参照。なおスペインでは
Méjico とつづる 例: Mexicali
メヒカリ (×メキシカリ)〈地名〉
さらにその例外: [慣用] México
メキシコ 本来は「メヒコ」 Ciudad
de México メキシコシティー 本来は「シウダーデメヒコ」
- xu クス
例外: [ガリシア] シュ 例: Xunta
シュンタ〈ガリシア州政府〉
- xe クセ
例外: [ガリシア] シェ 例: Teixeira
テイシェイラ〈姓〉
例外: [メキシコ] セ/シェ 例: Xel-Há
シェルハー〈地名〉
- xo クソ
例外: [メキシコ] ソ/ショ 例: Xochimilco
ソチミルコ〈地名〉
- -x* ス 例: Extremadura
エストレマドゥーラ〈地名〉
例外: [メキシコ] ス/シュ 例: Taxco
タスコ〈地名〉 Uxmal ウシュマル〈マヤ遺跡〉
- -x クス 例: Félix
フェリクス〈洗礼名〉
y
- y- …
この音を無条件にジャ行で写すのには問題がある。「ll, y について」参照。
- ya ヤ (×ジャ) 例: Goya
ゴヤ〈画家〉
- yu ユ (×ジュ) 例: Yucatán
ユカタン〈地名〉
- ye イェ/イエ (×ジェ) 例: Reyes
レイェス/レイエス (×レジェス)〈姓〉
例外: [慣用] Yepes
イエペス〈スペインの音楽家〉本来は「イェペス」
- yo ヨ (×ジョ) 例: Plaza
Mayor マヨール広場 (×マジョール,
マイヨール) Coyoacán コヨアカン
(×コジョアカン)〈地名〉
- -y イ 語末の -y は母音字 i
と同じ扱い (母音字 a, e, o の項参照)
例: Echegaray エチェガライ〈姓〉
Fernando Rey
フェルナンド・レイ〈スペインの俳優〉
- y イ この文字が単独で用いられるのは接続詞
y〈そして〉の場合のみ 例: Castilla
y León
カスティーヤ・イ・レオン〈カスティーヤ・レオン自治州〉
z … 英語やフランス語の z
の発音とは違い, 決して濁らないのに注意。
- z-
- za サ (×ザ, ツァ) 例: González
ゴンサレス (×ゴンザレス)〈姓〉
Zaragoza サラゴサ〈地名〉 Ibiza
イビサ (×イビザ)〈地名〉 Esperanza
エスペランサ (×エスペランザ,
エスペランツァ)〈洗礼名〉
- zi シ (×ジ) 例: Zinacantán
シナカンタン〈地名〉
- zu ス (×ズ) 例: Zurbarán
スルバラン〈スペインの画家〉
zarzuela サルスエラ (×ザルズエラ)〈スペインの歌劇形式〉
例外: [慣用] Venezuela
ベネズエラ 本来は「ベネスエラ」
- ze セ (×ゼ) 例: Zedillo
セディーヨ/セディージョ〈前メキシコ大統領〉
- zo ソ (×ゾ) 例: Lorenzo
ロレンソ (×ロレンゾ)〈姓〉
- -z*, -z ス (×ズ, ツ) 例: Aznar
アスナール (×アズナール)〈姓〉 azteca
アステカ (×アズテカ, アズテック)〈メキシコの古代文明〉
Veracruz ベラクルス (×ベラクルーズ)〈地名〉
Penélope Cruz ペネロペ・クルス (×クルズ,
クルーズ)〈スペインの女優〉 Díaz
ディアス (×ディアズ)〈姓〉 Sanz
サンス〈姓〉
ll-
の音については地域によっていくつかの変種があり,
スペインの発音, 中南米の発音といってもそれぞれ一様ではない。以前は「リャ」の子音に似た音
(硬口蓋側音) で発音され,
それが規範とされていたが, 現在では多くの地域で次の
y- と同じ音に移行している。
次に y- についてだが, スペイン語の y- の音 (硬口蓋摩擦音)
は日本語のヤ行音 (硬口蓋接近音) よりも摩擦が強いので,
語頭や -n の後など, 現れる位置によっては「ジャ」(後部歯茎摩擦音/破擦音)
のように聞こえることがある。また,
これも地域によっていくつかの変種があり,
明らかに「ジャ」と発音するところもあるが,
スペインと中南米の大部分ではどちらかというと「ヤ」に近い。
このふたつの音に対して, 自己流でスペイン語――特に中南米の――を身につけた人に「ジャ」を好んで使う傾向が強いように思われるが,
この音をなんでも無条件に「ジャ」で表すのは筆者には抵抗がある。しかしながら,
出現する位置や, それぞれの地域での発音をすべて考慮に入れて使い分けるのもまた困難であるので,
ll-, y- の両者には, 方針1と上記の理由により,
最も多くの地域で使われている標準的な音としてヤ行音を一律にあてた。また逆にジャ行音には,
いろいろと異論もあろうが, これを無条件に使うことに反対する意味で×をつけた。
スペイン語では,
アクセントの位置はアクセント符号があればその音節に,
そうでなければ後ろから2番目の音節にある。ただし後者の場合でも,
-n, -s 以外の子音で終わるときには最後の音節にアクセントがくる。
そこでアクセントの位置を正確に写すためと称して,
そこに「ー」(音引き) を挿入することがある。例えば
Granada グラナダ を, 原語の後ろから2番目の音節にくるアクセントを反映させるためにわざわざ「グラナーダ」と改めるようなのがその類いだが,
推奨しない。その理由は以下のとおりである。
- 慣れ親しんだ表記を改めてまで,
日本語文中に組み入れられたスペイン語の単語の強勢位置を忠実に再現する価値があるとは思えない。
- 確かに強勢のある音節は長く発音される傾向があるが,
強勢と母音の長短は同じものではない。――スペイン語に母音の長短の区別があるわけではないので,
絶対的なものではない。例えば Miguel
ミゲル は最後の e にアクセントがくるが,
(筆者の感覚では)
必ずしも「ミゲール」のように長くはない。従って,
強勢のあるなしを母音の長短で代用しようとすると,
かえってもとの発音から離れてしまうこともある。
- なによりも,
日本語の文字列として見たとき,
そのような「ー」は煩わしい。
上の解説では,
アクセントの位置を表すことにはあまりこだわらずに,
慣用化しているものについては手を加えずそれに従い,
また, そうでないものについても, 過度に「ー」を使わないようにした。
以下に,
おもなアクセント重視の表記例を挙げるが,
上に述べたとおり, なかば慣用化したものを置きかえる必要性を認めなかったのと,
冗長で煩わしい表現になると考えたことから,
ここでは採用していない。
地名: Andalucía アンダルシーア,
Barcelona バルセローナ, Toledo トレード
姓: Dalí ダリー, García ガルシーア, González
ゴンサーレス, Miró ミロー
洗礼名: Felipe フェリーぺ, José ホセー, María
マリーア
その他: peseta ペセータ, quetzal ケツァール
ただし, La Coruña ラコルーニャ など「ラコルニャ,
ラコルニャ」(それぞれラコ, コにアクセント)
のような気持ちの悪い頭高のアクセントで呼ばれるのを避けるため――実際に
NHK の番組予告でそう発音されていた――積極的に「ー」を挿入したものもある。
スペイン語圏の人名について
基本的に「洗礼名 + 父方の姓 +
母方の姓」という構成からなる。
Pablo Ruiz Picasso パブロ・ルイス=ピカソ
Jaime Mayor Oreja ハイメ・マヨール=オレハ
Gabriel García Márquez ガブリエル・ガルシア=マルケス
Arantxa Sánchez Vicario アランチャ・サンチェス=ビカリオ
José Ortega y Gasset ホセ・オルテガ=イ=ガセット
José Luis Rodríguez Zapatero ホセルイス・ロドリゲス=サパテロ
José María Aznar ホセマリア・アスナール
普通は母姓を略して父姓だけを名乗るが,
ピカソのように父姓を略する人もいる。マヨール=オレハのようにどちらも省略しないで名乗ることもある。特にありふれた父姓の場合は,
ガルシア=マルケス, サンチェス=ビカリオのように両方とも名乗ることが多い
(日本では「サンチェス」と呼んでいるが)。同様の場合に,
母姓を通用姓としている人もいる。
父姓と母姓はオルテガ=イ=ガセットのように y
でつなぐこともある。
最後のアスナールは父姓だけを名乗った例だが,
洗礼名が2つからなる。このホセマリアのように,
洗礼名が2つ以上組み合わさった例も非常に多い。
最後に間違いやすい例をいくつか挙げる。
- Pérez Prado ペレス=プラード
誤解している人も多いが両方とも姓なので,
「プラード氏」とだけ呼んだり, 名前のつもりで「ペレス」と呼んだりすることはできない。
- Luis Miguel ルイスミゲル, Luis Enrique
ルイスエンリケ
両方とも名前なので,
姓のつもりで「ミゲル」とか「エンリケ」と呼ぶことはできない。
- Juan Carlos I フアンカルロス1世
よく「カルロス国王」と略しているのを見かけるが,
普通は省略できない。
筆者はスペイン語と日本語の音声学については素人であるので,
専門家の立場から見れば多くの初歩的な誤りを犯しているかもしれない。また,
限られた知識からくる勘違いが含まれている可能性もある。その他,
慣用との兼ね合いで一貫しない点や, 特に「ジャ」の是非に関する部分などの筆者の見解についても,
異論や不満があろうが,
そういう面もあることに十分留意して利用されたい。
冒頭でも述べたとおり,
日本語では外国の固有名詞を表記する際に原音主義を採っている。これは,
ラテン文字 (ローマ字)
などの表記体系で書かれたものをカタカナという別の表記体系に移し変える必要があり,
そのためには文字ではなく, 発音に従うしかないからであるが,
元の言語と日本語では音韻体系が異なるので,
正確に再現するのは困難である。
しかし,
求める精密さの程度によって表記が異なってしまうことも少なくないし,
なにより元の言語での発音を知っていなければ表記できないというのは大変不便である。口頭での表現についても同じことで,
例えばたった1語外国語を発するためにしても,
その負担は小さいものではない。
これらを解決するために,
いっそのことカタカナを廃止してはどうか,
と考えてみた。外国語は全部ローマ字のまま表記すればいい,
そうすればいちいち読み方を気にする必要はなくなる――正しい読み方についてくだくだと解説する必要もなくなる――と1度は思ったのだが,
しかしキリル文字やアラビア文字などのことも考えると,
どちらにしろ表記体系の変換が必要になってくる。結局は,
現在の原音主義一本槍ではなく,
ローマ字読みでも良いことにするぐらいのことが最も現実的な解決策なのかもしれない。
→スペイン語の読み方: 応用編
E-mail: torumca@yahoo.co.jp