真夏の雨





ムッとするような熱気の中、硝煙が遠く陽炎のように揺れる。
血の色をした真っ赤な太陽が、大地の果てに沈んでいく。

長く続いた戦闘の終わりに、誰もが疲れ果てていた。


ジョーはじっと太陽を見つめたまま、身じろぎもしない。黄色いマフラーが風にはためいた。
私は後ろから、そっと声をかける。


「ジョー…….」

ピクリとする背中。


「あの… ありがとう……あなたのお陰で助かったわ……」

ジョーはじっと前を向いたまま、何も言わない。


果てしなく続く沈黙に耐えきれず、私が何か言おうとしたとき、ふいにジョーが口を開いた。


「フランソワーズ…約束してくれないか…?」

「え?」

「…もう二度と…あんなことはしないって…」


振り向いたジョーの透明な哀しみを湛えた瞳に、私の心臓がズキンと音を立てる。


「お願いだから…自分を犠牲にして、僕を助けようなんて思わないで…」



私を真っ直ぐに見つめる、どこまでも深い茶色の瞳。
その痛いほど真っ直ぐな視線に耐えきれず、私は思わず目を逸らした。


「あのとき、心臓が止まるかと思った。加速装置がなかったら、絶対に間に合わなかった」

「もしも君を失くしたら、僕は…僕は…生きていけない…」


私は思わず顔を上げた。

苦しげに顔を歪め、唇を噛んで体を背けるジョー。

夕闇が辺りを包み、いつの間にか降り始めた雨が、細かな霧のようにじっとりと体を濡らしていく。



この人を好きになっちゃいけない。

どこかからか声がした。


分かってる。分かってるの。

だけど、その声に逆らうように、私の思いは止まらない。


「私だって…あなたを失くしたくない…」


そっと震える手を伸ばす。
そして彼をそっと後ろから抱きしめると、その広い背中に顔を埋めた。


「だって…私はあなたを愛しているから…」


背中がびくんと大きく揺れた。
そしてゆっくりと振り返り、驚きに見開かれたような瞳で私を見つめる。



そう、認めたくなかった。
いや、認めてはいけないと思っていた。

彼は本気で誰かに愛されたことも、誰かを愛したこともない。

どこか苦しげで、いつも何かを求めてやまない茶色の瞳。
この瞳を、私はどうしようもなく愛してしまったのだと。


「フラ.ン…ソワーズ……?」

少しかすれたような声。

「……本当に?」

驚きで飽和した瞳が私の瞳の奥を覗き込んだ後、まるで突き上げる何かを抑えるかのように、その表情が苦しげに歪む。


彼の右手がぎこちなく動いてそっと私の頬に触れ、そのまま時が止まったかのように見つめあう。
私は、その茶色の瞳に吸い込まれるかような錯覚を覚え、静かに目を閉じた。


吐息と吐息が触れ合う。

彼の震える唇が私の唇に触れた。
瞬間、微かな電流が体を走る。

ピクリとしてほんの一瞬離れた唇は、再び互いを求め合うかの様に触れ合い、深く重なり合った。
強く、深く、互いの存在を確かめ合うように。


離れられない。

離したくない。


降り続く真夏の雨が、重なり合う2人の影を濡らしていく。


頬を濡らす雫は雨じゃなく、もしかしたら私は泣いていたのかもしれない。
初めて重ねた唇は、ほんの少しだけ、涙の味がした。



Fin.











SSなるものを書き始めた随分と最初の頃に手をつけた作品だったのですが、なぜか他のにネタをもっていかれ(笑)、止まったままになっていました。今回書き始めたら、どういうわけかさくっと終わりまで書き上げてしまったものです。
大して内容はないんですけど(爆)、私の思い描く93の基本形のような感じなのです(照)。
またまたこんなではありますが、お読み頂きましてどうもありがとうございました(御礼)。

Aug.21, 2004 あこ





またまた素敵なSSをいただいてしまいました〜♪ さすが、あこさん。 萌え所の押さえは完璧です。 ジョーとフランの間には、悲しいことに、つらく厳しい闘いの日々が横たわっているわけで……だからこそ「愛してる」という言葉に切実な重みが出てくるんでしょうね。 でもでも。 きっと二人は強い強い愛を育んでいくんだろう、と私は信じています。 雨のそぼ降る中抱き合う二人の姿が目に浮かんでくて……ああ、いい! あこさん、どうもありがとうございました。
Aug.28.2004