イ・ディクディクの「彼女」という曲を聴いた時、俺は「流行の曲しか知らない奴らがあまりに可愛そうだ」と切実に思った。絶対に日本人受けするメロディー。こんな埋もれた(好きな連中にとってはそうでもないが)名作がマイナーロックシーンにはゴロゴロしているのだ。その金鉱を掘ろうとしない大部分のリスナー達が不憫でならない。ただ新しいとか流行っている(半分はメディアが扇動しているのだが)ということだけで価値を見出す社会およびそれに従う群衆。与えられた水槽の中でのみ自分の好みを探し、水槽の外の池や海を見ない。というか見る手段がわからない。メディアにとっては都合の良い人々だ。メディアはちゃんと全てのカードを持ってはいるのだ。例えばBS2などは当時の洋楽ライブ映像やフェリーニの昔の映画などを放送している非常に稀有な番組だ。だがスポンサーで成り立っているその他の大部分のメディアはそうした良質なカードを積極的に差し出そうとしない。マイノリティーは金に結びつかないのだ。まあ、こうした議論は今に始まったことではないが。ただ昔の人々の方がまだ免疫があったという事だろう。社会主義に搾取されていた国々の人でさえ現状に疑問を抱いていたという点でまだましかも知れない。我々はメディアの使う言語や単語しか話さないし、知らないのだ。それ以外の言語を話そうとすると会話が成り立たなくなる。クリムゾン?ああジャンレノね。(クリムゾンリバーだろ)プログレ?ああ車ね。という具合だ(苦笑)。僕とユーロロックとの出会いは、79年から82年にかけてのキングレコードの「ユーロピアンロックコレクション」発売に伴うNHK−FMの特集放送だった。これがきっかけという人は結構多かったのではないかと思う。当時中学にはいったばかりだった僕はイギリスのおもだったプログレを一通り聞き終えたあとだった。ちょうど面白い物語を読み終えてその続きを知りたがっているという状況に似ていた。それから20年以上経つが、彼らのレコードがターンテーブルに乗る回数は相変わらず多い。

T.イタリア

PFM

ユーロロックの2大メジャーバンドと言えばPFMとフォーカスである。キングレコードコレクションの目的はマイナーバンドの再発掘だったから当然このふたつのバンドは含まれていない。すでに日本のメジャーなレコード会社によって発売されていたからだ。とは言うものの当時の町の貸レコード屋レベルではそう簡単にお目にかかれるようなシロモノでもなく、その存在を知るにはやはりNHK−FMのオンエアを待たねばならなかった。オンエア曲は“甦る世界”だった。その時はニュートロルスの印象の方が強く、PFMは初期クリムゾンの亜流くらいにしか感じられなかった。その後お茶の水にある国内最大の貸レコード屋ジャニスの存在を知ることになる。そこで初めて借りたレコードが『幻の映像』だった。当時のジャニスは明治大学側にあり、レコードを借りに行く道すがら通り過ぎる大学の校舎の持つ厳かな雰囲気が“ミスター9時から5時”のパイプオルガンの音に妙にマッチするのだった。それは同時に幼い頃通った教会のミサの想い出でもあった。
結果としてすべてのユーロロックバンドの中で一番頻繁に聴いた。それどころか今でも飽きが来ない。曲調がバラエティーに富んでいるうえに演奏技術も驚異的だ。聴く度に発見もある。クリムゾンの場合は聴かなくても音が頭の中に全て入ってしまっている感じだが、PFMの音は饒舌すぎて全て頭に入りきらないとでも言おうか。一般に全盛期を過ぎたと言われる75年以降がまた素晴らしい。特に『ライブインUSA』と『チョコレートキングス』はアレアからの移籍組が上手い具合にジャズロック的アプローチを従来の音にミックスさせており非常に聞きごたえがある。その代表曲が“残りの5時から9時”(USA)だろう。一方で初期の作品からはクラシカルな要素(“何処…何時…”など)も楽しめる。まさに名実ともにミスターイタリアンロックなのだ。

ニュートロルス

NHK−FMのユーロロック特集でかかった最初の1、2曲目が全てを決めたと言っても過言ではないだろう。『コンチェルトグロッソ』の“アレグロ”と“アダージョ”だ。これほど衝撃的なクラシックとロックの融合もないだろう。オザンナと共にもっともイタリア臭くかつ「キングレコード」のプロモーションの目玉として登場した彼ら。その忠実な信者となってしまった訳だ。当時町田ジョルナの3Fにはすみやがあった。いわゆるプログレ専門店ではなかったが発売開始から間もなかった『コンチェルトグロッソ』は比較的容易に入手できた。ちなみにB面のインプロヴィゼーションが好きになったのはそれから20年くらい経った最近のことだ。これだから音楽というのは面白い。『UT』と『アトミックシステム』はテープで所持している。“誰が知るか”(UT)などはイタリアの徳永英明と言えるくらい歌心あふれる曲だ。イタリアンロックの魅力のひとつにカンツォーネをベースにした切々と歌い上げるバラードがある。どんなバンドでも必ず1曲はこの手の美しいメロディーを持った曲を作っている。最後にベスト5を載せておいたので是非参考にしてほしい。

U イタリア以外のユーロロック

ユーロロックと言えば僕の中では圧倒的にイタリアなのだが、例外を少々。これもNHK−FMのオンエア曲になるのだがカナリオス(スペイン)の「四季」。実はこの曲がかかったのが番組のかなり後半だったのでエアチェックすることが出来ずかなり長い間‘片思い’状態だった。もちろん曲を聞いた時のインパクトは尋常ではなかった。これぞプログレと言うべき内容で帯に「アフロディティスチャイルドの“666”と同じくらいの衝撃」と書いてあったが「いや5倍くらいだろう」と勝手に思ってたものだ(笑)渋谷のハンターで見つけた時は正に‘ハンティング’の醍醐味を味わったわけだ。
それから‘農夫ゴドヴァン’をテーマにしたフランス・アンジュの3rd。ジェネシス風のダイナミックかつ叙情的な作品だ。フランス語の持つ独特の雰囲気も良く出ていて良い。ただ全体的にはやはりフランスならではの個性がないゆえに、この作品に続くものがなかなかないのも確かだ。ゴングなども好きは好きだがフランスという意識はほとんどない。むしろジャンミシェルジャールの「エスニカラー」のような路線のほうがらしかったりする。ドイツについても然り。プログレ然とした作品よりもプロパガンダのようなポップなバンドのほうがお国柄が出ているような感じがして好きだ。ちなみに“マブーセ”は名曲だと思う。
最後にふれておかねばならないのがやはりオランダのフォーカスだろう。“悪魔の呪文”や“アノニマス”からはエドガーウィンターグループに代表されるちょっと個性の強いアメリカンロックという印象のほうが強くそこにユーロロック臭さはない。だが何と言ってもやはりアッカーマンのメロディアスかつダイナミックなGの音色が個人的にはとても好きだ。『ハンバーガーコンチェルト』に収められている“バーズ”なども素晴らしい。

V イタリアンロックアルバムベスト5

@「受難劇」/ラッテ・エ・ミエーレ
A「クラック!」/アレア
B「幻の映像」/PFM
C「YS」/イル・バレット・ディ・ブロンゾ
D「パラスポルト」/イ・プー

W カンツォーネロック名曲ベスト5

@“イル・パヴォーネ”(〜「ドネラ・デル・モナコ」)/オパス・アヴァントラ
A“パドレ”/レアーレ・アカデミア・ムジカ
B“カンツォーネ”(〜「ミラノ・カリブロ9」/オザンナ
C“美しい世界”(〜「アトミック・システム」)/ニュー・トロルス
D“メジタジョーネ”(〜「シリル2222」/イル・バレット・ディ・ブロンゾ

 

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