ローマ字表記法について

このサイトの「Windows 98 の多国語サポート: キーボード」では、各国語のキーボードレイアウトを掲載するにあたり、そのページの性質上、アクセント記号などの発音区別符号 (diacritical mark) 付きの文字やその他の欧文用記号――ややこしいので以下、欧文文字/記号と呼ぶ――を多用している。
これらの欧文文字/記号は、西欧言語用の Latin-1 (ISO 8859-1) 文字セットには含まれているが、通常日本語と混在して表示させることはできない。
正確に言えば、文字参照を使えばそれが可能だが、バージョン4.x までの Netscape Navigator では日本語との混在がうまくできないため、普及状況などを考えると事実上使えない。徐々に浸透しつつある Unicode ならば混在の問題をすっきり解決することができ、いずれはこれを使って書きなおすことも考えてはいるが、とりあえず今回のところは採用しなかった。

そこで、日本語と欧文文字/記号との混在のために、それらのページの記述には Latin-1 文字セットを使用し、日本語の説明文はすべてローマ字で表記することにした。
表記法はいわゆる訓令式、具体的には1954年の内閣告示「ローマ字のつづり方」で第1表として挙げられていたものに従った。

しかし、上記告示の添え書きでは、「特殊な音の書き方は自由」とされており、外来語などに使われる音の書き表し方は定められていない。そこで以下では、訓令式では定められていない特殊な音の表記について、このサイトでの書き方と当該ページでの使用例を挙げる。あわせて、その他の特殊な音の表記法の一例について、筆者の考え――あくまで私案である。念のため――も示した。

なお、分かち書きについては、関連資料リストの文献やウェブサイトを参考にしたが、一部自己流のテキトー方式も含まれているので注意。

: Character reference。€ñ などのような形式で特定の文字を表す方法。これを「タグ」などと呼ぶ人もいるが、間違い。(…だよね?)

このサイトでの特殊な音のつづり方

その他の特殊な音のつづり方 (一例)

この私案の特徴は、ヘボン式を好む人が訓令式 (日本式も同様) では困る理由のひとつとして挙げる、後者の方式では書き表せない、もしくはつづりが容易に想像できない外来語音の表記に、' 記号 (アポストロフィー) を導入している点にある。

例えば「チ」に対する「ティ」の場合、ti と区別するため、t の文字の代わりになにかこれに似た別の文字を使うという考え方もある。t にもう1本横線の入った文字や、カロン (^ が逆さまになったもの) を上につけることなどが考えられ、実際これらの文字は Latin-2、4 や Unicode に入っている。しかし、現実的には現在の環境でも対応できるよう、新しい文字の導入などはできるだけないほうが望ましい。

また ATOK などの IME では、ローマ字入力の際に「ティ」に対して thi と入力させるように、h などの文字を使うことがある。しかしこれらは、すでに子音としての音価を持つ文字であることが多い。この h の場合はそれ自体がハ行の子音を表す文字でもあり、そういう文字がこの位置に現れる論理的な理由付けができないし、また、正統的な表記ではないが長音を表す文字として使われることもあり、紛らわしい。

そこで、' を「前の子音が硬口蓋化しないことを示す記号」として使うことを考えたわけだが、実は ' にはすでに与えられた別の機能があった。gen'in (原因)、ken'etu (検閲) などのように「ン」の音を次の母音から分離する役割を果たすものと、a' (あっ) などのような語末の促音を表す文字としてのものである。しかし、これら3つの機能が衝突することはまずないと判断し、問題ないものと考えて ' を採用した。
ただし、厳密な検証を行ったわけではないので、何か不都合な事態が生じることも考えられる。

なお、筆者が ' 記号を用いることを思いついたのは独力によるものだが、文部省大学学術局まとめ「学術用語の書き表し方」(関連資料リスト、武部良明<1979>参照) にもすでに t'i、t'u などの例が見られるとおり、特に独創的なアイディアというわけではなく、特異な表記法でもないようだ。

付記: 訓令式採用の背景ほか

ここで、いくつかある日本語のローマ字化方式のうち訓令式を採用したのは、これが日本語の音韻体系に最も適した表記法と考えるからである。

以前は、筆者にとってなじみの深いスペイン語や英語と比べて違和感の少ないことから、ヘボン式を好んでいたが、音韻論を少しかじるにつれ――といっても入門書をほんの少し、それこそかじっただけです――、ヘボン式支持者が主張する英語との親和性の高さなどは、日本語を表記するための文字としてのローマ字を考えた場合、問題にならないことを理解するに至り、訓令式を支持するようになった。

しかし、訓令式は公式には国家標準・国際標準の地位にあるとはいえ、現実社会では、いわばデファクト・スタンダードであるヘボン式に普及度の面で及ばない感がある。
現在の日本語の姿では、漢語由来の同音異義語が多いため、ローマ字の国字化は無理だろう。そうなるととうぶん、日本語の文章ではなく、固有名詞の表記にしかローマ字が利用されない――すなわち、外国人用の表示か、あるいは外国語の文章中に混ぜて使うような用途にほぼ限られる――状況が続くのは確実で、そんな現状では、「外国語 = 英語」と考えているような人々が、ヘボン式を使いたがるのも無理もないことだろう。

だが、筆者はそれでも別に構わないと考える。日本語の固有名詞の表記に限れば、訓令式とヘボン式が混在してもあまり混乱することはないからである。
しかし、もし将来ローマ字を国字として採用することがあれば、その時には訓令式によらなければならない。過去の経緯からいっても、まず訓令式が使われることになるだろうが、ヘボン式 (の人名など) にこだわる人のためには、固有名詞だけはヘボン式も認めることにすればよいように思う (人名などに残るオランダ語式旧正書法と、英語式の現行正書法が共存するインドネシア語の例もある。関連資料リスト、「国文学 解釈と鑑賞」参照)。

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