Jealous Days

(4)

その夕刻、気落ちしてアパルトマンに帰ってきたジョーを迎えたのはジェットからの定期連絡だった。
やはり成果は芳しくないようで、ドイツでもBGの足取りは未だつかめていないとのことだった。


「ーうん。わかったよジェット。ギルモア博士にはそう伝えておくから。」
心ここにあらずと言う感じで応答する様子に、ジェットも変だと思ったのだろう、ジョーに問いかけてきた。
「おいジョー、なんか様子が変じゃないか。何かあったのか?」
普段のジョーだったら、恋愛の悩みなんかは絶対に相談なんかはしなかっただろう。
しかし、今のジョーはわらにもすがりたい気分だったのだ。
よりにもよって、ジェットにまで相談してしまったほどに。
「ああ。ジェット、君ならどう思うー」
その後、ことの経緯をジョーから全て聞いたジェットは、容赦なく言い切っていた。
「そりゃぁ、お前が全面的に悪いだろ、ジョー。」
「なんでだよ。」
予想外の言葉にジョーの語気が荒くなる。
そんなジョーの様子を電話越しに感じ取って、ジェットがからかいたげに言葉を続けた。
「そんなの、お前がいつまでも煮え切らない態度でいたからだろ。それでフランもお前の事が嫌になったんじゃないのか?やっぱり押すべき所では押していかないとな。
パリっ子は強引だったろう。そいつらの事を見てフランの奴、お前の事が物足りなくなったんじゃねぇの?」
笑いながらこう言うジェットの言葉に、思い当たるものが無いわけじゃなかった。
(どっかの誰かさんは私のことなんてどうでもいいやって思っているみたいだし……)
さっきのフランソワーズの言葉が脳裏によみがえってきて、ジョーはそのまま押し黙ってしまった。
電話口で黙りこんでしまったジョーの様子に、さすがのジェットも言いすぎたと思ったのか、慌てて言葉を付け足していた。
「まぁ、喧嘩するほど仲がいいって言うからな。大丈夫だろ。ほとぼりが冷めれば元通りになってるさ。じゃぁ、また連絡入れるからな。博士とイワンに宜しくな。」
そして、ジェットは一方的に通信を切ってしまった。
後には途方にくれたジョーがただ一人取り残されていた。


明けて翌日、ジョーはアパルトマンの自室で一人悶々としていた。
(フラン、今頃ジョナサンとかいう奴とデートしているんだろうな。二人で何してるんだろう。パリの町並みを散策?それとも美術館鑑賞?
まさか、セーヌ川のほとりなんかで二人っきりでー!?)
ジョーの頭の中では想像がーそれは妄想とも言ったーどんどん膨らんで行き、それに押しつぶされそうになっていた。
(もう我慢できない!!)
ジョーはジャケットを手に取ると、そのままの勢いで部屋を飛び出していた。


加速装置を駆使してパリの街中を駆け回る。
その目的はBGの探索などでは決して無く、ただ愛しい彼女の姿を追い求め。
そのジョーの必死の様子が哀れみを誘ったのか、神様は彼に微笑んで見せたー
何か所か立ち寄った後、パリの街中のカフェにいるフランソワーズとジョナサンの姿をジョーは見つける事が出来たのだ。


二人から離れた席ーかつ、二人の様子がしっかりと確認できる席にー陣取ったジョーは、注文を聞きに来た店員にそっけなく「コーヒーを。」と告げると、 その視線を二人に固定するのだった。
仲良さげに会話を楽しんでいるフランソワーズとジョナサンの様子に、ジョーは落ち着かないものを感じていた。
(僕と話している時のフランはあんなに楽しそうだったかな?)
今までの事を思い返してみても、自信がなくなる一方だった。
(フランの奴、お前の事が物足りなくなったんじゃねぇの?)
昨日のジェットの言葉が突き刺さる。
(そうなんだろうか。フラン、君はもう僕のことは嫌になった?)
時折顔を寄せ合って、なにやら囁き合っているフランソワーズとジョナサン。
その二人の様子は、ジョーのこの考えを確実に裏付けているように思われて。
いたたまれなくなったジョーは、コーヒーが来るのも待たずに、そのカフェを後にするのだった。


ジョーがカフェから立ち去る少し前のこと、フランソワーズは彼のことに気づいていた。
(えっ、ジョー?どうしてここに?)
昨日から喧嘩したままで、今日ここに来る事は彼には教えていなかったのに。
それなのに自分の目の前にいるジョーの姿に。
ジョナサンと会話しながらも、フランソワーズはジョーから意識をそらせずにいた。
(ジョー、あなたはきっとパリの街中を探してくれたのでしょう、私のことを。それこそ加速装置なんかも使っちゃったかしら。
もう、BGの事はどうなっているの?そっちの方が大事でしょうに。)
自然と笑みがこぼれてくる。
何だか心が温かくなってきて。
もう、自分が何でジョーのことを怒っていたのか、そんな事はもうどうでもいいように思われてきた。
(そうね。ジョーが言葉で示してくれるわけ無かったんだわ。本当、厄介な性格よね。シャイなのにも程があるってものよ。)


突然くすくす笑い出したフランソワーズの様子に、怪訝そうにジョナサンが声をかけた。
「フランソワーズさん、どうかしましたか?」
そんなジョナサンにフランソワーズは申し訳なさそうに告げた。
「いいえ、なんでもないんです。ジョナサンさん、ごめんなさい。私、もう行かないと。」
「えっ、何ですって?」
突然こう言われて問い返すジョナサンにはお構い無しに、フランソワーズはもう席を立っていた。
「本当にごめんなさい。」
ジョナサンに頭を下げて謝ったフランソワーズは、そのままカフェから飛び出していた。
先に歩いて行ったはずのジョーの姿を追いかけて。








                                          TO BE CONTINUE